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憧れの先に 

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無造作に放たれる銃弾。
ある程度の距離を保たれた状態ならば、私たちはあっという間に蜂の巣になっていただろう。
多勢に無勢。
勝てるという確信を抱いた相手側が見せる一瞬の油断に、私とサリアは一気に距離を詰める。

「なっ…。」
相手は何が起きたのか理解できていないようだった。
当たり前だ。
自分達が握っていた銃が一瞬で真っ二つになって、地上に落ちていたのだから。

「ぐぁぁ!!」
「ば、化け物め!」
怯えと憎しみのこもる目つきで引き金を引く残りの兵たち。
しかし、そんな状態で放たれる弾など今の私たちが避けるのは造作もない。

私たちは刃物で斬りつけるのではなく、片方の手で兵士たちの頭に触れる。
すると、一人、また一人と相手は気絶して倒れてしまう。
命を奪うことまではせず、こういった輩を気絶させるのとても簡単な方法が私たちにはある。

先ほど紹介した魔法。
異能のことなのだが、その魔力を相手の頭に流し込むことで相手はすぐに意識を失ってしまう。
異能を持たない人間が引き起こす、いわば拒絶反応というやつだ。

「クソ!!邪魔ばかりしやがって…。こうなったら。」
「おいっ!よせっ!!」
ドミーと会話をしていた一人が大量の注射器を取り出して、そして…
一気に大量の薬物を投与した。
「ハァ…ハァ…俺もこれで…。うっ…あぁぁっ!!がぁぁぁ!!」
「気をつけろ!!」
尋常じゃない量を一気に投与したようだ。
サリアに促されるまま、私は後ろに後ずさる。

倒れこんだまま動かなくなるが、その瞬間。
男の周囲から蒸気が立ち上る。
黒い蒸気。
それを見たのは初めてだったが、一瞬でそれが危険なものだと理解できた。
すると、みるみる内に彼の身体は巨大化して、彼の背中からは巨大な蛇が顔を覗かせる。
「おいおい、冗談だろ?」
黒いたてがみ、そして尻尾に部分に巨大な大蛇。
彼は人間とはかけ離れた化け物のような姿となった。
「あ~あ、こりゃ失敗だね…。中途半端なキメラか…やはり人間の形を保てなかったみたいだ。」
やれやれとばかりに白衣を着た女が首を横に振る。
「キメラ…だと?」
「この薬には、その効能に適応できる者とできない者がいるんだよ。前者が君たちのような人間の姿を保てたもの、そして後者が…。」
「ヴガァァァァァ!!」
「こういった獣のようになってしまうものさ、さて…。」
女はそういうと、彼女の下からいつの間にか描いていたのだろうか。
魔法陣から光が溢れて
「ちゃんと仲間は楽にさせてあげなよ?じゃあね。」
「あっ、おい待てっ!」
一瞬にして姿を消してしまった。

「ヴガァァァァァ!!」
「おいおい、冗談だろ?」
体長はゆうに6メートルほどはあろうか。
もはやその姿には人間だったころの面影はほとんど残されていない。

「!!」
雄たけびとともに口を大きく開いて、私たちを食いちぎろうと襲い掛かる。
「ちっ…。」
サリアは慌てたように私を抱え飛ぼうとするが、間に合わないと目を瞑る。

「おらっ!!」
至近距離で銃声が響いた。
自分達を引き裂く衝撃の変わりに、ドミーは手にしていた銃で私たちを噛み砕こうとする牙を引き離す。
「お前…生きていたのか。」
「勝手に殺すな!ちょっと身体に小さい穴が開いただけだ。それよりも…。」
「ああ、分かっている。」
早くしなければ、大蛇に噛まれるとひとたまりもなさそうだ。

サリアが銃弾をキメラ目掛けて、まばらに放つ。
放たれたそれをキメラは距離を置こうと跳躍するが…。

「……。」
私はそれらに腕をかざし、軌道を曲げた。
「グルルルル…。」
銃弾は命中するが、あまり効果はないようだった。

「くそっ…。」
キメラの猛攻をサリアとドミーが防ぐが彼女たちの体力も限界が近い。
ドミーに限ってはよほど無理をしているのか、どこか意識が朦朧とし始めている。
こうなったら…。

「サリア、ドミー、手榴弾は?」
「一つあるぞ。」
「同じく。」
幸い彼らのと自分のを合わせて三つある。

「上手くいくか分からないけど…。」
私はこれからやろうとすることを説明する。
「俺が一番危ないじゃねぇか!!」
「まぁ大丈夫だろ。多分…。」
「多分ってなんだよ!おい!」
「すまないドミー、私たちのために…。
「チッ…分かったよ。」
仕方がないとばかりに首を縦に振るドミー。
「よしっ、それではいこうか。」
「ああ…。」

素早くキメラの方へと振り返り、作戦を開始する。
サリアがキメラへと一気に近づいて陽動、キメラの動きを絞る。
「オラッ!!」
キメラの背後の大蛇はドミーの射撃によって、サリアに襲い掛かれずにいる状態だ。
焦らしを加えつつ、サリアはキメラが自分に思い切り噛み付くように何度も挑発を行う。
「ガァァァ!!」
痺れを切らしたのか、キメラが口を大きく開いたその時!!
「今だ!」
「ぐっ…!」
キメラの動きを読んで、ドミーがその口元に長い銃身を固定した。
つまりは…。
「グルル…。」
相手の口元を開けて固定したのだ。
「そらっ!」
私は間髪入れず、彼らから預かった手榴弾を投げ込む。

「伏せろー!!」
慌ててキメラから逃げるようにして伏せる。

その瞬間、バコッという聞いたことのない爆音が周囲に響き渡った。

「終わった…か…?」
「ああ…何とかだな…。」

辺りに轟いていた獣の声は聞こえないが、代わりに鼻を覆うような異臭が立ち込めていた。
バラバラになったキメラの部位が散り散りになっている証拠だ。
「次はもうすこしまともな倒し方を教えてくれ。」
「ケチつけるなら、次は撃たれないことだな。」
「はいはい…。」
仲良さげに顔を合わせる私たちの前にある人影が現れる。

「貴様ら…。」
そこには鬼のような顔相をした教官の姿があった。
そしてその日を境に、私とサリアは何者かの手によって周りの兵士たちを襲った犯罪者としてとある地下に幽閉されるのであった。









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