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そして影は立ち伸びる

平和なんてものを守ったって

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「どうだ。なんか成果はあったか」

 日もそこそこに落ち、シェド隊は各自の捜査を終え、例の空き家に集合した。シェドの尋ねに対し、サンは特に回答を持たなかったので、彼は静かにネクの言葉を待つ。するとネクはシェドに対し、言葉を発する。

「……シェド。多分ね。アリゲイトはここに来る頻度は多いと思う」
「本当か? このハクダにか?」

 シェドがネクの発言に反応する中、サンは目を白黒させる。あれ、自分も彼女と同じ調査をしたはずなのだが、なんでだろうか。ネクはそんなサンの様子に気づく様子もなく続ける。

「……このハクダにとある施設があったの。そしてそこにいるカナハって獣人、多分アリゲイトと何度か会ってると思う。目的はわからないけど」
「本当なのか? なんでそんなことわかるんだよ」

次に声を発して大きな反応を示したのはサンだった。なぜなら彼は、彼女が戦争に反対する姿勢を示しているのを聞いていたのだ。それなのになぜ彼女がその戦争を始めた張本人と会っているというのか。

「……まだ憶測に過ぎないけどね。施設の子どもにカナハの交友関係を、それとなく探ってみたの。そしたら、カナハがたまに施設の外で会う人に、アリゲイトの容姿と一致する人がいた。だから可能性は低くは無いよ、きっと」
「最近いつ会ったかとかはわかるか?」
「……ううん、シェド。それはわからなかった。でも決してあっていた回数が一回じゃないとは子どもたちも言っていたよ」

 シェドは、壁に寄りかかり、腕を組んだ。そしてそのまま言葉を続ける。

「じゃあひょっとしたらカナハが何かしらの機密事項を持っているかもしれないな。明日から少しカナハを張ってみよう。何か重大な秘密がわかるかもしれない」
「……了解」
「……ああ、わかったよ」

 ハキハキと返事をするネクとは対照的にサンは少しだけ不服そうな態度で返事をする。張ってみるというのは彼女を尾行しろということ。いくらこの戦争を終わらせるためとはいえ、あれほど善良な獣人に対して何かしらの疑いをかけることをしたくなかった。

 ――カナハが戦争に協力してるわけないと思うけど。

 サンは、そのような思いを抱えながらも、ネクやシェドと共に、それぞれが他に得た情報を交換し合うのだった。


――過去――

 何人かのカニバルの獣人が、血まみれになって倒れている。あるものは首を切られ、あるものは腹を裂かれ、紛れもなく殺すことを目的にして傷つけられた死体達。そんな彼ら達の奥に、真っ赤な血をかぶって佇んでいたのは、アリゲイトだった。

「アリゲイト!!」

 駆け付けたカナハは叫ぶ。アリゲイトが作ったハクダ団は平和を守るチームだった。平和を愛するチームだった。だが目の前の光景にはそんな『ヘイワ』などどこにもありはしない。

 惨劇の向こう、アリゲイトは、虚な眼差しをこちらに投げる。

「ああカナハか。元気か?」
「元気かじゃない! 何をしているの! こんなに、こんなにたくさん人を殺して! ハクダ団に殺しは御法度じゃなかったの?」

 カナハの、声を聞き、アリゲイトは静かに辺りを見渡す。しかし、彼は彼女の質問にたいした答えを返すことなく、自分の言葉を発していく。

「ああ、これは大したことじゃないよ。それよりもさカナハ。俺、軍に入ろうと思うんだ。軍に入って手柄を上げて、この国の代表になる。そして、俺はこの国を守ろうと思う」
「何言ってるの! アリゲイト! 変なこと言わないでよ! あなたは国なんてしがらみに囚われずにここハクダから平和を守るんじゃなかったの! それなのになんでよ! 何があなたを変えてしまったの!」
「……何が俺を変えた、か」

アリゲイトは、静かにカナハの言葉を繰り返した。そして、かすかな笑みを浮かべて彼女に言葉を発する。その表情は、ひどく寂しくて、そして、ひどく無機質なものだった。

「変わってないよ。残念ながらさ、俺の中身は少しも変わってないんだ。ただ俺は、知っちまっただけだ。なぁ、カナハ。どうしてこの世界は、平和なんてものを守ったって、結局何も守れやしないんだろうな」
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