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これから貴方と過ごす場所
不意打ち
しおりを挟むこちらからも元王子の姿が確認できなくなったところで辺境伯が叫び出した。
「あああああああ! どうしてこうも、計画通りに進まない! この日までどれだけ計画を練ったというのに、あいつらも碌な事をする前に居なくなる! 私が何のためにあいつらを匿っていたと思っているんだああ!」
辺境伯が怒りのあまり頭を掻き毟る。余程うっぷんが溜まっているのか、私が見ているにも関わらず、乱れる髪を気にしている様子はない。
「元はといえばお前がこんなものを作っていたからだ! これさえなければ既により多くの被害を広められたというのに! これではあの王を引き摺り下ろすには規模が小さ過ぎる!」
こう、どうして貴族には気が短いと言うか、沸点が低いのが多いのだろうか。……いえ、馬鹿だからこそ、こうなのかしら?
まぁただ、これで辺境伯がどうして人工的にスタンピードを引き起こしたのかがわかった。
うん、これはあれね。国王に対しての逆恨みでしょうね。
今までの言動からして、辺境伯はバリバリの貴族主義の人みたいだし、王宮から追放されてこんなことをしているのだから無駄に貴族としての誇りが高かったのでしょうね。
ただ、元王子との繋がりを考えると結構前から王宮の乗っ取りくらいは考えていたのかもしれないけど、今こうなっているということは最初からあの国王にはバレていたみたいね。
「おい、私をあちらへ運べ!」
辺境伯が一緒に来た大きい犬型の魔物に命令を出す。それを受けて、その魔物は辺境伯をくわえてこちら側に跳躍して来た。
さすがに体長5メートル近くになればこの程度の堀は余裕で越えられるわよね。でも、くわえられながら堀を超えて来る光景って結構滑稽よね? 本人がほとんど気にしていないのもまたそれを助長しているし。
でも、魔法を使ってこちらに来ないということは、アイリと同じように魔物から攻撃されないよう魔道具を使っていたようね。ただ、こちら側に来てしまえばその魔道具を使う必要はないし、これからは魔法による攻撃が来ると思って間違いないわ。
「死ねぇっ!」
辺境伯は魔物に離して貰ってからすぐに私に向かって火球の魔法を放ってきた。
魔法速度が遅い。あれだけアイリの事を見下していたのに、これが全力だというのならアイリの方が魔法の扱いは優れていたのだけど。
あと、話に入って来ないから完全に空気に成りかけているけれど、ロイドが居ることに気付いているのかしら?
とりあえず、火球を避ける。大して速度が速くないので避けるのは簡単だった。ただ、あっさり避けられたことが余程気に入れないのか、辺境伯はさらに魔法を放とうとしているようだ。
「避けるなぁ!」
「わざわざこんな攻撃当たるわけないだろう? 馬鹿か?」
「あ? ふごぇっ!?」
少しずつ辺境伯の背後へ移動していたロイドの存在に今まで気付いていなかったのか、後ろから声を掛けられたことで辺境伯は後ろに振り向きつつ驚きの声を上げる。それと同時にロイドからの不意打ちを諸に受けて、辺境伯は受け身を取ることも出来ず顔面から地面に突っ伏した。
すぐに起き上がって来ると思ったらどうもロイドの一撃だけで気絶してしまったらしく、一向に動く気配がない。
「え?! 弱っ。あ、ロイド。ご苦労様」
別に思い切り攻撃したとかそんな感じでもなかったのに、あっさり辺境伯が倒れたことで拍子抜けなのだけど。まあ、とりあえずこれで元凶と思われる人物は確保できそうだからいいけど。
後はその元凶と一緒にこちら側に来た魔物なのだけど、こいつはどうすればいいのかしらね? 辺境伯が気絶しても一切動く気配がないし、よく見れば目に生気がほとんど感じられない。
「そいつは」
「わからないわね」
今は動く気配がないけれど、だからといって放っておくことも出来ない。殺してしまうのが一番楽で簡単で良いのだけど、こちらに攻撃を仕掛けて来ない相手を無駄に殺すのはあまり気持ちが進まない。
「とりあえずロイドはその人を逃げられないようにしておいて」
「わかったけど、どうするんだ?」
「ロープか何かで拘束して、重要参考人として国王に受け渡す感じね。たぶん国王は元から犯人はわかっていたようだし」
あの国王の事だから、この結末も何となく察して良そうなのよね。
さすがに辺境伯が自白しているとは思っていないでしょうけれど、もう今回の証拠とかは集め終わっているでしょうし。
辺境伯はこの後、一旦ギルド辺りに持っていくとして、この魔物はどうすればいいのかしらね?
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2,017
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