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夜の闇は日々を侵す

いつか必ず俺が作るよ

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――現在――

 ――カァァァァァン!

 サンとナヅマ、両者の武器が凄まじい音を立てて激突する。そして激しくぶつかり合いながらも、両者とも全く後退することなく、次々と攻撃を繰り出す。

『どうなってやがる?』

 そんな戦いの最中、ナヅマは、あることが疑問に思えてならなかった。それは、自分の力が相手に決して勝らないと言うことだ。

 確かに目の前のサンという男の獣力は凄まじい。これほどの獣の力を体内に秘めた獣人は『幻獣界』にもそうはいない。

 だがそれでも自分の単純なパワーは、あのグリフォンの獣人にも勝るはずだ。さらにそれに加えて自分は今、発雷魔法で身体能力にバフをかけている。その自分が、単なるフェニックスの獣人に力で押し負けるはずがないのだ。

「何考え込んでんだよ。あんたにそんな暇なんてないぜ。陽天流五照型、白夜!!」

 ――ガガガガガガ!!

 サンの力のこもった連撃を、ナヅマは金棒を小刻みに動かして防いだ。そして彼はその攻撃の隙間を見つけ、素早く自身の金棒を真っ直ぐに振り下ろす。

「効かねぇよ! こんなちょこまかした技ァ! 死ねや!」
「その割にはイライラしてんじゃんか。陽天流二照型、洛陽!」


 ――ガキィィィン!

 単純なパワーならば間違えなくナヅマのものを下回るはずのサンの攻撃。しかし、サンのの二照型は容易くナヅマの攻撃を弾き、彼は次の攻撃をナヅマに対して構える。

「チィッ」

 ナヅマは舌打ちをしながら、この戦いで初めて、サンの攻撃を避けるため大きく後退した。そして彼は、金棒を構えながら、サンのことを睨みつける。

「なるほどなぁ。たた大体お前のその異様な力の仕組みがわかってきたぜ。それが鳥人の『バードアイ』ってやつか。いや、お前の場合は『フェニックスアイ』か」

  そう言葉をこぼし、ナヅマはサンの目へと視点を当てた。微かに紅く光る彼の瞳。それは紛れもなく先ほどの彼のものとは大きく異なっている。

 幻獣界の中でもフェニックスの種族は、とある事情から神に僻地へと追いやられた。だからナヅマもフェニックスの力についてはよく知らない。

 だがそれでも、フェニックスが持つ瞳の性質については有名なため、ナヅマも知識だけは知っていた。そう、自身の炎の眩さに負けず、空中から広く周囲を見渡すことのできるその目の性能は、隼や鷹の目も大きく凌ぐのだと。

「そうか、ファルさんとかスアロみたいに俺の目も良くなってるのか。たしかになんでイエナはこんなやつにやられたんだって思ってたよ」
「あァ!? どう言うことだよ!?」

 ナヅマは、サンの言葉の意味がわからず彼に尋ね返す。するとサンは、真っ直ぐにナヅマを睨みながら、淡々と言葉を返す。

「だってあんた、止まって見えるぜ」
「テンメェェェ!!」

 ナヅマは沸騰せんばかりに頭を沸かせ、サンに向かって金棒を振り回す。しかし、サンはそれをさして力を入れることなく、いとも簡単に受け流していった。

「遅いよ。そんなんじゃ当たらない。陽天龍三照型、日輪!!」

 ――ドガァァァァ!!

 そしてサンは、全ての攻撃を掻い潜り、翼を活用して空中で旋回し、三照型を叩き込んだ。

「うッがゥゥゥゥ!」

 サンの獣力の込められた一撃を受け、後ろに吹き飛ばされるナヅマ。彼はそのまま木々に衝突し、ずり落ちるように、落ちていく。

『ナヅマはカッとなりすぎなんだよ。少しは冷静になれ。せっかくの強さが無駄になるぞ』

 ふと、彼の頭にレンシのそんな言葉がよぎった。懐かしい、彼はよく聞いてもないのに、自分にアドバイスしてきたものだ。まるで自分と同じ実力でも持っているかのように。

 木に衝突した拍子で頭が切れ、額から黒い血がどくどくと流れるナヅマ。彼はゆっくりと立ち上がり、息を大きく吐いた。

「――フゥゥゥゥ」

『なんだ? 空気が変わったな』

 先ほどの怒りに燃えた様子から一転、すっかり冷静な雰囲気をその身に纏うナヅマの変化をサンは察知する。そして一層刀を握る力を強め、サンはナヅマへの警戒を深めた。

「どうしたんだよ。深呼吸なんてちして、頭でも冷やしたのか」
「ああ、冷えたよ。いっつもすぐに頭に血が上っちまうんだ。でも流石にわかったぜ。お前、強いな」
「ありがとう、素直に受け取るよ」

 そんな会話を続けながらも、ジリジリと睨み合いを続ける両者。そんな緊張状態の中で、ナヅマは、口を開いた。

「だがな、いや、だからこそか。お前に聞いておかなきゃならねぇことがある。なあ、フェニックス。レンシを、ハビボルで俺たちの仲間をやったのは、お前か?」

 真っ直ぐにサンへ視線をぶつけるナヅマ。そんな彼の言葉に、サンはハビボルで戦った彼のことを思い出し、込み上げる何かを堪えながら、返す。

「レンシ……知ってる名前だ。……ああ、俺が、殺した」
「……そうか、じゃあやるしかねぇな。あまりこの手は使いたくなかったが」

 するとナヅマは自身の足元に陣のようなものを発生させた。サンはその模様からの光に対して、レンシがディー君に打ったものと同じ感覚を覚える。ナヅマはじっとサンを見つめながら、その心に静かに怒りを灯して、言葉を発する。

「これは身体強化の発雷魔法、マスルガ。レンシが最も力を入れていた魔法だ。これで俺の身体能力はさっきよりも数倍上昇する。本当は他人の力を使うなんて、プライドが許さないんだがな」

 ――バリバリバリバリ!

 ナヅマの言葉が終わるや否や、彼の足元が光だし、下から放出された電流が彼を包んだ。そしてその電流が流れ終わる頃には、ナヅマの闘気は先ほどとは比べ物にならぬほどに跳ね上がっていた。

 ナヅマは、その電流を身に纏いながら、サンにまっすぐ視線をぶつけ、叫ぶ。

「悪いなァ。あいつは望みやしないだろうが、敵討ちでもさせてもらうぜ!!」

 サンはその言葉に、そして彼の態度にどこか強い憤りを感じ、彼もまた、言葉をぶつける。

「なんだよ……お前らちゃんと、誰かの死を悲しめるんじゃないか。それなのに、どうして……。なぁ! どうしてだよ!」

 ――ガキィィィン!

 両者同時に地面を蹴り、激しく武器と武器を接触させる。2人の間でけたたましく音が響いた。そんな中ナヅマはサンに対して問いかける。

「どうしてってのは、どう言うことだよ! お前、何が言いたい!」
「俺が言いたいことは一つだ! あんたらは優しいんだ! 人のために怒ることも、涙を流すこともできる! それなのに、どうして人の痛みには鈍感なんだ! どうして仲間以外を傷つけることに対して! 何も思わないんだよ!!」

 サンは、一度後退しナヅマから距離さを取る。そして、刀に炎を灯し、照型を放つ。

「陽天流五照型、飛炎・白夜!!」

 幾多もの円弧型の刃がナヅマの元へ飛んでいく。しかしナヅマは自らの金棒を横に薙ぎ払い、一撃でその攻撃全てを打ち落とした。そして彼は吠える。

「そんなの、この世界が憎いからに決まってるだろ! 俺たちはま『魔法界』に生まれてからずっと世界に虐げられてきた! だからお前らみたいに何もせず、平凡を享受してる奴を見ると反吐が出る! だからその幸せをぶち壊したくなるんだよ! オォォォラァァァ!」

 ――バキィィィィン!

 再び彼の金棒が、サンに振り下ろされる。サンはこれに横から攻撃を当てることでなんとかふ受け流す。サンは、ブルブルと痺れる手を眺めながら、小さく呟いた。

「……くっそ、ちゃんと、重いんだよなぁ」
「オラオラァァ! ボーッとしてる暇ねぇぞォォォ!」

 ーーガキィィィン! ガキィィィン! ガキィィィン!

 何度も何度も、サンとナヅマの武器はぶつかり合い、互いに激しく音を立てる。

そして何度かまた攻防を繰り広げ、彼らは、鍔迫り合いの様な姿勢になる。サンは酷く悲しそうな顔を浮かべ、その視線をナヅマへと向けた。

「……レンシと戦った時もさ、思ったことがあるんだ」
「なんだよ!?」
「……ナヅマだったよな。きっと、あんたもさ、優しくなれたと思うんだよ」
「あァ!?」

 急に気味の悪い言葉が目の前の男から放たれ、無意識に後退し、距離を取るナヅマ。彼はサンに対して、言葉を投げる。

「一体何をいいてぇんだ? お前はァ」

「イエナだってそうだった。みんな誰も心から誰かを傷つけたいなんて思ってないはずなんだ。でも生まれた環境や出会いで、そう生きなきゃいけなくなるだけなんだよ。ナヅマ、俺はさ。人を信じるよ。そしてさ――」

 サンは刀を真っ直ぐに向けた。きっと目の前の彼も時間さえあれば、イエナの様に多くの優しさに触れて、更生できるのかもしれない。でもきっと、彼もまたレンシの様に既にそこに命はなく生きなおすことはできないのだろう。

 そしてきっとナヅマみたいな人はこの世界に大勢いるんだ。今この一瞬さえも、誰かが何かで苦しんで、さらにその理不尽が、また新たな不幸を作り出す。

 だからきっと母は、世界全てを照らす太陽を目指したんだ。

 サンは刀を力強く握り、目の前のナヅマに対し、言葉をぶつける。

「いつか必ず俺が作るよ。あんたたちがさ、優しくなれる世界を!」
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