上 下
76 / 214
そして影は立ち伸びる

世界の平和も守るハクダ団

しおりを挟む
――過去――

「おい待てよー」
「ちょっとまってよ。速いって」
「なんだよ、お前らが遅いんだろー」
「そうだそうだ。早く行こーぜ」

 荒廃したスラム街、ハクダにて、自らの貧しさなど振り切るように、活力いっぱいに遊ぶ3人の少年と1人の少女。1人の少年と1人の少女は、先にかけて行った2人の少年に追いつく。息を切らしながら、1人の少女が2人に言った。

「もー速いよ。ゲッコウ、アリゲイト。マムスと私は、2人ぐらい早く走れるわけじゃないんだから」
「ほんとそれ。ねーちょっと休もうぜ」

 マムスと呼ばれた少年は、その少女の発言に深くうなづく。アリゲイトという少年は、その発言に対して、慌てた様子で言葉を返す。

「おいおいそんな暇ないぞ。マムス。カナハ。近所のタトルばあちゃんが、グレイトレイクに水を汲みにいくんだぜ。早く助けにいかないと、ばあちゃん腰悪くしちまうよ」

「そんなに急ぐ必要ないよ。アリゲイト。やすもーよ。それがダメならせめてあるこー」

「そんなこと言ってもリーダーの意思はかわらねぇだろ。マムス。おまえ最近拾った本ばっか読んでて運動不足なんだから、ちょっとは体動かせよ」

「僕は、ゲッコウみたいな体力バカじゃないんだよ。はぁ、やだなぁ。これだから脳筋は、他の人をすぐ自分と当てはめる」

「なんだと! てめぇ今日こそわからせてやる必要がありそうだな」

「やる気? いいよ、今日こそ僕の毒の前には君の再生能力なんて無意味なことを教えてあげる」

 そして互いに拳を構えるゲッコウとマムス。そんな2人にカナハは内心で深くため息をつく。本当にこの2人は昔からウマが合わなくて、よく喧嘩ばかりしていた。カナハは、そんな2人から一歩下がって距離を取る。喧嘩を止めたい気持ちはあるが、自分が止めても、怪我をするだけだ。こんな彼らを止められるのはやはり、リーダーしかいない。

「おいおいやめろよ。それ以上やるようなら2人とも俺がのし倒すぞ」
「だってリーダー、この脳筋がさー」
「あ? おまえの方が先に吹っかけてきたんだろうが! しばくぞ!」
「おいやめろって言ってるだろ。あのなぁ。俺たちは。ハクダの平和、そしてひいては世界の平和も守るハクダ団だろうが。そんな俺たちが、自分たちから平和を乱すようなことをしてどうするんだよ」

 ハクダ団。それは、このアリゲイトが始めた、この街の自警団のようなものだった。もちろん子どもの遊びには違いないのだが、その活動は多岐に渡り、スラム街の人々の手伝いから、ハクダで狼藉を働いたやつへの制裁と様々である。

 もちろん彼らはまだ子どもである。だから本来は大それたことはできないはずなのだが、当時からアリゲイトとゲッコウは大人顔負けの実力を持っていた。そしてマムスは、そんな2人をうまく活用できる頭脳を持っていた。だからこそハクダ団は、このスラム街でそこそこの影響力を持っていたのだ。

「わかったよ。アリゲイトがそういうなら仕方ない。まあゲッコウ、命拾いしたね」
「なんで最初から俺が悪かったみたいになってんだ」
「おいおい、また始めんなよ。とっととタトルばあさんのとこ行こうぜ、カナハもまだ走れるだろ?」

そして、優しく微笑み、こちらへ言葉を投げかけてくる。相変わらずこの人は、眩しいな。カナハは、少女ながら、彼に対し、そんなことを思う。

「わかったよ。早く行こう」

 そして4人の若者たちは、夕日を背に受け走り出す。

 カナハは思う。この頃の私たちは、こんな何気ない日常がいつまでも続くと思っていた。ハクダ団は、このまま4人で、ずっとおかしなことをやって、笑い合って、そのままゆっくりと死んでいくのだと本気で思っていたのだ。

 でももう二度と、こんな日々が繰り返されることはないのだろう。


――現在――

「うお、これは、空き……家? なのか?」

 あまりにもボロボロの内装に、サンはそう呟く。壁には穴が空き、屋根は今にも落ちてきそうで、それはとても家と呼べるものではなかった。そんなサンに対し、ネクはこう告げる。

「……しょうがないの。本来、スラムなんて、場所が空いてたら誰が住み着いてもおかしくない。そんな中で拠点になりそうな場所を見つけるのは、私だって大変だった」
「そうだぞ、サン。あんまわがまま言うなよ。まあとりあえず2人とも座れ。ハクダにもついたことだし、今後の流れを説明する」

 シェドにそう言われ、床に腰をかけるサンとネク。オンボロな床がミシミシミシと軋んだ音を立てる。大丈夫か。抜けないのかこれ。そんな不安を抱えながらも、サンはシェドの方を向く。

 2人が座ったことを確認し、シェドは話を始める。

「まあとりあえず、すぐには敵の本拠地には向かわず、しばらくこの近辺で集められるだけ情報収集をしようと思う。だから、今日からこのハクダの様子も二手に分かれて調査しようと思っている。まあ本来は3つに分かれてもいいんだが、サンは初めてだからな。今日はネクと一緒に行動してくれ。俺は単独で行動する」
「はい、質問です」

「なんだ、サン?」
「俺たちはさ、カニバル軍で、爬虫類でも両生類でもないだろ? 周りの人に怪しまれたりしないのかな?」
「ネクは、最初から爬虫類だし、サンも炎を出さなければ別に何かの獣の特徴が発現しているわけじゃないから大丈夫だろ。それに俺も厚着して、獅子の特徴を隠せば大丈夫さ。ほら、わからないもんだろ」

シェドは、街の様子に合わせたのか、ボロ切れのようなマフラーと手袋をつけ、体にコートを羽織りサンに示す。まあ確かにただの寒がりな一般人には見えるが。

「今春だよ。そんなに厚着する方が怪しまれたりしないのか?」
「大丈夫だよ。この辺の獣人は寒さには弱いからこんくらい厚着しているやつも少なくはない。まあバレないさ。それよりお前もなにか目立つような行動しないよう気をつけろよ。ネクもちゃんと見張っててくれ」
「……うん、わかった」

「なんだよ。人を何するかわからないやつみたいな扱いして」
「単独で敵陣に突っ込む奴の神経は少なくともまともじゃねえよ。じゃあそういう感じで頼むぞ、2人とも。何かあったらすぐ報告してくれ」
「了解」
「……うん。わかった」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

新日本書紀《異世界転移後の日本と、通訳担当自衛官が往く》

橘末
ファンタジー
20XX年、日本は唐突に異世界転移してしまった。 嘗て、神武天皇を疎んだが故に、日本と邪馬台国を入れ換えた神々は、自らの信仰を守る為に勇者召喚技術を応用して、国土転移陣を完成させたのだ。 出雲大社の三男万屋三彦は、子供の頃に神々の住まう立ち入り禁止区画へ忍び込み、罰として仲間達を存在ごと、消されてしまった過去を持つ。 万屋自身は宮司の血筋故に、神々の寵愛を受けてただ一人帰ったが、その時の一部失われた記憶は、自衛官となった今も時折彼を苦しめていた。 そして、演習中の硫黄島沖で、アメリカ艦隊と武力衝突してしまった異世界の人間を、海から救助している作業の最中、自らの持つ翻訳能力に気付く。 その後、特例で通訳担当自衛官という特殊な立場を与えられた万屋は、言語学者が辞書を完成させるまで、各地を転戦する事になるのだった。 この作品はフィクションです。(以下略) 文章を読み易く修正中です。 改稿中に時系列の問題に気付きました為、その辺りも修正中です。 現在、徐々に修正しています。 本当に申し訳ありません。 不定期更新中ですが、エタる事だけは絶対にありませんので、ご安心下さい。

異世界で賢者になったのだが……

加賀 燈夜
ファンタジー
普通の高校生が通り魔に殺された。 目覚めたところは女神の前! そこで異世界転生を決意する 感想とアドバイス頂ければ幸いです。 絶対返すのでよろしくお願い致します。

紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜

覇翔 楼技斗
ファンタジー
「貴様は今日を持ってこの家から追放し、一生家名を名乗ることを禁ずる!」  とある公爵家の三男である『テル』は無能という理由で家を追放されてしまう。  追放されても元・家族の魔の手が届くことを恐れたテルは無理を承知で街を単身で出る。  最初は順調だった旅路。しかしその夜、街の外に蔓延る凶悪な魔物が戦う力の少ないテルに襲いかかる。  魔物により命の危機に瀕した時、遂にテルの能力が開花する……!  これは、自分を追放した家を見返して遂には英雄となる、そんな男の物語。 注意:  最強系ではなく、努力系なので戦いで勝つとは限りません。なんなら前半は負けが多いかも……。  ざまぁ要素も入れる予定ですが、本格的にざまぁするのは後半です。  ハ(検索避け)レム要素は基本的に無いですが、タグにあるように恋愛要素はあります。  『カクヨム』にて先行投稿してします!

二人で最強の陰キャ勇者~追放された陰キャゲーマー、天才陰キャ少女と合体して世界を救う!?~

川上とむ
ファンタジー
クラスカースト底辺で陰キャの主人公・高木 透夜(たかぎ とうや)は、ゲームだけが得意だった。 ある日、彼は勇者召喚に巻き込まれ、数名のクラスメイトとともに異世界に転移してしまう。 そこで付与されたスキルは【合体】と呼ばれる謎スキルだった。 するとクラス委員長は透夜を『勇者になる資格がない役立たず』と決めつけ、同じスキルを持つ橘 朱音(たちばな あかね)とともに追放してしまう。 追放された二人は魔物に襲われるが、その際、【合体】スキルの真の力意味を知ることになる。 同時に朱音が天才的な記憶力を持つことがわかり、戦いのサポートを通じて二人は絆を深めていく。 やがて朱音が透夜に対する恋心を自覚し始めた頃、聖女召喚によって現代日本から一人の少女が転移してくる。 彼女は柊 希空(ひいらぎ のあ)。透夜の幼馴染で、圧倒的陽キャだった。 ライバル発言をする希空に、朱音は焦りを募らせていく。 異世界で勃発した恋の三角関係の結末と、この世界の命運ははいかに……!?

ギミックハウス~第495代目当主~

北きつね
ファンタジー
 男は、重度の肺炎で息を引き取った・・・・。はずであった。  男は知らない豪奢なベッドの上で覚醒する。  男は、自分の手足が縮んでいることを知る。  男に与えられた情報は、少ない。  男が得た物は、豪奢なベッドと、分厚い本だけだ。  男は”ハウス6174”の第495代目当主になったことを知る。  男は、なぜ呼び出されたのか?死にたくなければ、戦わなければならない。  男には、戦う手段が無い。男は、本とハウス6174で侵入者を迎え撃つ。 注)作者が楽しむ為に書いています。   誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。   誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

処理中です...