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研がれし剣は継がれゆく

こんな俺にもファンとは嬉しいね

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「おい、ユニ。わかっているとは思うんだがな。今回の目標は敵の視察であって、倒しにきたわけじゃ――」
「じゃあこうしましょう! シェド! 僕がとりあえず突っ込んで気をひくのでシェドは隙をついて攻撃してください! いきますよ!」 

『くそ、とおんねぇな言葉。マジでどうするか考えないと』 

 ユニに振り回されることに内心で深く深くため息をつくシェド。そんな彼など歯牙にもかけず、ユニは、一直線に0号に駆け寄る。

「いいねぇ。やっぱり若いやつはげんきじゃねぇとな。こいよ。お前はどんな強さを見せてくれるんだい」
「行きますよ! 蹄鉄拳、瑠璃!!」

 ――ギィィィン!!

 凄まじい勢いで振り回されるユニの右足。それを0号は自身の剣で受け止めた。

「大した威力だなぁ。獣発する隙が見当たらないよ」
「ありがとうございます! でもあなたもすごいですよ! 強いです」
「まあそうだな。わけぇの。確かに俺は強いぜ?」

  0号は自身の剣に力を込めると、それを押し出し、ユニの足を弾き飛ばした。体勢を崩すユニ。そんな彼に、0号は自らの剣を突き立てようとする。

 その瞬間、シェドはユニに気を取られている0号に対して自身の拳をぶつけにいった。

「鎖烈獣術、球槌!!」
「おいおい、そのぐらい読めてるぜにいちゃん」

 しかし、0号はそんなシェドの攻撃が来ることを予測していた。彼は即座に、シェドの方へと向き直る。そしてその勢いを利用し、彼はシェドに対して剣を横に薙ぎ払った。

 ――ズシャァァァ!

 すると無惨にも0号の剣は、シェドの胸の辺りを切り裂いた。シェドは斬られた勢いのまま後ろに飛んでいく。

「シェド!!」

 ユニは声を上げ、シェドの元へ駆け寄った。ああ、しまった。自分が暴走したからだ。ユニは慌てふためきながら、シェドの近くに座り込む。

「シェド! 大丈夫ですか?」
「あー心配すんなよ、かすり傷だ」

『考えていたよりは深くいかれたけどな』

 シェドは自身の切り傷を体で感じながら心の中でそう呟いた。

 自身の攻撃を受けて、一度戦いから退く若者2人。0号はそんな彼らを見ながら、先程黒い獅子を切った自身の剣を見つめる。そしてその手応えを思い出す。

『やれやれ、あのにいちゃん随分若者らしくねぇことしやがるな。あいつわざと攻撃を食らいにきたのか』

 そう、シェドにもまた自身があのタイミングで飛び出せば、0号は自分を斬ることは予測できていた。だから彼は自身の獣力をほぼ防御に割いて、ダメージを最小限に抑えたのだ。

『しかし、なんだってそんなことしたのかねぇ。いてぇだろ。斬られんの』

 0号が内心でそんな疑問を口にしていると、ユニとシェドの会話が聞こえてきた。

「あー本当にすいません。シェド、僕がまた暴走したばかりに」
「気にすんなよ。それよりわかったか? このまま2人で戦っても消耗は避けられない。だから、お前は嫌かと思うが、ここは一度退却するぞ」
「……ん~~、わかりました」

『あーなるほどなぁ。あの角のにいちゃんの頭を冷やすためか。あのライオンのにいちゃん、思ったよりもずっと頭が切れるな』 

 そして0号は2人の会話を聞いて全てを理解する。確かになんでかわからないが、あの角の男は少し暴走気味だった。だからこそ、その暴走のせいで仲間が傷ついたという状況を作ることであの獅子の獣人は自分の作戦を通したのだ。恐ろしく機転が効く男である。こんな男と戦えたら、随分今の退屈も紛れるに違いない。

「おいおいおいおい逃すと思うかい? せっかく楽しくなってきたんだからよ。少しは年寄りに付き合ってくれや」
「悪いな。俺たち若者は、今を生きることで精一杯なんだ。ユニ。あいつが門番的役割なら普通城からそう遠くへは行けないはずだ。戦いながらゆっくりライン下げていくぞ」
「わかりました!」

 力強く返事をするユニ。そんな彼の声を聞きながらシェドは気を引き締めた。さて、自分で選んだ道とはいえ、敵の攻撃をその身にしっかりと受けた状況だ。出血量を考慮しても、あまりのんびり逃げていては、こっちの命に関わる。

 ここから逃げるためには少しのミスも許されない 。シェドはそんな刺激に対して汗を垂らしながらも、どこか心を躍らせていた。

「じゃあ無理にでもとっ捕まえるしかねぇわな。いくぜ!?」 

 ――ガキィィィン!!

 地面を蹴り、勢いよくシェドたちとの距離を詰める0号。しかし、彼の剣を受けたのは、決してシェドたちではなかった。全くの第三者が海から飛び出し、橋のロープから乗り上げ。0号の剣を受け止めたのだ。 
「なんだ?」
「え? え? どういうことですか?」

 戸惑うサンとユニ。その第三者はとても珍妙な見た目をしていた、腕には剣のような長物が生え、体中に細かい刃のようなものがついている。

 そう、まさにサンが言っていた0号と同じ見た目のものが、今、ここに現れたのだ。

 0号はその怪物を見ると目を輝かせた。そして彼は、その怪物に言葉を放つ。

「おうおう、にいちゃん。また来てくれたのかい? こんな俺にもファンとは嬉しいねぇ」
「………………」

 ――ガァァァァン!!

 そして2人は再度互いの刃を交えた。離れていてもわかるほどの明確な力と力のぶつかり合い。その勢いに圧されながらもユニは戸惑う。

「え? あれって、サンが言ってた0号ですよね? 一体、何がどうなって……」
「わからないな。でもとりあえずここは逃げるしかないだろ」

 もちろんここであの訳わからない怪物と手を組んで0号を倒すということもできる。だがしかし、彼が敵か味方かもわからない以上、下手に信用するのはのかえってリスキーだ。ここは大人しく戻り、後日サンを連れてくるべきである。 

 ユニとシェドはそう決断し、0号が追ってこないうちに、シーラの集落へと引き返すのだった。

 ――ガンッガンッガンッ!!

 2人が走っている間にも、激しくぶつかり合う0号と怪物。しばらくして、0号は先ほどの若者2人が去っていったことに気付き、言った。

「あーあ、せっかく喋れる遊び相手が来たってのに帰っちゃったじゃないの。しっかし、にいちゃんも何度も何度もよく来るねぇ!」

 ――カァァァン!!

「……………!!」

 言葉と共に振り下ろされる0号の一撃を、怪物は自身の手の甲の剣で弾いた。そしてその後も何度も何度も連撃を繰り返し、なるべく武器同士の押し合いをしないよう戦いを進めていく。

 そんな様子を見て、0号は嬉しそうに頬を緩めた。

「おおーいいねいいねぇ。ちゃんと俺の電気を食らわないように対策していやがる。若者の成長は見ていて気分がいいなぁ。……でもなぁ、若いの。」

 ――ガァッッ!!

「…………ッッ!!」

 0号は、斬り合いの最中、刃で覆われた怪物の体を蹴り飛ばした。自身に傷がつくことなど全く厭わない力強く、そして確かな獣力を伴った蹴り。怪物はその力を吸収することもできず、大きく後ろに吹き飛ぶ。

「何度やっても同じだぜ。どんな信念があろうと、あんた1人じゃあ俺には遠く及ばないよ」
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