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貴方と共に歩むには

閑話 自業自得

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 馬鹿騎士視点

 ―――――

 
 いつものつまらない見回りの最中、たまたまあの落ちこぼれロイドを見つけて、その近くに居た女を構ってやろうとしただけなのにどうしてこんなことになっているのか。
 
 貴族の俺が平民の女を構ってやるのだから名誉なことだろう? それなのに断って来るとかどれだけ平民という下賎の存在の癖に自分の立場が分かっていないのか。
 それをわからせてやろうとしただけで、どうして処分を受けなければならない?

 しかし、どうして俺があんな平民相手に下手に出なければならない?

 ふざけている。

 隊長もその上の者もどうしてあんな奴の事を腫物のように扱う?

 一発殴ってやれば気付くはずだ。自分が下賎の者だということに。今までもそうだったのだから、何の問題がある?
 何故、今まで通りの事をしているにも拘らず、こんなことになっているんだ?


「今後、騎士団の方針に従わない者は強制的に順位を落とす。それは隊長格であっても同じだ。当然俺だって、騎士団長だとしても同じような処分になる。これは騎士団で決められたことではあるが、国王陛下からの直接の命令でもある」

 どうして陛下は、このような決定をしたのだ。どう考えても平民なんて魔法も使えないくせに数は多いのだから、守る必要があるほどの価値はないだろうに。

「今回問題を起こした隊に所属している者は全員処分対象になる。処分の程度に差はあるが受け入れるように」

 俺が受けた処分は見習いへの降格。他の隊員も同じような感じのようだが、何故か俺とあの時俺を庇おうとしてくれた先輩騎士だけが見習いまで降格させられた。
 隊長も同じように降格処分を言い渡されていたが、隊長の家は伯爵家だおそらくその処分は一時的なものだろう。俺の家も子爵家でなければこんな処分を受けなくても良かったのかもしれない。
 
 何故ここまで重い処分を受けなければならないのか。

 ああ、そうだ。あいつの所為だ。魔法も碌に使えないくせに侯爵家出身であるロイドがあんな女なんかを連れていたからこんなことになったのだ。今度見かけたらただじゃおかねぇ。あの女諸共2度と俺に逆らえないようにしてやる。

 いや、今度会ったらじゃないな。俺自ら行ってやらないとな。あいつらが誰に逆らったのかを知らしめるためにも、他の日和っている騎士たちにも平民など庇う意味なんて無いとわかるようにしなければならない。

 そうと決まれば、明日にでも会いに行ってやろう。いつまでもこのままというのも良くないしな。

 会議というなの反省会兼見せしめ会も終わり、俺が所属していた隊に居た騎士以外がこの場を離れていく。

 俺もさっさとこの場を離れてあいつらの所に行かなければならないんだが、早く終わって欲しいところだ。

「今回のお前たちの行動について、国王陛下は大変お怒りだ。このようにすぐさま騎士団全体に対して強制命令を出すほどにな。お前たちはそのことについて理解しているのか?」

 どうしてなのか、騎士団長がこの場に留まりさらなるお小言が始まった。おそらく騎士団全体の責任を問われて、裏で処罰でも受けたのだろう。その当てつけ的なものだろう。

 そこからは団長によって個別で一言二言個別に圧を掛けながら反省するように言葉が欠けられていく。何故か俺の順番が最後になっているが、すぐに終わりそうなので無理に抵抗するつもりはない。

「お前は残れ」

 最後に俺の番となったのだが、団長はすぐにお叱りの言葉を発しなかった。それどころか、この場に留まるよう指示を出してきた。

 なぜ、どうして俺だけが残らなければならない? ロイドの所為で不要な処罰を受けたというのに、まだここに留まらなければならないのか。

 しばらくこの場で待機していると、ぞろぞろと秘書官などを引き連れた陛下が折れの前にやってきた。
 どうしてこんな場所に陛下が、そう思っている内にも、この場の雰囲気が整えられていく。団長も陛下の横に位置取り、俺の前に立った。

「お前の本来の処分内容を告げる」
「本来の…?」

 どういうことだ? 先ほど団長から告げられたのが俺に対しての処分内容ではなかったのか? それに何故この場に国王陛下がおられるのか。

「今回の件について、王宮でも重大な要件としてとらえられている。件の令嬢について、自身の立場を先に告げていなかったため、それについては情状酌量の余地は少なからずある。しかし、お主は他にも多くの問題を起こしているという報告が上がっている。本当に目も当てられない程にな」

 俺が何かをやったという記憶はない。まさかあのクソ女が嘘でもでっち上げたのではないだろうな。

「失礼ですが陛下。私は問題を起こしたという記憶はございません。それは何者かによる虚偽の可能性があります」
「ふん。なるほどこのような者だったか。確かにこのような者はどうにもならんな。残しておいても害にしかならぬようだ」
「は?」

 俺の言葉を聞いた陛下は、すぐに俺が平民を見るような視線で俺の事を睨んで来た。しかし、その視線はすぐに呆れたようなものに変わった。

「自分の目の前を通りかかったというだけで平民に切りかかる。たまたま目に入った女性に対して見た目が気に入ったと言い手を出す。そしてその女性はそれ以降帰ってくることはなかった。騎士団の名を使って、屋台で販売していた飲食物を徴収、強奪。他にも、本当に短時間で調べたにも関わらず、あれもこれもと数えきれないと思えるほどに其方がしでかした犯罪が出て来る」

 相手が平民であれば何の問題も無いと思うが、何故そんなことが犯罪と言われているのか。理解が出来ない。

「平民相手でしょう? そんなことを気にする必要はないと思いますが」
「お前は先ほどの話を聞いていなかったのか? あれほど強く行ったというのに、どうしてそんなことを陛下の前で言うのか」
「もうよい。これ以上話を聞く意味などないだろう」
「そうですね」

 陛下の後ろに控えていた秘書官がスッと前に出て来ると、俺に対して何かの書類を渡してきた。その書類に書かれていた内容は、俺に対する処罰の内容。
 その書かれている内容を見て、すぐに頭の中が急速に冷えていく。

「こ、これは」

 理解できない内容。信じられない処罰の内容に俺は口を震わせながら辛うじてそう問うことが出来た。

「お前に対する処罰の内容は、その書類に書かれた通りの内容だ。声に出して読んで見ろ」

 陛下から底冷えしそうなほどに冷酷な声が折れに掛けられる。
 嘘だ。嘘だ! これは何かの間違いに違いない。俺がこの場で処刑されるなんてのはあり得ない。何かの間違いだ。

「これは何かの間違ー」
「書類すら読めぬのか。もうよいやれ」

 陛下の声に従い、いつの間にか俺の横まで来ていた見たことのない兵士が俺に向かって剣を振り下ろしてくる。

「待ってくだー」

 待ってくれ、そう言い切る前に俺へ向かって振り下ろされた剣が俺の体に食い込む。信じられない程の痛みがジワリと俺の意識を奪いに来る。
 止めてくれ。俺はまだ死にたくはない。

「ぐ…ぁ」
「既にお前の家には通告を出し、その返事も届いている。今回の処罰についてお前の両親からは許諾を得ている。そしてありがたく思え。そのお陰でお前は犯罪者として処刑されたのではなく、殉職扱いになるのだからな」

 父さんが許可を出…しただって?

 嘘だ……。
 

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