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そして影は立ち伸びる
シェドはさ。優しい人だから
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――現在――
「……シェドここにいたの?」
カニバル城のベランダで一人夜空を眺めるシェドに彼女はそう声をかける。そんな彼女に気づき。シェドは静かに言葉を述べる。
「ああ、ネクか。どうした? こんな夜中に」
「……別にちょっと話しに来ただけ」
「そうか、珍しいな。物静かなお前が」
――やっぱりちょっと様子がおかしい。
シェド隊諜報部員のネクは、月光が照らすシェドの表情に少しの違和感を覚えていた。先述しておくと、ネクは、親を失ったシェドと共に、ある男にしばらく育てられたのだ。元より、自分を預かっていた男の元に、後からシェドが現れたのだが。だからこそ、もう12年の付き合いにもなる彼女にとって、彼の状態の変化を感じ取ることなど、造作もないことだった。
彼女は、シェドに対して、静かに問いかける。
「……あのサンって獣人、何者なの? 結局、シェドが探している『神』って存在だったわけ?」
「いや、本人が幼少期の記憶を失っていたからよくわからなかった。そんなことより、ネク。すごいことがわかったよ。あのサンってやつ、ヴォルファがよく言ってたアサヒって獣人の息子らしい」
シェドの言葉に、ネクは目を丸くする。最も、ネクは表情がほとんど変わらずその感情が読み取りづらいため、その変化を察知できるのはシェドくらいのものだが。
「――そうなんだ。あのヴォルファさんと旅をしたフェニックスの獣人。それなら、シェドのお母さんも世話になったってことだよね」
「……ああ、そうだな」
シェドは呟くと同時に、静かに俯く。彼のいつもの癖だ。シェドはいつも、亡き母の話をする時は無意識に、地面を見つめる。暗い過去から目を逸らすように。
ネクはそんな彼に対し、静かに質問を重ねる。
「で、そんな彼がどうして、急にこの軍に協力してくれることになったの?」
「別に、大したことはしてないさ。この国の歴史で伝えるべきことをベアリオに話させたら、喜んで協力してくれることになったんだ。ずいぶん、あいつは正義感が強いやつだな。まあ母譲りなんだろうが」
普段通り振る舞って質問に答えるシェド。しかし、ネクはそんな彼が抱える小さな影に気づく。ネクは彼に質問を続ける。
「……ねえ、シェド。その歴史は、カニバルとレプタリアのどこまでを伝えたの?」
「――――」
その質問に対しては答えず、無言で俯くシェド。そんな彼の様子を見て、ネクは今彼が何を抱えているのか気づいた。
それはきっと罪悪感だ。
「……そっか。シェドはまたそうやって、自分の心をすり減らすんだね」
当の本人よりも、遥かにつらそうに、ネクはシェドにそう告げる。シェドは、そんな自身の1番の理解者である幼馴染に、彼の決意を伝える。
「ネク。何度も言ってるはずだろ。俺は、神全員に復讐しなくちゃならない。そしてそのために俺は、他の国を支配していって、このカニバル軍を、神とも戦えるほどに強くしていかなくちゃならない。そのためならどんな手段だって使うさ。どんなやつだって利用して見せる」
ギラギラと野望に燃える復讐者の目。ネクはそんなシェドに、出会った6歳の頃のシェドの姿と重ねる
。
――本当にこの人は、変わらないな。
「ねぇ、シェド。私はさ。シェドはきっと全てを利用することなんてできないと思うんだ」
「どうした? 急に。なんでだよ」
ネクはじっと空を眺める。本当にここから眺める空は、いつも美しい。
「シェドはさ。優しい人だから」
高く美しく、澄んだ声。ネクは微笑みながらシェドに対してそう告げる。微かに細まった目と、僅かに上がる口角。彼女らしい、ささやかな笑顔。
「だといいんだがな」
自虐的な笑みをシェドは浮かべて、ネクの笑顔から目をそらす。あまりにも暖かな彼女の笑顔は、シェドには眩しすぎたのだ。
――ほんとに、ほんとうに。優しいんだね。シェドは。
ふと、シェドの脳裏に母の言葉がよぎる。優しいか。もはや彼女のそんな言葉には似つかわしくないほど、自分はカニバルのためと称して他人を騙し、また、傷つけてきた。母が自分の中に見出した優しさは、あの日神から逃げ出した際、母と共に置いてきてしまったのだろう。
しかし、それでも、目の前の幼馴染は、自分がどんなことをしてきたのか理解していながら、そんな自分の中に優しさが確かにあると言う。
ネクが星空からシェドへと視点を移す。そして微かだが確かに眩しさを伴うその笑顔で、ネクはシェドに告げるのだった。
「シェド。きっとさ、その内現れると思うんだよ。シェドはいつかさ、出会えるんだと思う。シェドの優しさに気づいて、そしてシェドに自分の優しさを気づかせてくれる、そんな人が」
こうしてカニバル軍は、それぞれの思いを胸に、1週間後の南の峠奪還作戦に向けて、準備を進めることになった。しかしもちろん、戦争とは、一つの国だけの間で行われるものではない。レプタリアもまた、いずれくるであろうカニバル軍に対して、確実に兵を固めているのだった。
「……シェドここにいたの?」
カニバル城のベランダで一人夜空を眺めるシェドに彼女はそう声をかける。そんな彼女に気づき。シェドは静かに言葉を述べる。
「ああ、ネクか。どうした? こんな夜中に」
「……別にちょっと話しに来ただけ」
「そうか、珍しいな。物静かなお前が」
――やっぱりちょっと様子がおかしい。
シェド隊諜報部員のネクは、月光が照らすシェドの表情に少しの違和感を覚えていた。先述しておくと、ネクは、親を失ったシェドと共に、ある男にしばらく育てられたのだ。元より、自分を預かっていた男の元に、後からシェドが現れたのだが。だからこそ、もう12年の付き合いにもなる彼女にとって、彼の状態の変化を感じ取ることなど、造作もないことだった。
彼女は、シェドに対して、静かに問いかける。
「……あのサンって獣人、何者なの? 結局、シェドが探している『神』って存在だったわけ?」
「いや、本人が幼少期の記憶を失っていたからよくわからなかった。そんなことより、ネク。すごいことがわかったよ。あのサンってやつ、ヴォルファがよく言ってたアサヒって獣人の息子らしい」
シェドの言葉に、ネクは目を丸くする。最も、ネクは表情がほとんど変わらずその感情が読み取りづらいため、その変化を察知できるのはシェドくらいのものだが。
「――そうなんだ。あのヴォルファさんと旅をしたフェニックスの獣人。それなら、シェドのお母さんも世話になったってことだよね」
「……ああ、そうだな」
シェドは呟くと同時に、静かに俯く。彼のいつもの癖だ。シェドはいつも、亡き母の話をする時は無意識に、地面を見つめる。暗い過去から目を逸らすように。
ネクはそんな彼に対し、静かに質問を重ねる。
「で、そんな彼がどうして、急にこの軍に協力してくれることになったの?」
「別に、大したことはしてないさ。この国の歴史で伝えるべきことをベアリオに話させたら、喜んで協力してくれることになったんだ。ずいぶん、あいつは正義感が強いやつだな。まあ母譲りなんだろうが」
普段通り振る舞って質問に答えるシェド。しかし、ネクはそんな彼が抱える小さな影に気づく。ネクは彼に質問を続ける。
「……ねえ、シェド。その歴史は、カニバルとレプタリアのどこまでを伝えたの?」
「――――」
その質問に対しては答えず、無言で俯くシェド。そんな彼の様子を見て、ネクは今彼が何を抱えているのか気づいた。
それはきっと罪悪感だ。
「……そっか。シェドはまたそうやって、自分の心をすり減らすんだね」
当の本人よりも、遥かにつらそうに、ネクはシェドにそう告げる。シェドは、そんな自身の1番の理解者である幼馴染に、彼の決意を伝える。
「ネク。何度も言ってるはずだろ。俺は、神全員に復讐しなくちゃならない。そしてそのために俺は、他の国を支配していって、このカニバル軍を、神とも戦えるほどに強くしていかなくちゃならない。そのためならどんな手段だって使うさ。どんなやつだって利用して見せる」
ギラギラと野望に燃える復讐者の目。ネクはそんなシェドに、出会った6歳の頃のシェドの姿と重ねる
。
――本当にこの人は、変わらないな。
「ねぇ、シェド。私はさ。シェドはきっと全てを利用することなんてできないと思うんだ」
「どうした? 急に。なんでだよ」
ネクはじっと空を眺める。本当にここから眺める空は、いつも美しい。
「シェドはさ。優しい人だから」
高く美しく、澄んだ声。ネクは微笑みながらシェドに対してそう告げる。微かに細まった目と、僅かに上がる口角。彼女らしい、ささやかな笑顔。
「だといいんだがな」
自虐的な笑みをシェドは浮かべて、ネクの笑顔から目をそらす。あまりにも暖かな彼女の笑顔は、シェドには眩しすぎたのだ。
――ほんとに、ほんとうに。優しいんだね。シェドは。
ふと、シェドの脳裏に母の言葉がよぎる。優しいか。もはや彼女のそんな言葉には似つかわしくないほど、自分はカニバルのためと称して他人を騙し、また、傷つけてきた。母が自分の中に見出した優しさは、あの日神から逃げ出した際、母と共に置いてきてしまったのだろう。
しかし、それでも、目の前の幼馴染は、自分がどんなことをしてきたのか理解していながら、そんな自分の中に優しさが確かにあると言う。
ネクが星空からシェドへと視点を移す。そして微かだが確かに眩しさを伴うその笑顔で、ネクはシェドに告げるのだった。
「シェド。きっとさ、その内現れると思うんだよ。シェドはいつかさ、出会えるんだと思う。シェドの優しさに気づいて、そしてシェドに自分の優しさを気づかせてくれる、そんな人が」
こうしてカニバル軍は、それぞれの思いを胸に、1週間後の南の峠奪還作戦に向けて、準備を進めることになった。しかしもちろん、戦争とは、一つの国だけの間で行われるものではない。レプタリアもまた、いずれくるであろうカニバル軍に対して、確実に兵を固めているのだった。
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