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そして影は立ち伸びる

ヒャクショーハマッケンニキタス

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 飛行船の旅は、サンにとってあまり快適なものではなかった。

 何故かと言われたら何よりもまあ揺れるのだ。だから、きっと、全く降りるつもりのない停車場で一旦降りて休憩しようと思っても、それはきっと無理もないことなのだろう。

 そして、体を休めているうちに、その飛行船が行ってしまったとしても、きっとどうしようもなかったのだと思う。

「え~、どこだよ、ここ」

 サンは、思わず心の声を漏らした。一応看板にはカニバル国と書いてあるが、周りに何か目印になるような建物があるわけでもない。

 サンは仕方ないので、ベンチに腰掛け、次の飛行船がくるのを待つことにした。大きなため息をついて、リュックから紙を取り出す。

 ――えーっと目的地は、ハビボル国だったか。あー全然違うな、ここ。

 今、サンが取り出しているのは、ファルが書いた紹介状のようなものだ。

 旅に出ると決まった時、サンはファルに、こう言われた。

『サン、旅に出ると言ってもまだどこにいくか決まってないだろ? なら、グランディアのハビボル国にいる俺の友人のラビってやつを尋ねろ。あいつならきっとお前にもっと修行をつけてやれる。強くなりたいんだろ?』

そのため、ハビボル国に停車する飛行船に乗ったのだが、結果はこのざまである。さて、今自分がいる場所はどこに当たるのだろうか。サンは、グランディア、スカイル、シーラについて記されている地図を開いた。

 ――ふむふむ、なるほど。

 地図によると、ここカニバル国は、トラやヒョウのような、哺乳類肉食動物の獣人が生息している地域らしい。畜産業が盛んで、上質な肉を他の地方にも輸出している。ちなみに、ここグランディアに存在する国は、カニバル国の他に農業が盛んな哺乳類草食動物の国、ハビボル国、爬虫類と両生類の国、レプタリア国の3つだ。

 しかし、確かグランディアの中でも、カニバルとレプタリアは戦争中だったはず。だから、ハチさんは肉の仕入れに困っていたわけだが、とするとサンがいるところは戦争中の国土ということになる。通りで獣人が他にいないわけだ。

 まあ、次の飛行船に乗れば大して問題はないだろう。そんなことを考えているサンに、子どもの声が聞こえた。

「あれ? なんでこんなところにお客さんがいるの? ここ、カニバル国の中でもすっごく田舎の場所なのに」

サンは声をした方向に顔を向ける。するとそこには、尖った耳に茶色の毛並みを持った、おそらく8歳程のジャッカルと思われる獣人の姿があった。

 おお、ジャッカルの獣人ってあんなに体が細くて、耳も尖ってるのか。友人のハイエナと近い動物なのに、種が違うだけでここまで違うものなのだなとサンは驚く。

 そんな気持ちを抱えながらも、サンはその子どもに対して言葉を返す。

「なんかね、飛行船に置いてかれちゃったんだ。いやぁ一度降りたのが間違いだった。まあ、次の飛行船を待ってみるよ」
「何言ってんの、にいちゃん。ここは田舎だからしばらく飛行船なんか降りてこないよ。ちゃんと時刻表みたの?」
「え?」

 ジャッカルの子どもにそう言われ、慌ててこの停車場の壁を見回すサン。するとそこにちゃんと飛行船の時刻表が乗っていた。そこでサンは、次の飛行船が来るのが2時間後であることを確認する。サンは自身の運のなさを呪った。

 失望するサンの表情を見て、ジャッカルはケタケタと笑いながら、言葉を発する。

「全くうっかりやなにいちゃんだなぁ。じゃあ、こうしよ! 僕がここの1番綺麗なところを教えてあげるよ。カンソウセイショってやつ? ちょうど暇だったからさ」

 おそらく観光名所のことだろうな。サンは頭の中で少年の訳のわからぬ単語を訂正しつつ、考えた。どうしたものか、正直、戦地に降りることは全く計算外であり、あまり長居しても命の危険に関わりうる。しかし、ここに降りたのも何かの縁なのだから、現地の人が紹介する観光名所ぐらい、回ってみたいような気もする。

「うん、じゃあ、お願いしようかな」
「やった! そうだよ! せっかく降りたんだから色々見て行った方がいいしね。ヒャクショーハマッケンニキタスっていうし」

多分、百聞は一見に如かずって言いたいんだろう。そんな彼のことをサンは微笑ましく感じながら、彼の後をついていくのだった。
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