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本編 転生したら婚約破棄され負け確定!? 死にたくないので王国を乗っ取らせていただきます!

3・アルファリム皇国にてー4: 皇国での生活も終わり、実家へ帰る

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 皇子の執務室の前まで来た。そこでメイドが持っていた飲み物が乗ったトレイを受け取る。……なんで2つもコップが載っているのかしらね? 

 トレイを渡してきたメイドを見つめるとほんの少しだけ強張った笑みを浮かべている。ついでにデュレンを見るとさっき見たものと同じ笑みを浮かべていた。ああ、デュレンの指示と言うことか。何がしたいのかしらね? と言うか勝手にやっているのかしら? それとも誰かから指示を受けているのかしら。まさかお父様からの指示ではないでしょうね? もしくは皇とか? まあ、聞いたところで教えてくれそうもないから、気にしても仕方がないわね。

「皇子。お飲み物をお持ちしました」
「ああ、入ってくれ」

 執務室のドアの前で中に居る皇子にメイドが声を掛けた。すると直ぐに中から皇子の返答があったので、そのままドアを開けて私だけ中に入って行く。出来れば名メイドも一緒に入って欲しいところだけれど何人も中に入るのは良くないと諭された。

 執務室の中はそこまで広くはなかった。物の配置とかはお父様の執務室とは異なるけれど雰囲気は似たような感じがする。まあ、執務室なのだから似たような感じになるのは当たり前なのだけれど。

 オルセア皇子は書類を見ているらしく入って来た人物が私だとは気づいていないようね。ちょっとだけ立ち止まって皇子の様子を観察する。
 美男子の執務風景はやっぱり映えるわね。何だろう、真剣な表情で書類を見たり書き込んだりしている姿を見ていると、胸の奥がじんわり暖かくなっていく。っと、変に思われる前に飲み物を運ばないとね。

 執務の邪魔をしない様に音を立てないように注意してトレイを持って執務机に近づいて行く。そして、私が執務机の前まで来た時にオルセア皇子が顔を上げた。

「ああ、ありが…とう? え、何でミリアさんがここに?」
「メイド…いえ、デュレンに皇子に飲み物を運んでみないか、と提案されまして。ちょうど時間もありましたから、このように」

 何か悪戯が成功したみたいな感じね。オルセア皇子の戸惑った表情を見られて嬉しく感じるわ。もしかして皇子が私にちょっかいを掛けて来る時もこんな感じなのかしら?

「ああ、なるほど。そう言うことか」
「そう言うことです。どうぞ」

 皇子に飲み物が入ったコップを渡す。そう言えばこの後どうすればいいのかしら。何も聞いていないのだけれど、空になっているコップを回収して部屋を出ればいいのかしらね?

「もう1つ飲み物があるようだけど、それはミリアさんの分なのかな?」
「多分そうなのだと思います。私はこれについて全く聞かされていないのですけれどね」
「一緒に渡されたと言うことはここで飲むようにと言うことだろう?」
「まあ、そうでしょうけれど、邪魔をする訳にもいきませんし」

 計画が纏まって、それに対しての物資の融通とかの調整で忙しそうだから、本当に邪魔だけはしたくないのだけれど。

「いいさ。ちょうど切りの良い所だから休憩にするさ。その間の話し相手になってくれるとなお良いのだけどね」
「わかりました。皇子の休憩中、少しの間だけ話し相手になりましょう」

 うーん。見ていた限り切りの良い所って感じではなかったのだけど、皇子が良いと言うのだから良いのかしらね? 
 そうして少しの間、皇子と他愛ない話しをしてから執務室を後にした。




「あら、皇子お疲れ様です。今戻られたのですか?」

 皇子の執務室に初めてお邪魔してから数日。夕食に呼ばれたので屋敷のホールを通ってダイニングに向かう途中、軍の準備で外に出ていた皇子がちょうど帰って来た場面に遭遇した。

「ん? ああ、ありがとう。そうだね。今戻ってきた所だ」

 ダイニングに向かうのを一旦やめて皇子の元へ向かう。

「今、ちょうど夕飯に呼ばれたのですけれど、皇子はどうされますか?」

 少し疲れた表情をしているから時間を置いてから夕飯を食べるかもしれないけれど、ここのところ一緒に食べているから一人で食べると何か味気なく感じるのよね。前はそうでもなかったのだけど。
 ん? 意図してないけど、皇子の帰りを出迎えて後の予定を聞くって何か、夫が帰って来るのを待っていた新妻みたいな感じなのでは? 何か皇子も嬉しそうに対応しているから余計にそう感じるし。
 そう思うと一気に恥ずかしさが募り、顔が熱くなっていった。たぶん私の顔は今かなり朱くなっていると思う。

「ふふ、出来るなら一緒に食べたいね。少し待つことになると思うけど大丈夫かな?」

 流れるように皇子の手が私の頬を撫でる。最近よく撫でられるようになっていたので慣れ、と言うか全く嫌だと思わなくなっているから直ぐに反応出来ないのよね。いや、婚約もしていない男女が気軽に良くないから! この世界、その辺りの常識って結構厳しめなのよ!?

「ぇあ、ではそのことはメイドに伝えておきますので! 先に行って待っていますね!」

 恥ずかしさから私は皇子にそう言って脱兎のごとく逃げ出した。


 恥ずかしさで半分くらいしか味がわからなかった夕飯も終えて、食後の紅茶を飲んでいる。さすがに食べ終える頃には恥ずかしさは無くなっていたのでいつも通りのゆっくりとした雰囲気で過ごしていると、皇子が手にしていたコップをテーブルに置いてから私の方を見つめて来た。

「そうだ、ミリアさん。今日やっと進軍の準備が整ったんだ。私は2日後にまた前線基地の方に出向くことになるのだけれど、その時にミリアさんも一緒に行くと言うので大丈夫かな?」
「そうですか。私は問題ないです。元より荷物は少ないので直ぐに移動となっても大丈夫なようにしていますので」
「そうか、わかった」

 ここでの生活も、もうすぐ終わりかぁ。まあ、計画のために来ているのだから何れ終わるのはわかっていたし、仕方がないのは理解している。
 でも何かしらね。もやもやするわ。たぶん終わらせたくないってことなのだろうけど、どうしてそう思うのかしら。
 ……ああ、もしかしたら私はオルセア皇子と一緒の生活が終わるのが嫌なのかもしれない。何だかんだ2か月くらい同じ屋敷で生活して、最近だと一緒の部屋に居ることも多かったし、この世界に来てまだそれほど経っていないから、たぶん私の中でこの生活が当たり前に成りかけていた。
 それに、これが終われば皇子と一緒に過ごすことは無くなるだろうから。
 

 夕食を食べ終えると、そのまま借りている部屋に戻った。
 どうやら皇子はあの話の後に私の雰囲気が少なからず変わったことに気付いているらしく、大事を取って部屋で休むように言ってきた。優しいと思うけど、あからさまに私の雰囲気が変わったからそう言われてもおかしくは無いわね。あれを見た皇子がどう思っているのかが気になるけれど、今更どうこうしても時間はないのだ。

 皇子は私と婚約したいとか言っていたけれど、侵略した後がどうあれ私は傍から見れば売国した人間だ。皇子が王に成ろうがなるまいが、少なくとも重要な立場にはなるはずだ。そんな人物が売国した人物と一緒に居るのはどう考えても良い印象を持たれない。だから、これが終わった後は何処かに消えた方がいい…って、これだと私は結局死ぬことになるのでは?

 自殺ルートに進まないように始めた計画だけど、このまま進めて行くと結局死ぬことになりそう。ああ、バッドエンドルートでは描写の必要が無いってだけで、ミリアは死んでいる可能性もあったわね。でも、出来れば生き延びたいところだけど、どうしたものかしらね。

 まあ、結局のところそれが出来るのは、ほとぼりが冷めるまで他国で静かに暮らすか、皇子と一緒になるかなのだけれど。ただ、他国に行ったとしてもそれを探し出そうとする輩は少なからず出るだろうから、確実とは言えないわね。
 皇子の方は、たぶん受け入れてくれるだろうけど迷惑はかけたくないし、そもそもそんな打算を持った状態で一緒に居たくない。

 やっぱり私は事が済んだら消えた方が良いのかもしれないわね。
 私はそう結論付けてその日は就寝した。

 そして、それから前線基地に行くまでの間は皇子とは会うこともなく過ごし、移動の日を迎えた。

 移動に使う馬車は皇都に来るときに使った物と同じもののようで、乗っている人も同じ。私の向かい側には皇子が座っているけど、来た時ほど浮かれた様子は無い。これから侵略を始めるのだから当然だけど。
 かく言う私も来た時とは違う。まあ、これから侵略するからではなく、もうあの生活には戻れないからと言うのが大きいのだけれど。それを意識してからはそれまで感じていた充実感と言うかわくわくするような感じは一切なくなって、何をやってもつまらないしやる気も出なくなった。

 まあ、私が計画を持ってきたのだからことが終わるまではしっかりやらないと。終わらせた先のことを考えるよりも目先のことを優先しないとね。
 さあ、後少し頑張りましょうか。



 前線基地では着々と侵略の準備が進んでいる。私たちがここに到着してから次々と後から軍人が集まっていており、最初に来た時に比べて基地の範囲は数倍に膨らんでいる。さすがに多くの軍人を長時間一か所に留めておくには費用が嵩むため、予定通り準備が整い次第侵略を始めることになっている。

 そして、私は今から公爵家に戻りベルテンス王国内の予定を確認した後、国内の反乱軍の指揮をしながらアルファリム皇国軍の合流することになっている。
 指揮をすると言っても戦いの中で指揮をするのではなく、オルセア皇子が率いるベルテンス王国城突入組と合流して城の中に入り、中に居る人たちを制圧することが目的であって私が直接戦うことはない…と思う。一応防具は着ていくけど、さすがに訓練している兵士とかには勝てる気はしないし。


 夕方、そろそろ日が完全に落ちる前の時間帯に私とオルセア皇子、付き人としてデュレンと皇子の補佐役の兵士は馬車に乗ってベルテンス王国に向かっていた。前に王国から皇国に向かった際には検問や盗賊が出てきたのもあって馬車は途中までしか使う予定はない。

 しばらく馬車を走らせて前回盗賊が出た所を通過する前に馬車を降り、森の中に入る。本来なら夜の森の中に入る事は問題外の行動だけれど、なるべく見つからない様にするには森の中を進むしかない。ただ、この森にはそれほど凶暴な生き物は居ないからそこは気にしないでも良いのだけれど、問題は暗い森の中をなるべく音を立てずに移動しなければならないことである。
 まあ、要するに私がお荷物になっていると言うことだ。当たり前だけど貴族の令嬢が暗い所を、音を立てずに歩く訓練なんてする訳がないのだから当たり前なのだけど。


 予定よりも時間が掛かってしまったけれど、森を抜けてベルテンス王国の王都に辿り付くことが出来た。
 2か月ちょっと振りのベルテンス王国である。さすがに何か変わったと言うことは無いようだけど、どうも雰囲気はあまり良い感じではない。時間帯もあって人の気配はかなり薄いのは仕方がない事ではあるけど、どうもそれだけではなさそうだ。

 これはもう少しの猶予もないのかもしれない。計画が早く纏まったのは救いだったのかもしれないわね。って、こんなことを考えていないで公爵家の屋敷に早く向かうべきだわ。こんな時間に外に居ること自体怪しまれる要因になるのだから、さっさと移動しないと。

 人目に付き辛い道を進み、公爵家の屋敷の裏口…は監視されている可能性があるから、普段一切使わない使用人用の入り口から屋敷に入った。

 入って直ぐの所は使用人が使う通路になっているので、そこを進んで行き屋敷のホールに出た。するとそこには私たちが来るのを待っていたらしく、ホールに置いてあるソファにお父様が座っていた。

「お帰り、ミリア。それとデュレンもここまで娘を守ってくれて助かった」
「ただいま戻りました。お父様」

 お父様の声を聴いてようやく我が家に戻ってきたことと、少なくとも公爵家は変わっていないことを実感できて安心することが出来た。まあ、移動に関しては大して不安があった訳ではないのだけれど、もしかしたら腐敗政権の影響で我が家が変わり果てている可能性もあったからそこは少し不安だったの。

 私が安心しているとお父様はオルセア皇子の前まで移動して頭を下げた。……いや、そう言えば今更だけど、本当だったら私とデュレンに声を掛ける前に皇子への挨拶が先だよね、お父様?

「それと、初めまして。私はミルゼア・レフォンザム。アルファリム皇国の第1皇子であるオルセア様に我が家までご足労していただき痛み入ります」

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