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追加閑話

コンプレックスゆえの

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「まあ、俺も同じようにアイリのことを利用したからかな。馬鹿だからっていうのも否定できないけど」

 俺の言葉を聞いてアイリはそんなことは一切知らなかったとばかりに驚愕の表情を浮かべた。

「どういうこと?」
「あの時の俺は本当にあいつとの婚約を破棄したかったんだ。そんな時にアイリがあいつとの婚約を破棄する手段を持ってきて、俺はそれを利用したんだ」

 レイアは俺のたった1つ歳が上だけにも関わらず、魔法の腕は同年代どころか軍の魔法騎士並みで学校での成績も優秀。そして貴族の作法も問題なくこなす。本当に平民出身だったのかと、問いたくなる存在だった。まあ、学校の成績に関しては、魔法の実技以外は最上位というわけではなかったみたいだが。

 婚約した当初は別に嫌ではなかった。あいつは割と見た目はよかったし、兄たちに比べ何かにつけて劣っていた俺にも普通に接してきてくれたのは、俺の周囲ではあいつだけだったのもある。
しかし、あいつが魔法使いとして頭角を現していくと同時に、周囲の俺に対するあたりが一気に強くなっていった。

 そのころになれば、隣に立たれると周囲から嫌でも比較されるようになっていた。
 そのせいで元平民に劣っている王族に価値はないとか、立場に胡坐をかいて努力していないとか、出来損ないなんてことも、本当にいろいろ言われ続けた。
 本当にレイアと一緒にいると、俺は何もできない存在だと周囲から言われているようでみじめで仕方なかったのだ。

 そんな中でアイリは、俺とレイアと婚約を破棄するための話を持ってきてくれたのだ。そんな話に乗らないわけがない。当時の俺はアイリのことを救いの女神のような存在だと思っていたのだ。
 まあ、そのあと結構わがままな女の子だというのはすぐにわかったんだけど。

「それってつまり、要は私もデリウスにいいように使われていたってこと?」
「うん。まあ…そうだね」

 と言っても、ほとんど俺がアイリに使われていたようなものだったけどな。何かにつけて俺のことを先頭に立たせて、レイアに対して悪態をつかせていたわけだし。

「そう」

 アイリは小さくそう言葉をもらすと何か腑に落ちたような、どこか納得した表情をした。

「どおりで最初から対して面識のなかった私の言うことに乗ってきたわけね。ということは私がいいように使っていると思っていたのは間違いで、実際は逆だったということなのね」
「いやそうじゃなくて、俺とアイリは互いに利用しあっていたってことだよ」

 そう言って急に落ち込み始めたアイリに対してすぐに否定の言葉をかける。しかし、いつもならこんなことを言うことはないのだけど、今日はどうしたのか。
 
「そう、ね」

 いつも以上に不安定な感じのアイリに少し不安になるが、昨日のことを考えるとまだ気持ちが安定していないのかもしれないと思い至る。

 そもそも、俺と違って大きな怪我をしたアイリにとって昨日の出来事はそう簡単に忘れられるものではないだろう。俺だって今思い出しただけでも嫌な気持ちになるのだから、アイリならなおさらだ。

 それを考えると、さっきの言葉は本当に迂闊な発言だった。俺は本当に考えが足りない。これからはもう少し考えてから発言するようにしなければ。
 そうなると、今の状況はアイリにとってはあまりよくないはずだ。

「まあ、あれだよね。お互い様ってことだよね。あ、そういえば俺の分の食べ物ってまだ余ってる?」

 別の話題に変えるためにちょっと強引に食事の話を始めようとすると、アイリは一瞬驚いたかのように目を見開いた後、少しして呆れたように息をついた。

「やっぱりあなたは馬鹿ね」
「えぇ?」

 それはあんまりじゃないかなぁと、そんなことを思いながら、先ほどよりも少しだけ明るい表情をしたアイリを見て少しだけ俺は安堵した。



 ―――――
 次話で完結となります
 
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