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そして影は立ち伸びる
よし、決めた
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――現在ーー
「なんだよ、それ?」
サンは、唇を震わせて呟く。そして、拳を握りしめて続ける。
「でもベアルガが始めたことは、カニバル国民の総意ってわけじゃなかったんだろ?つまり、南の峠で襲撃を受けた人たちは、訳もわからず傷つけられたってことだろ?」
「……うん、そういうことになる」
「でも、レプタリアからしてみれば、そうしないともっと辛い目にあっていたかもしれないってことだよな?」
「……うん、そうだね」
「おかしいだろ。……じゃあこの戦争の被害者は、誰を恨めばいいんだよ! これしか方法がなかった! そんな理由で! こんなたくさんの人が死んでいいはずがないのに!!」
そしてサンは、その握り拳を地面に叩きつける。わずかに彼の腹が痛んだが、そんなことサンにはどうでも良いことだった。ジャカルの妻が死んだ。たくさんの子供たちの母代わりであるカナハが死んだ。
しかし、それら全ての原因である戦争を憎んだとしても、それを好んで開戦する存在などそこにはいなかった。そして、利己的な経済政策を行ったベアルガももうここにはいない。国民はただただ行き場をなくした戦火が燃え広がるのを見ているだけ。
サンは、この戦争が、そして、自身の無力さが、どうしようもなく、憎らしかった。しかし、彼もまたそんな激しい怒りをぶつける相手を持たなかった。
ネクは、そんな彼に寂しそうな目を向けて、言葉を発する。
「……ごめん、サン。その答えは、私にも分からない。とにかくサンはもう、あなたの旅に戻って。私とシェドは、もうカナハがいなくなったし、明日にはレプタリアの本拠地に出発する。じゃあ、さよなら、サン。今まで、本当にありがとう」
そう言葉を言い残すと、ネクは、サンに包帯などの治療道具をいくつか残し、そのまま去っていった。
サンは、ただただ呆然と何も言わずに彼女の姿を見送る。今の彼には、彼女に対して言葉をかけることができなかった。
――これからどうしようか。
三日月が輝く夜、サンは、空の下で独り呆然とこれから先のことを考えた。
正直、これからも戦争に関わりたいとは全く思えない。散々アリゲイトやシェドにも言われた通りサンには信念がない。それなのにそんな自分がこれ以上この戦争に関わるのは、まさに迷惑だ。
しかし、それだときっと戦争の終結が遅れるというのがサンの懸念だった。レプタリアとカニバルの対立。それが長引けば長引くほど、犠牲者はどんどん増えていく。それならば、自分がこれからもカニバルに味方した方が、少しでも犠牲は減るのではないか。幸いベアリオはそれほど支配した国の民を手酷く扱うような男には見えない。
――はは。おい、なんだよ。少しでもって。
そこまで考えを巡らせた時、サンは、自分の考えに苦笑した。今、自分は、少しでも犠牲を減らすための方法を考えようとしたのだ。目に映るもの全てを守ると誓いを立てたのにもかかわらず、少しの犠牲者を見捨てるような真似をしようとした。
サンは力強く、自身のペンダントを握りしめる。
違う。そこは曲げるな。曲げちゃダメだ。
『目に映るもの全てを守る』それは自分自身がここまで掲げてきた信念だ。それを曲げたら、自分は自分じゃなくなってしまう。そして、このペンダントをくれた母に、誇れぬ道を歩むことになってしまう。
『サン。お前はこれから全てを守るという言葉の重みを知っていくだろう。それでも挫けるなよ』
――そうだな。確かに重いよ。この言葉。
不意にサンは、死に際のフォンが自分に残した言葉を思い出した。確かに、フォンの言う通りだ。こんなに自分が口に出す言葉が、重い意味を持つのだということをサンは知らなかった。
――でも、だからこそ、俺は、全部を守れる男になりたい。
そして、それからサンはひたすらに考えた。全てを守る方法を。今まで得た知識や経験を総動員させ、ただ自身の信念に誠実に向き合い考えた。
自分は何を守るのか。
自分は何を救うのか。
自分は何と戦うのか。
『目に映るもの全て』とはなんなのか。
「――――よし、決めた」
そして、サンは、この瞬間、この戦争に対して確かな信念を、その身に宿したのだった。
「なんだよ、それ?」
サンは、唇を震わせて呟く。そして、拳を握りしめて続ける。
「でもベアルガが始めたことは、カニバル国民の総意ってわけじゃなかったんだろ?つまり、南の峠で襲撃を受けた人たちは、訳もわからず傷つけられたってことだろ?」
「……うん、そういうことになる」
「でも、レプタリアからしてみれば、そうしないともっと辛い目にあっていたかもしれないってことだよな?」
「……うん、そうだね」
「おかしいだろ。……じゃあこの戦争の被害者は、誰を恨めばいいんだよ! これしか方法がなかった! そんな理由で! こんなたくさんの人が死んでいいはずがないのに!!」
そしてサンは、その握り拳を地面に叩きつける。わずかに彼の腹が痛んだが、そんなことサンにはどうでも良いことだった。ジャカルの妻が死んだ。たくさんの子供たちの母代わりであるカナハが死んだ。
しかし、それら全ての原因である戦争を憎んだとしても、それを好んで開戦する存在などそこにはいなかった。そして、利己的な経済政策を行ったベアルガももうここにはいない。国民はただただ行き場をなくした戦火が燃え広がるのを見ているだけ。
サンは、この戦争が、そして、自身の無力さが、どうしようもなく、憎らしかった。しかし、彼もまたそんな激しい怒りをぶつける相手を持たなかった。
ネクは、そんな彼に寂しそうな目を向けて、言葉を発する。
「……ごめん、サン。その答えは、私にも分からない。とにかくサンはもう、あなたの旅に戻って。私とシェドは、もうカナハがいなくなったし、明日にはレプタリアの本拠地に出発する。じゃあ、さよなら、サン。今まで、本当にありがとう」
そう言葉を言い残すと、ネクは、サンに包帯などの治療道具をいくつか残し、そのまま去っていった。
サンは、ただただ呆然と何も言わずに彼女の姿を見送る。今の彼には、彼女に対して言葉をかけることができなかった。
――これからどうしようか。
三日月が輝く夜、サンは、空の下で独り呆然とこれから先のことを考えた。
正直、これからも戦争に関わりたいとは全く思えない。散々アリゲイトやシェドにも言われた通りサンには信念がない。それなのにそんな自分がこれ以上この戦争に関わるのは、まさに迷惑だ。
しかし、それだときっと戦争の終結が遅れるというのがサンの懸念だった。レプタリアとカニバルの対立。それが長引けば長引くほど、犠牲者はどんどん増えていく。それならば、自分がこれからもカニバルに味方した方が、少しでも犠牲は減るのではないか。幸いベアリオはそれほど支配した国の民を手酷く扱うような男には見えない。
――はは。おい、なんだよ。少しでもって。
そこまで考えを巡らせた時、サンは、自分の考えに苦笑した。今、自分は、少しでも犠牲を減らすための方法を考えようとしたのだ。目に映るもの全てを守ると誓いを立てたのにもかかわらず、少しの犠牲者を見捨てるような真似をしようとした。
サンは力強く、自身のペンダントを握りしめる。
違う。そこは曲げるな。曲げちゃダメだ。
『目に映るもの全てを守る』それは自分自身がここまで掲げてきた信念だ。それを曲げたら、自分は自分じゃなくなってしまう。そして、このペンダントをくれた母に、誇れぬ道を歩むことになってしまう。
『サン。お前はこれから全てを守るという言葉の重みを知っていくだろう。それでも挫けるなよ』
――そうだな。確かに重いよ。この言葉。
不意にサンは、死に際のフォンが自分に残した言葉を思い出した。確かに、フォンの言う通りだ。こんなに自分が口に出す言葉が、重い意味を持つのだということをサンは知らなかった。
――でも、だからこそ、俺は、全部を守れる男になりたい。
そして、それからサンはひたすらに考えた。全てを守る方法を。今まで得た知識や経験を総動員させ、ただ自身の信念に誠実に向き合い考えた。
自分は何を守るのか。
自分は何を救うのか。
自分は何と戦うのか。
『目に映るもの全て』とはなんなのか。
「――――よし、決めた」
そして、サンは、この瞬間、この戦争に対して確かな信念を、その身に宿したのだった。
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