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蹄鉄は今踏みしめられる

ユニの拳がさ、あんなに重いはずがないんだよ

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 魔物の最後を見送ったサン。彼はその灰の山をしばらく見つめた後、ネクに対して言葉をかける。

「おつかれ。ありがとう。ネク。怪我はなかった?」
「……うん、大丈夫。どうしよっか。この人」

 ネクはチラリとレンシの方を見た。サンもまたしばらくは目を覚ます様子のなさそうなレンシを見て言葉をこぼす。

「こいつは、めちゃくちゃに縛って、後で来よう。色々と聞きたいこともあるし,ネクはロープ持ってる?」
「……あるよ」

そう言ってネクはロープを掲げる。こんなこともあろうかと彼女は一通りのものは用意しておいた。

「流石、準備いいね。ネク。よし、じゃあ始めよう」

 そうして、2人は目を覚さないレンシをしっかりとロープで縛り、隅に置いておいた、さて、これからどうするか。サンはネクに声をかける。

「じゃあ他の人に合流しよう。俺はユニのとこへ行こうと思うけど、ネクはどうする?」

 するとネクは悩む様子もなく、サンへ言葉を返した。

「私も行くよ、ユニのところへ。シェドが誰かに負けるはずなんてないから」
「それもそうだな。じゃあ行こうか」

  そして2人は先ほどのユナの移動した記憶を頼りに2人の元へと向かった。
  
 ――ダダダダダダッ。

 一方その頃ユニはユナと熾烈なる争いを繰り広げていた。互いの凌ぎを削り合う二人。そんな中彼は、ユナに対し、言葉を呟く。

「…‥わかんないですよ」
「…………」

 ユナは声をこぼすことなく、ユニに対して蹄鉄拳黒鉄を放つ。またペガさんにやめた方がいいと言われた捻りを加えた拳。そんな拳を右の拳で受けてユニは叫ぶ。

「わかんないですよ! 兄さん! 兄さんは一体何を伝えたいんですか! ずっと兄さんの後ろを歩いてきた。たくさんいろんなことを教わってきた。だから、言ってくれなきゃ、わかんないですよ」

 ユニは、その目に涙を浮かべながらそう語る。しかし、その言葉はユナには届かない。ユナは、自身の右足を上げ、ユニの腹に前蹴りを放つ。

 ――ガッハァ。

 腹を抑えうつ伏せに倒れるユニ。懐かしい。蹄鉄拳、碧玉。獣力を足だけでなく全身に乗せ、体全ての体重を乗せて前蹴りを放つ技。

 ――ああ、もういいか。

 ユナの蹴りが命中し、苦しみと共にユナの心が折れる音がした。もういい、もういいだろ。自分がどんなに頑張ろうとも兄はきっと帰ってこない、そして、兄の伝えたいことも蹄鉄拳から離れようとする自分にはわからない。

 ―ーきっと自分は、兄の死も悲しめないし、兄の言葉を理解することもできない。

 ユニは、地面からゆっくりと顔をあげ、じっとユナのことを見つめる。

 するとユナは、右手を手刀の形に変え、その先をユニに向けた。蹄鉄拳、玻璃。鎖烈を元に、獣力を集中させて解き放つ殺人拳。ペガはあまり教えようとはしなかったが、きっと彼が獣などに使う様を、後ろで見て覚えたのだろう。

 きっとこのままなら自分は死ぬ。でもきっと、このまま一生、自分がペガさんや兄に恩を返せないなら、彼らのことを蔑ろにしかできないのなら。

 ――僕はこれを受け入れるべきだ。

 そしてユニは静かに目を閉じ、じっと兄の一撃がくるのを待った。

 ――グシャァァァ。

 ユナの手が体を貫く音が聞こえる。しかし、不思議とユニの体には異変はなかった。不思議に思い、ユニは、ゆっくりと目を開ける。するとそこには、自分の方を向き両手を広げながらも、兄の抜き手に体を貫かれるサンの姿があった。

「……バカかよ」

 サンは小さくユニの方を見て呟いた。ゆっくりとユニの方へ倒れていくサン。ユニはそんな彼を見て、何が起こったのかをようやく理解する。彼はサンに対し叫んだ。

「……サン!」

 慌ててサンの体を受け止め、サンは地面に膝をついたような体勢になる。ユニは、そんな彼に声をかける。

「……なんでですか! どうしてこんなことを?」
「……大丈夫だよ。……すぐ治る。……それより、なんであんなことしたんだよ?」

 サンは、ユニの方を掴んで体勢を直し、細々とした声で静かに怒りを露わにする。あんなこと、というのはきっと、自分が兄の攻撃を受け入れたことを言うんだろう。ユニは、言葉を発すことなく、サンの言葉を静かに受け入れた。サンは続ける。

「……ユニが何を思ってるのかは知らないよ。……でもユニは兄さんを止めるんじゃなかったのか? ……それなのになんで、戦うことを諦めてるんだ。……お前は今、兄に弟を殺させようとしたんだぞ?」
「………………つっ」

 ユニは、サンの言葉を重く受け止めた。わかってる。今自分が兄と戦うだけでこれほど辛いのだ、きっともし自分を殺すことなになったら兄は死んでも死にきれないのかも知れない。でも、それでも。

「……サンに、何がわかるんですか。ずっと兄さんのこともペガさんのことも大好きだった。でも、僕は、2人のことも忘れていつだか蹄鉄拳のことしか考えられなくなってしまった。いつもいつも強くなることばかり考えてる。なんの正義もなく、自分の欲望のためだけに!! 僕は、僕は、自分が嫌いだ! そしてきっと兄さんや、ペガさんだって……!」
「…‥違うよ。ユニ」

 サンはユニに寄りかかりながらも、そっと彼に対して、そう呟いた。
 どうして、そんなこと言うんだよ。ユニは、拳を握りしめ、サンに言葉をぶつける。

「なんで、そんなことサンにわかるんですか。ペガさんにだって、兄さんとだって、あなたは話したこともないでしょう」

『ユニに対して自分がどうしたいか、お前が考えた気持ちを伝えればいい』

 サンの頭にふと、ラビの言葉が浮かぶ。ああ、そうだな。サンは心の中で呟く。やっぱり自分は、ユニに蹄鉄拳を続けてほしい。

「……そうだな。会ったことのない俺にはさ。ユニの兄さんや、ペガさんの気持ちなんてわからない。……けどさ、2人は蹄鉄拳をやるお前が好きだったのは、わかるんだよ」
「だから、どうして?」

 サンは、彼に対して優しく微笑んだ。そして言葉を続ける。

「……俺さ、ユニと蹄鉄拳見てなんでこんな強いんだろううって思ったんだ。……でも、ペガさんとかユニの兄さんの話聞いて納得した。……きっとさ、ユニは、今までたくさんの人に、たくさんのことを教わって、その拳を作ったんだって」

 サンはそっとユニの手首を掴んだ。そして彼の拳を彼の目の前へと持ってくる。そして彼はそっと言葉をユニは届ける。

「……なあユニ。もしペガさんがユニのことを嫌いなら、そしてもしユニの兄さんがユニのことを嫌いなら、ユニの拳がさ、あんなに重いはずがないんだよ」
「……………」

 するとサンは、その言葉を最後に、言葉を発しなくなった。気を失ってしまったようだ。

 サンの言葉を受けて呆然とするユニ。そんな時、ネクが後から、この洞窟のスペースに入ってくる。

「……あ、サンいた。なんか嫌な予感がするって言ってすぐ行っちゃったんだから。ってサン?」

 ネクは、その時ようやく、彼の胸に空いた穴を確認した。そして彼女はサンのもとに慌てて駆け寄り、すでにサンの炎は、彼の体を回復させているが、血の量からして、明らかに重症だ。

「……なんで、なんでこんな無茶を」
「ネク、サンのことを頼めますか?」

 ユニは、ネクに対して、静かに言葉を口にした。そして彼は、自分にもたれるサンをそっと地面に寝かせる。ネクは、そんなユニの方を見て言葉を返す。

「……わかった。でもユニ。勝てそう?」

 ネクの言葉を受けて、ユニは立ち上がった。そしてこちらをじっと見つめる兄と彼は対峙する。

「大丈夫、勝ちます」
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