37 / 214
そして影は立ち伸びる
中々アツい奴ですよ
しおりを挟むするとその時、また、木陰から声が聞こえてきた。
「うおい! どこだ! ウガイ!! 逃げるなんてアツくないぞ!? どこだ! おい! あ、いた! ってあれ!? 倒れてる!?」
また何やらうるさいのがきたな。そう思い、サンが声のした方向をぼーっと眺めていると、ジャックが、衝撃の一言を口走る。
「あ! 父さんの声だ?」
「え? 父さん?」
思わず素っ頓狂な声をあげるサン。やたらと騒がしい声を出す男は、サンたちに気づくと、満面の笑みを浮かべて、こちらに走ってくる。
「おおおおー! ジャックじゃないか! こんなところであうとはな! もしかして、このウガイはお前がやったのか?」
「そんなわけないじゃん。父さん。この人がやってくれたんだ。紹介するよ! 最近旅を始めたサン! すっごく強いんだよ」
「あ、えっと、その、こんにちは」
薄々気づいている人も多いと思うが、サンは、太陽を目指していても、俗な言い方をすれば性格は決して陽のキャラではない。そのため、サンは熱血感満載で登場してきたジャックの父親に対し、恐る恐ると言った感じで挨拶をする。
「そうか、あんたがやってくれたのか! 強いんだな! 俺はジャカル! カニバル国シェド隊の切り裂きジャカルだ! よろしくな!」
「あ、はい、よろしく」
シェド隊の切り裂きジャカルと言われても、この辺の獣人じゃないからピンとこないのだが。サンはそんな気持ちを覚えながらも、ジャカルに対して挨拶する。そんなサンの挨拶を見届けた後、ジャックが父に言葉をかける。
「そうか、この辺りまでもう、戦いは広がってるんだね。あれ? でも、父さんがいるってことは、シェドさんたちもいるの?」
「ああ、いるぞ! でもちょっと先行き過ぎちゃったみたいだな! 俺はアツい男だから」
そんな彼の言葉が終わる頃に、また声が聞こえてくる。
「あーやっと見つけた。ったく、生き急ぎすぎなんだよジャカルは」
「……うん、もう少し、ゆっくりでもいい」
ジャカルの後に続いてきたのは、紫色の鱗に身を包んだ、柔らかなシルエットが特徴的な、女性で蛇の獣人と、黒い立髪が特徴的な獅子の獣人だった。
「うわ、シェドさんとネクさんだ! カッコいい!!」
「どんどん出てくるな。ジャック。あの人たちは誰?」
「そっか、サンは知らないんだね。カニバル国で大人気の2人を。ネクさんはね。女性で爬虫類にも関わらず、ここカニバル国のために多くの諜報活動をしてきた凄腕スパイ。そして、シェドさんは、ここカニバル国最強の獣人なんだよ。かっこいいよね。そして、そこに僕の父さんを加えた、カニバル国最強の少人数部隊がシェド隊なんだ!」
早口で捲し立てるように説明するジャック。そんな説明にしっかりサンは耳を傾ける。なるほど、ようは、ここの国民からとても頼りにされてる軍人たちってことか。たしかに言われてみれば、誰も彼もさっきのカエル程度は上回るほどのオーラを放っている。サンは彼らの強さを肌で感じる。
そんな彼らを尻目に、シェドと呼ばれる黒い立髪の男が喋り出す。よくよく見ると彼の頬には、大きな一つの切り傷がついていた。なんなのだろう、フォンといい見た目がライオンの獣人は顔に傷を入れるのがトレンドなのだろうか。
「おお、ちゃんと仕留めたじゃねえか。アマガエル兄弟の兄とウガイか。大したもんだなジャカル。ちゃんとこいつらを捕虜にして持ち替えれば、またうちの隊の評判も上がるだろう」
彼の言葉を聞いて、アマガエルの獣人が1人足りないことにサンは気づく。どうやら、ジャカルが来た時の混乱に乗じて逃げ出したようだ。
「いえいえ! 違いますよ! 俺は何もしてないんです! どうやら息子の話では、ここにいるサンってやつが倒してくれたらしいんです! すごいですよね! 隊長格と副隊長格をまとめてなんて。なかなかアツいやつですよ!!」
「なるほど、お前がやってくれたのか。大した腕を持ってるんだな。……ん?」
するとその瞬間、サンの体に激しく寒気が走った。訳のわからぬ感覚にサンも驚く。理由はサンにはわからない。ただサンのことを見た瞬間、このシェドという男から、はっきりとした殺気が感じ取れた。
シェドは、しばらくサンを見つめた後彼から目を逸らした。そして彼は、ネクとジャカルに言う。
「おい、ネク、ジャカル。2人は、このカエルどもを捕縛して、先に軍に戻っておいてくれるか? 俺は隊長として、少しこいつに礼を言ってから行くよ。あ、あとジャカル。お前の息子も連れて行っとけ。ここはまだ敵の残党がいるかもしれないしな」
「分かりました! 隊長。自分の分まで、アツいお礼よろしくお願いします!」
するとジャカルとネクはあっという間にカエルたちを縛り上げ、ジャカルはウガイを、ネクはアマガエルを背負い上げた。
そして、退散しようと言うときに、ふと、ネクが静かにシェドに向かって言葉を放つ。
「…-シェド。大丈夫? 変なことはしないようにね」
「ああ、大丈夫だよ。心配するな」
そしてジャックもサンに向かって笑顔で手を振った。
「じゃあね! サンにいちゃん! また会おう!」
「ああ、またな」
そして、3人の獣人が静かに去っていった。
シェドが静かにサンに向かって声をかける。
「さて、じゃあ改めて……礼を言わせてもらおうか!」
その瞬間、シェドが振り向き様に、爪を立て、サンのことを切り裂こうとする。するとサンは咄嗟に、刀を胸の前に構え、シェドの攻撃を防ぐのだった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜
四乃森 コオ
ファンタジー
勇者によって魔王が討伐されてから千年の時が経ち、人族と魔族による大規模な争いが無くなっていた。
それでも人々は魔族を恐れ、いつ自分たちの生活を壊しに侵攻してくるのかを心配し恐怖していた ───── 。
サーバイン戦闘専門学校にて日々魔法の研鑽を積んでいたスズネは、本日無事に卒業の日を迎えていた。
卒業式で行われる『召喚の儀』にて魔獣を召喚する予定だっのに、何がどうなったのか魔族を統べる魔王クロノを召喚してしまう。
訳も分からず契約してしまったスズネであったが、幼馴染みのミリア、性格に難ありの天才魔法師、身体の頑丈さだけが取り柄のドワーフ、見習い聖騎士などなどたくさんの仲間たちと共に冒険の日々を駆け抜けていく。
そして・・・スズネと魔王クロノ。
この二人の出逢いによって、世界を巻き込む運命の歯車がゆっくりと動き出す。
■毎週月曜と金曜に更新予定です。
ペット(老猫)と異世界転生
童貞騎士
ファンタジー
老いた飼猫と暮らす独りの会社員が神の手違いで…なんて事はなく災害に巻き込まれてこの世を去る。そして天界で神様と会い、世知辛い神様事情を聞かされて、なんとなく飼猫と共に異世界転生。使命もなく、ノルマの無い異世界転生に平凡を望む彼はほのぼののんびりと異世界を飼猫と共に楽しんでいく。なお、ペットの猫が龍とタメ張れる程のバケモノになっていることは知らない模様。
紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜
覇翔 楼技斗
ファンタジー
「貴様は今日を持ってこの家から追放し、一生家名を名乗ることを禁ずる!」
とある公爵家の三男である『テル』は無能という理由で家を追放されてしまう。
追放されても元・家族の魔の手が届くことを恐れたテルは無理を承知で街を単身で出る。
最初は順調だった旅路。しかしその夜、街の外に蔓延る凶悪な魔物が戦う力の少ないテルに襲いかかる。
魔物により命の危機に瀕した時、遂にテルの能力が開花する……!
これは、自分を追放した家を見返して遂には英雄となる、そんな男の物語。
注意:
最強系ではなく、努力系なので戦いで勝つとは限りません。なんなら前半は負けが多いかも……。
ざまぁ要素も入れる予定ですが、本格的にざまぁするのは後半です。
ハ(検索避け)レム要素は基本的に無いですが、タグにあるように恋愛要素はあります。
『カクヨム』にて先行投稿してします!
追放歌姫の異世界漫遊譚
あげは
ファンタジー
「お前、クビな」
突然Aランクパーティー『銀の戦剣』を追放された少女リリナ。
リリナは『歌姫』というユニークジョブの持ち主だった。
歌うことで、守り・攻撃・回復すべてを担うことができる万能職である。
そんな彼女は、幼いころにいなくなった母を探すという目的を立て、旅に出ることを決意し、
道中出会った魔物や幻獣、精霊を仲間に加え、気の向くままに世界を回る。
一人の少女とモフモフたちによる漫遊譚が、幕を開ける。
一方で、リリナを追放した『銀の戦剣』は、リリナの知らぬ間に落ちぶれていくのであった……。
*なろう、カクヨムにも投稿
二人で最強の陰キャ勇者~追放された陰キャゲーマー、天才陰キャ少女と合体して世界を救う!?~
川上とむ
ファンタジー
クラスカースト底辺で陰キャの主人公・高木 透夜(たかぎ とうや)は、ゲームだけが得意だった。
ある日、彼は勇者召喚に巻き込まれ、数名のクラスメイトとともに異世界に転移してしまう。
そこで付与されたスキルは【合体】と呼ばれる謎スキルだった。
するとクラス委員長は透夜を『勇者になる資格がない役立たず』と決めつけ、同じスキルを持つ橘 朱音(たちばな あかね)とともに追放してしまう。
追放された二人は魔物に襲われるが、その際、【合体】スキルの真の力意味を知ることになる。
同時に朱音が天才的な記憶力を持つことがわかり、戦いのサポートを通じて二人は絆を深めていく。
やがて朱音が透夜に対する恋心を自覚し始めた頃、聖女召喚によって現代日本から一人の少女が転移してくる。
彼女は柊 希空(ひいらぎ のあ)。透夜の幼馴染で、圧倒的陽キャだった。
ライバル発言をする希空に、朱音は焦りを募らせていく。
異世界で勃発した恋の三角関係の結末と、この世界の命運ははいかに……!?
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる