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夜の闇は日々を侵す
誰かを幸せにできる人間になるんだよ
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――過去――
「やっぱりここにいたんだな」
スラム街の中心で岩に腰掛けながらボーッと空を眺めるフォンを見て、イエナはそう言葉をこぼした。フォンはどこか虚な目をしながらイエナに対して言葉を返す。
「……ああ、イエナか。どうしたんだよ? そんなに焦ったような顔して」
「どうしたもこうしたもねぇよ! フォンさん! 急にいなくなるから心配したんだぞ!」
「……ああ、そうだな。悪い。少しなぁ、空を見上げてたんだよ。今から戻る」
「戻るじゃねぇよ! 一体どうしたってんだよ、フォンさん! あんたあの黒ローブの男の依頼を受けてから変だぞ! ちゃんと何があったか説明してくれよ! 俺たち、家族じゃなかったのかよ!!」
煮え切らないフォンの態度に対し、苛立ちをぶつけるイエナ。そんな彼にとってフォンはどこか困ったような笑みを浮かべる。その目にはうっすらとクマがあり、頬も出会った時より少し痩せこけていた。
「そうだなぁ。イエナには、話してもいいかもしれないな」
「は?」
イエナに対し静かにそう言葉をこぼすフォン。そんな彼を見てイエナは不思議な感覚を覚えた。まるで今にも彼が自分達を置いてどこかに行ってしまいそうなそんな感覚。
「イエナはもう、気づいてたんだろ。俺が今やっていることに対して、どんな感情を抱いているか」
「……ああ、気づいてるよ」
気づいていた。気づかないはずがなかった。ずっとずっとこの人のようになりたくて、その背中を見続けてきたのだ。そして自分は、彼と出会う前もピグルやアラシを引っ張る上で彼らより多くの地獄を見てきた。だからこそ彼がどのような気持ちで自分達に飯を食べさせているのか、よくわかるのだ。
「でも、それももうすぐ終わるじゃねぇか! フォンさん! これだけの金が入れば、俺たちはずっと遊んで暮らせる! もうあんたが無理をする必要も無くなるだろ!」
イエナの口から次々に言葉が溢れてくる。まるで、フォンのこれからの話を遮るように。フォンはそんなイエナに対し、寂しそうな顔を浮かべながら呟く。
「ああ、そうだな。この依頼が達成できれば俺たちはもうこんなことはしなくて良くなる。でもな、イエナ」
イエナはこの先のフォンの言葉を聞くのが、どこか怖かった。しかし、きっとフォンもまた、今なんらかの勇気を振り絞って、自分に対して何かを伝えようとしているはずだ。彼は、フォンの言葉に耳を傾ける決意をした。
「……なんだよ。何を言いたいんだよ」
「……俺はな、イエナ。もしこの依頼が失敗したとしてもな。この商売から足を洗おうと思うんだ」
――現在――
――ガンガンガンガンガン!!
サンとファルが会話をする中、イエナとナヅマは互いに凄まじい剣戟を繰り広げていた。
「あああああ、イライラすんなァ。もう!!」
ナヅマは、ところどころに出血した体を抱えながらも、そう言いながら、イエナを金棒で薙ぎ払った。相変わらず力がないばかりに敵の攻撃を受けきれず後ろに吹き飛ぶ。しかしイエナは、気を失うことなく、まだ立ち上がる。
現在のナヅマとイエナの戦いは以前ナヅマの有利に変わりはなかった。しかし、それでもナヅマがこれほどイライラしている理由は、今のようにどれほどダメージを与えても目の前の男が立ち上がるからだ。
「あああああ、まだ立ち上がんのかよ! とっとと倒れやがれや! この罪人がァ!」
イエナは意識がほとんど朦朧としながらも、現在気力だけで体を動かしていた。彼は、虚な目でぼーっとナヅマを眺める。
「おいおい、そうカリカリすんじゃねェよ。俺が倒れねェのは、テメェの力がその程度だからだろ。とっとと来いよ。まだ俺は生きてるぜ?」
「口のへらねぇガキだなぁおい! おいお前! お前本当に全部背負う気なのか? パーツ商人がどれだけのことをしてきたのかは知ってるぜ。それなのにお前は、そんなちっぽけな体一つでそれ全部背負おうっていうんだなァ!!」
「……何度も言わせんなよ、うるせぇな!」
「おおーい! イエナー! どこだーい!」
その時2人の耳に1人の女性の声が聞こえた。イエナは瞬時にその声の主を把握し、そちらの方を向く。すると遠くではあるが、ケイらしき人影が木々の隙間からこっちに向かっていることに気づいた。おそらくもう数秒もしたらこちらと合流してしまうだろう。
「……ケイ、おばさん。なんで?」
するとナヅマは、そのイエナの一言により、彼と向かってきたニワトリの獣人との関係性を把握した。そして彼は、その顔ににやりと笑みを浮かべる。
「どうやら、世界はお前に、その身にふさわしい天罰を下したいらしいな」
ナヅマは、イエナからそのニワトリに視線を移し、自身の右手を彼女へと向け、大きな円状の陣を形成する。
「……おい……てめぇ、何やってるんだ? ……やめろよ」
イエナは、ナヅマが何をするつもりか気づき、声を震わせて言葉を漏らす。しかし、もちろん、ナヅマに止める気など一切ない。
「止める? なんでだよ? 弱者からの搾取、テメェが散々やっていたことじゃねェか。テメェのしたことがテメェに返ってくる。至極当たり前な自然の摂理だ。行くぜえェェ! 出雷魔法、ライトニル!!」
すると魔法陣から巨大な電気の槍が出現した。そしてその槍は、ケイに向かってまっすぐに発射される。
『あんたはね。これから何にでもなれるよ』
その時走馬灯かイエナの頭にかつてケイに言われた言葉がよぎった。そう、イエナは何度も何度も後悔していた。自分がたくさんの人を傷つけてしまったことを。だからこそ、イエナはいつも自分の性根は変わることができないと思っていた。
しかし、ケイはいつもそんなイエナを応援してくれたのだ。何にも変われる根拠なんてないのにも関わらず、ずっと自分を信じてくれた。過去にもがく自分を受け入れ、励ましてくれた。
――そうだな、確かにお前の言うとおり、随分絆されたなとは思うよ。
――でも、俺は、こんな俺を受け入れてくれるあの人たちと家族になりたいと思ったんだ。
――だから、殺させやしないさ。まだ、碌な孝行もしてないから。
「……イエ……ナ?」
――バチバチバチバチ!
2人の元へ到着し、目を白黒させるケイの前で――、ナヅマの攻撃を受けたイエナがゆっくりと倒れた。ナヅマは、そんな彼を見て声を張り上げ高らかに笑った。
「はっはっはっはっは! こいつは傑作だぜ! この攻撃に体を入れられるとは、中々のスピードだがなァ。死んじまったら何の意味もねぇじゃねぇかァ!」
ケイは、男の言葉を受けて、イエナが自分のことを庇ったのだということを察知した。ケイは、目の前で笑う男を睨みつける。
「あんた、一体この子に、何したんだ!」
「何しただァ? お前だって知ってるはずだろ、この男の過去を。だから俺がその罪をのこいつに償わせてやったんだよ」
「ふざけんじゃないよ!!!」
ナヅマの雷魔法に負けぬぐらいのボリュームでケイは声を張り上げる。ナヅマはそのあまりの声の大きさに一瞬たじろいだ。
「あんたは知ってんのかい! ここにきてからイエナがどれだけ努力してるか! あんたは知ってんのかい! ここにきてからイエナがどれほど自分を変えようとしてるか! 確かに過去は変えられない! けどね! これはこの子が一番よくわかってるんだ! この子の生き方は! あんたみたいなやつが! ヘラヘラ笑っていいものじゃないんだよ!!」
一度に言葉を捲し立て、息を切らすケイ。ナヅマは、そんな彼女に冷たい視線を向ける。
「うるせぇババァだな。まあいい。どうせ、殺すつもりだったんだ。おい、そこのハイエナ! 今からお前の行動が無意味なもんだったって教えてやるから見てろよ。と言っても、もう聞こえちゃいねぇが」
「…‥聞こえ、てるよ」
「イエナ!」
すると、イエナが黒焦げになった自身の体を必死で起こした。そしてマチェットを拾い上げ、ナヅマに向ける。ナヅマは立ち上がり続けるイエナを見て、自身の技が愚弄されている気がして、声を張り上げる。
「いい加減にしろよォ! テメェは負けたんだ! それなのにそんなにみっともなく立ち上がるんじゃねぇ! それだけの罪を犯してんのに、そんなに生にしがみつきてぇのか?」
「……別にしがみつきたい訳じゃねぇよ。何度も死んで、全部償ったことにしたいって思ったさ」
「じゃあ、何でだ! 何でお前は、それほどまでに倒れねぇんだよ!」
その言葉を受け、イエナの頭に浮かぶのは、自分が最も憧れた男が、自分に最後に残した言葉。
「……どれほど憧れてもなぁ、その背中を、追いかけんなって言った男がいたんだよ。……だから俺は、生きて生きて生き抜いてな、後ろのババアに胸張れるくらい、誰かを幸せにできる人間になるんだよ!!」
――そして俺は、フォレスの奴らに胸張って……家族なんだって言いてぇんだよ。
ボロボロになりながらもケイを背にそう言葉をこぼすイエナ。彼女は、今まで見たどんな男よりも頼もしい背中を見て、小さく呟く。
「……ババアなんて言うんじゃないよ。……全く、随分、いい男になったじゃないか」
ナヅマは、大きな舌打ちをし、再び巨大な金棒を構えた。そして彼は、イエナに対し、叫ぶ。
「そうかよォ! じゃあ力づくで、その大層な信念へし折ってやるよォ!!」
「待てよ」
決して大きな声でもないのにも関わらず、その声は、林の中になびき渡った。ナヅマ、イエナ、ケイは声のした方向を見つめる。すると、一人のとこが、空から、太陽を背にしながらも、ゆっくりと着地した。そんな彼を見て、イエナは、小さく呟く。
「ったく、随分待たせんだよ。……そうか、それが本当の姿なんだな」
そして再びイエナは、うつ伏せに倒れる。どうやら気を失ったようだ。しかしナヅマは、そんなイエナなど気にかける様子もなく、サンに向かって呟く。
「何だあいつ。あんな姿、ハデスたちには聞いてねぇぞ」
するとサンは、自身の背中に生えた翼を大きく広げた。赤とオレンジが入り混じった美しいほどの翼の色にケイは息を呑む。そしてサンは、ナヅマの向こうのイエナに向かって声をかけた。
「ごめん、イエナ。遅くなった」
「やっぱりここにいたんだな」
スラム街の中心で岩に腰掛けながらボーッと空を眺めるフォンを見て、イエナはそう言葉をこぼした。フォンはどこか虚な目をしながらイエナに対して言葉を返す。
「……ああ、イエナか。どうしたんだよ? そんなに焦ったような顔して」
「どうしたもこうしたもねぇよ! フォンさん! 急にいなくなるから心配したんだぞ!」
「……ああ、そうだな。悪い。少しなぁ、空を見上げてたんだよ。今から戻る」
「戻るじゃねぇよ! 一体どうしたってんだよ、フォンさん! あんたあの黒ローブの男の依頼を受けてから変だぞ! ちゃんと何があったか説明してくれよ! 俺たち、家族じゃなかったのかよ!!」
煮え切らないフォンの態度に対し、苛立ちをぶつけるイエナ。そんな彼にとってフォンはどこか困ったような笑みを浮かべる。その目にはうっすらとクマがあり、頬も出会った時より少し痩せこけていた。
「そうだなぁ。イエナには、話してもいいかもしれないな」
「は?」
イエナに対し静かにそう言葉をこぼすフォン。そんな彼を見てイエナは不思議な感覚を覚えた。まるで今にも彼が自分達を置いてどこかに行ってしまいそうなそんな感覚。
「イエナはもう、気づいてたんだろ。俺が今やっていることに対して、どんな感情を抱いているか」
「……ああ、気づいてるよ」
気づいていた。気づかないはずがなかった。ずっとずっとこの人のようになりたくて、その背中を見続けてきたのだ。そして自分は、彼と出会う前もピグルやアラシを引っ張る上で彼らより多くの地獄を見てきた。だからこそ彼がどのような気持ちで自分達に飯を食べさせているのか、よくわかるのだ。
「でも、それももうすぐ終わるじゃねぇか! フォンさん! これだけの金が入れば、俺たちはずっと遊んで暮らせる! もうあんたが無理をする必要も無くなるだろ!」
イエナの口から次々に言葉が溢れてくる。まるで、フォンのこれからの話を遮るように。フォンはそんなイエナに対し、寂しそうな顔を浮かべながら呟く。
「ああ、そうだな。この依頼が達成できれば俺たちはもうこんなことはしなくて良くなる。でもな、イエナ」
イエナはこの先のフォンの言葉を聞くのが、どこか怖かった。しかし、きっとフォンもまた、今なんらかの勇気を振り絞って、自分に対して何かを伝えようとしているはずだ。彼は、フォンの言葉に耳を傾ける決意をした。
「……なんだよ。何を言いたいんだよ」
「……俺はな、イエナ。もしこの依頼が失敗したとしてもな。この商売から足を洗おうと思うんだ」
――現在――
――ガンガンガンガンガン!!
サンとファルが会話をする中、イエナとナヅマは互いに凄まじい剣戟を繰り広げていた。
「あああああ、イライラすんなァ。もう!!」
ナヅマは、ところどころに出血した体を抱えながらも、そう言いながら、イエナを金棒で薙ぎ払った。相変わらず力がないばかりに敵の攻撃を受けきれず後ろに吹き飛ぶ。しかしイエナは、気を失うことなく、まだ立ち上がる。
現在のナヅマとイエナの戦いは以前ナヅマの有利に変わりはなかった。しかし、それでもナヅマがこれほどイライラしている理由は、今のようにどれほどダメージを与えても目の前の男が立ち上がるからだ。
「あああああ、まだ立ち上がんのかよ! とっとと倒れやがれや! この罪人がァ!」
イエナは意識がほとんど朦朧としながらも、現在気力だけで体を動かしていた。彼は、虚な目でぼーっとナヅマを眺める。
「おいおい、そうカリカリすんじゃねェよ。俺が倒れねェのは、テメェの力がその程度だからだろ。とっとと来いよ。まだ俺は生きてるぜ?」
「口のへらねぇガキだなぁおい! おいお前! お前本当に全部背負う気なのか? パーツ商人がどれだけのことをしてきたのかは知ってるぜ。それなのにお前は、そんなちっぽけな体一つでそれ全部背負おうっていうんだなァ!!」
「……何度も言わせんなよ、うるせぇな!」
「おおーい! イエナー! どこだーい!」
その時2人の耳に1人の女性の声が聞こえた。イエナは瞬時にその声の主を把握し、そちらの方を向く。すると遠くではあるが、ケイらしき人影が木々の隙間からこっちに向かっていることに気づいた。おそらくもう数秒もしたらこちらと合流してしまうだろう。
「……ケイ、おばさん。なんで?」
するとナヅマは、そのイエナの一言により、彼と向かってきたニワトリの獣人との関係性を把握した。そして彼は、その顔ににやりと笑みを浮かべる。
「どうやら、世界はお前に、その身にふさわしい天罰を下したいらしいな」
ナヅマは、イエナからそのニワトリに視線を移し、自身の右手を彼女へと向け、大きな円状の陣を形成する。
「……おい……てめぇ、何やってるんだ? ……やめろよ」
イエナは、ナヅマが何をするつもりか気づき、声を震わせて言葉を漏らす。しかし、もちろん、ナヅマに止める気など一切ない。
「止める? なんでだよ? 弱者からの搾取、テメェが散々やっていたことじゃねェか。テメェのしたことがテメェに返ってくる。至極当たり前な自然の摂理だ。行くぜえェェ! 出雷魔法、ライトニル!!」
すると魔法陣から巨大な電気の槍が出現した。そしてその槍は、ケイに向かってまっすぐに発射される。
『あんたはね。これから何にでもなれるよ』
その時走馬灯かイエナの頭にかつてケイに言われた言葉がよぎった。そう、イエナは何度も何度も後悔していた。自分がたくさんの人を傷つけてしまったことを。だからこそ、イエナはいつも自分の性根は変わることができないと思っていた。
しかし、ケイはいつもそんなイエナを応援してくれたのだ。何にも変われる根拠なんてないのにも関わらず、ずっと自分を信じてくれた。過去にもがく自分を受け入れ、励ましてくれた。
――そうだな、確かにお前の言うとおり、随分絆されたなとは思うよ。
――でも、俺は、こんな俺を受け入れてくれるあの人たちと家族になりたいと思ったんだ。
――だから、殺させやしないさ。まだ、碌な孝行もしてないから。
「……イエ……ナ?」
――バチバチバチバチ!
2人の元へ到着し、目を白黒させるケイの前で――、ナヅマの攻撃を受けたイエナがゆっくりと倒れた。ナヅマは、そんな彼を見て声を張り上げ高らかに笑った。
「はっはっはっはっは! こいつは傑作だぜ! この攻撃に体を入れられるとは、中々のスピードだがなァ。死んじまったら何の意味もねぇじゃねぇかァ!」
ケイは、男の言葉を受けて、イエナが自分のことを庇ったのだということを察知した。ケイは、目の前で笑う男を睨みつける。
「あんた、一体この子に、何したんだ!」
「何しただァ? お前だって知ってるはずだろ、この男の過去を。だから俺がその罪をのこいつに償わせてやったんだよ」
「ふざけんじゃないよ!!!」
ナヅマの雷魔法に負けぬぐらいのボリュームでケイは声を張り上げる。ナヅマはそのあまりの声の大きさに一瞬たじろいだ。
「あんたは知ってんのかい! ここにきてからイエナがどれだけ努力してるか! あんたは知ってんのかい! ここにきてからイエナがどれほど自分を変えようとしてるか! 確かに過去は変えられない! けどね! これはこの子が一番よくわかってるんだ! この子の生き方は! あんたみたいなやつが! ヘラヘラ笑っていいものじゃないんだよ!!」
一度に言葉を捲し立て、息を切らすケイ。ナヅマは、そんな彼女に冷たい視線を向ける。
「うるせぇババァだな。まあいい。どうせ、殺すつもりだったんだ。おい、そこのハイエナ! 今からお前の行動が無意味なもんだったって教えてやるから見てろよ。と言っても、もう聞こえちゃいねぇが」
「…‥聞こえ、てるよ」
「イエナ!」
すると、イエナが黒焦げになった自身の体を必死で起こした。そしてマチェットを拾い上げ、ナヅマに向ける。ナヅマは立ち上がり続けるイエナを見て、自身の技が愚弄されている気がして、声を張り上げる。
「いい加減にしろよォ! テメェは負けたんだ! それなのにそんなにみっともなく立ち上がるんじゃねぇ! それだけの罪を犯してんのに、そんなに生にしがみつきてぇのか?」
「……別にしがみつきたい訳じゃねぇよ。何度も死んで、全部償ったことにしたいって思ったさ」
「じゃあ、何でだ! 何でお前は、それほどまでに倒れねぇんだよ!」
その言葉を受け、イエナの頭に浮かぶのは、自分が最も憧れた男が、自分に最後に残した言葉。
「……どれほど憧れてもなぁ、その背中を、追いかけんなって言った男がいたんだよ。……だから俺は、生きて生きて生き抜いてな、後ろのババアに胸張れるくらい、誰かを幸せにできる人間になるんだよ!!」
――そして俺は、フォレスの奴らに胸張って……家族なんだって言いてぇんだよ。
ボロボロになりながらもケイを背にそう言葉をこぼすイエナ。彼女は、今まで見たどんな男よりも頼もしい背中を見て、小さく呟く。
「……ババアなんて言うんじゃないよ。……全く、随分、いい男になったじゃないか」
ナヅマは、大きな舌打ちをし、再び巨大な金棒を構えた。そして彼は、イエナに対し、叫ぶ。
「そうかよォ! じゃあ力づくで、その大層な信念へし折ってやるよォ!!」
「待てよ」
決して大きな声でもないのにも関わらず、その声は、林の中になびき渡った。ナヅマ、イエナ、ケイは声のした方向を見つめる。すると、一人のとこが、空から、太陽を背にしながらも、ゆっくりと着地した。そんな彼を見て、イエナは、小さく呟く。
「ったく、随分待たせんだよ。……そうか、それが本当の姿なんだな」
そして再びイエナは、うつ伏せに倒れる。どうやら気を失ったようだ。しかしナヅマは、そんなイエナなど気にかける様子もなく、サンに向かって呟く。
「何だあいつ。あんな姿、ハデスたちには聞いてねぇぞ」
するとサンは、自身の背中に生えた翼を大きく広げた。赤とオレンジが入り混じった美しいほどの翼の色にケイは息を呑む。そしてサンは、ナヅマの向こうのイエナに向かって声をかけた。
「ごめん、イエナ。遅くなった」
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累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
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