32 / 214
そして影は立ち伸びる
神を! 一人残らず殺してやる!!
しおりを挟む
――過去――
――どうして?
6歳の少年、シェドの脳内は、その言葉で溢れていた。彼には全く理解することができなかったのだ。なぜ、母と自分が今、命の危険に晒されなければならないのか。
「行きなさい、シェド。私はもう、一緒にはいけない」
木陰に隠れながら、シェドの母が彼に対してそう呟く。
シェドはそんな彼女に言葉を返す。
「嫌だ、母さんを置いてなんかいけないよ!」
涙を浮かべ、そう訴えるシェド。しかし、そんな彼に対して、母は優しく首を振る。
「ごめんね、シェド。本当は私も一緒に行ってあげたい。でも、もうこの傷だときっと、それは難しいの」
母の言葉に、シェドは、思わず彼女の背中を見る。ユキヒョウの獣人である、彼女の背中には、真っ白な毛皮に大きな赤い切り傷が備わっていた。
「嫌だ、嫌だよ、母さん。これからもずっと一緒に暮らすんだ。大体なんで俺たちが殺されなきゃいけないんだよ。裏切ったのは父さんじゃないか! それになんで村のみんなは助けてくれないんだよ! 今まで、あんなに母さんは頑張っていたのに」
「シェド」
そう言って、母はじっと自分の目を見据える。そして、暖かな眼差しで、彼女は続ける。
「いい? 誰かを恨んではダメ。きっと村のみんなには、私にとってのシェドと同じくらい大切なものがあったの。だから『神』に立ち向かえなかったの。それに父さんがしたことにもきっと理由があったんだわ。あなたの強さと優しさは、父さんからもらったものなんだから」
そう言って、母さんは真っ白な手で、自分の黒い立髪を撫でる。自分が獅子の獣人であることを象徴する髪。そして、母ではなく、父の因子を、自分は引き継いだことの証明。
「おい! どこ行きやがった! 戦争首謀者の嫁が!! のうのうとお前だけ生きてられると思ってるのか?」
ある男の怒声が聞こえる。きっと先程母の背中を切り裂いた、全身に黒い鎧を纏った神と名乗りし男の声だ。
「もう行きなさい! シェド。このままじゃあなたまで殺されてしまう!」
「嫌だ! 嫌だよ、母さんと離れたくない」
「シェド。大丈夫よ、あなたならきっと、素晴らしい人たちに囲まれるわ。私でさえ、自慢の友人に会えたのだもの。だから――母さんがいなくても、あなたは大丈夫」
「ダメだよ、そんなの嫌だ……」
すると、彼の母は、再び温かい手のひらを彼の頬にあてた。そして、目に涙を浮かべながらも、彼女は確かに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、シェド。さよなら、あなたのこと大好きだからね」
すると、彼の母親は、木陰から飛び出した。鎧の男が、彼女を見つけ、歪な笑みを浮かべる。
「よお、やっと見つけたぜ。おい? 息子もいたはずだろう? どこにやった?」
「もう、逃げたわ」
助けなきゃ、シェドは強く心の中でそう思った。今飛び出して、あの鎧の男を倒すんだ。幸い身につけていたバッグに、小さなナイフが入っている。それであの鎧の男を殺す。それしか、自分と母親が助かる方法はない。
しかし、無意識のうちに彼の足は、母親からどんどん遠ざかっていった。少年は、6歳にしてはあまりにも優秀な頭脳を持っていた。だから、彼は痛いほどに分かっていたのだ。自分ではあの男に勝てないと。自分が逃げないと、母の死がただ無駄になってしまうと。
このまま無謀に戦いを挑み、母と命を落とした方が幸せだったのかもしれない。しかし、彼は悲しいことに、それができないほど賢すぎたのだ。
――クソックソックソ!!
拳を握りしめ、ただ走るシェド。そんな彼に母と男の会話が聞こえてくる。
「逃げただと!? 命からがら息子を逃すとは泣ける親子愛じゃねぇか。まあ、どうせいつかは息子も殺すけどな」
「シェドは、あなたには負けないわ」
「あ? 何馬鹿なこと言ってるんだよ?」
「私の息子は、強い子よ。今はまだ逃げることしかできないかもしれない。でも、あの子にはね、他の人にはない強さがある。それは、本当に必要なことをちゃんと選び取れる強さ。だからこそ、あの子は、あなたより必ず強くなる」
「はっ! 血でも流しすぎて馬鹿になったのか? 獣如きが、神に勝てるわけねぇだろうが!?」
「そんなことないわ! アサヒたちが証明した! 私たちでも、あなたたちと戦えるということを! そして、私たち獣にも、太陽の下を堂々と歩く権利があるということを! 見てなさい! シェドは、きっと全てを照らす太陽になれるから」
「そうかよ! 親バカが、さっさと死ねや!!」
――ズドン。
刃物が、肉塊を突き刺す音が聞こえた。
しかし、シェドは足を止めなかった。振り向いたら、今の母さんの姿を見たら、足が止まることは、分かっているから。
――ちくしょう! ちくしょう!!
声にならない声をあげて、シェドはひたすらに走る。
弱いからだ。自分が母を失う理由を、シェドは痛いほどよく分かっていた。自分が弱いから奪われる。自分が弱いから、大切なものが 消えていく。
――強くなってやる! 誰にも負けないくらい強くなってやる!
シェドは霞んだ世界をただ駆け抜けながら、強く決意した。そして、激しい憎悪を持って、彼は心の中で、誓いを立てる。
――そして! 神を! 一人残らず殺してやる!!
添削がやっと終了したので二部投稿を始めようかと思います。二部は、サンの心の成長がテーマです。よろしくお願いします。
――どうして?
6歳の少年、シェドの脳内は、その言葉で溢れていた。彼には全く理解することができなかったのだ。なぜ、母と自分が今、命の危険に晒されなければならないのか。
「行きなさい、シェド。私はもう、一緒にはいけない」
木陰に隠れながら、シェドの母が彼に対してそう呟く。
シェドはそんな彼女に言葉を返す。
「嫌だ、母さんを置いてなんかいけないよ!」
涙を浮かべ、そう訴えるシェド。しかし、そんな彼に対して、母は優しく首を振る。
「ごめんね、シェド。本当は私も一緒に行ってあげたい。でも、もうこの傷だときっと、それは難しいの」
母の言葉に、シェドは、思わず彼女の背中を見る。ユキヒョウの獣人である、彼女の背中には、真っ白な毛皮に大きな赤い切り傷が備わっていた。
「嫌だ、嫌だよ、母さん。これからもずっと一緒に暮らすんだ。大体なんで俺たちが殺されなきゃいけないんだよ。裏切ったのは父さんじゃないか! それになんで村のみんなは助けてくれないんだよ! 今まで、あんなに母さんは頑張っていたのに」
「シェド」
そう言って、母はじっと自分の目を見据える。そして、暖かな眼差しで、彼女は続ける。
「いい? 誰かを恨んではダメ。きっと村のみんなには、私にとってのシェドと同じくらい大切なものがあったの。だから『神』に立ち向かえなかったの。それに父さんがしたことにもきっと理由があったんだわ。あなたの強さと優しさは、父さんからもらったものなんだから」
そう言って、母さんは真っ白な手で、自分の黒い立髪を撫でる。自分が獅子の獣人であることを象徴する髪。そして、母ではなく、父の因子を、自分は引き継いだことの証明。
「おい! どこ行きやがった! 戦争首謀者の嫁が!! のうのうとお前だけ生きてられると思ってるのか?」
ある男の怒声が聞こえる。きっと先程母の背中を切り裂いた、全身に黒い鎧を纏った神と名乗りし男の声だ。
「もう行きなさい! シェド。このままじゃあなたまで殺されてしまう!」
「嫌だ! 嫌だよ、母さんと離れたくない」
「シェド。大丈夫よ、あなたならきっと、素晴らしい人たちに囲まれるわ。私でさえ、自慢の友人に会えたのだもの。だから――母さんがいなくても、あなたは大丈夫」
「ダメだよ、そんなの嫌だ……」
すると、彼の母は、再び温かい手のひらを彼の頬にあてた。そして、目に涙を浮かべながらも、彼女は確かに言葉を紡ぐ。
「ねぇ、シェド。さよなら、あなたのこと大好きだからね」
すると、彼の母親は、木陰から飛び出した。鎧の男が、彼女を見つけ、歪な笑みを浮かべる。
「よお、やっと見つけたぜ。おい? 息子もいたはずだろう? どこにやった?」
「もう、逃げたわ」
助けなきゃ、シェドは強く心の中でそう思った。今飛び出して、あの鎧の男を倒すんだ。幸い身につけていたバッグに、小さなナイフが入っている。それであの鎧の男を殺す。それしか、自分と母親が助かる方法はない。
しかし、無意識のうちに彼の足は、母親からどんどん遠ざかっていった。少年は、6歳にしてはあまりにも優秀な頭脳を持っていた。だから、彼は痛いほどに分かっていたのだ。自分ではあの男に勝てないと。自分が逃げないと、母の死がただ無駄になってしまうと。
このまま無謀に戦いを挑み、母と命を落とした方が幸せだったのかもしれない。しかし、彼は悲しいことに、それができないほど賢すぎたのだ。
――クソックソックソ!!
拳を握りしめ、ただ走るシェド。そんな彼に母と男の会話が聞こえてくる。
「逃げただと!? 命からがら息子を逃すとは泣ける親子愛じゃねぇか。まあ、どうせいつかは息子も殺すけどな」
「シェドは、あなたには負けないわ」
「あ? 何馬鹿なこと言ってるんだよ?」
「私の息子は、強い子よ。今はまだ逃げることしかできないかもしれない。でも、あの子にはね、他の人にはない強さがある。それは、本当に必要なことをちゃんと選び取れる強さ。だからこそ、あの子は、あなたより必ず強くなる」
「はっ! 血でも流しすぎて馬鹿になったのか? 獣如きが、神に勝てるわけねぇだろうが!?」
「そんなことないわ! アサヒたちが証明した! 私たちでも、あなたたちと戦えるということを! そして、私たち獣にも、太陽の下を堂々と歩く権利があるということを! 見てなさい! シェドは、きっと全てを照らす太陽になれるから」
「そうかよ! 親バカが、さっさと死ねや!!」
――ズドン。
刃物が、肉塊を突き刺す音が聞こえた。
しかし、シェドは足を止めなかった。振り向いたら、今の母さんの姿を見たら、足が止まることは、分かっているから。
――ちくしょう! ちくしょう!!
声にならない声をあげて、シェドはひたすらに走る。
弱いからだ。自分が母を失う理由を、シェドは痛いほどよく分かっていた。自分が弱いから奪われる。自分が弱いから、大切なものが 消えていく。
――強くなってやる! 誰にも負けないくらい強くなってやる!
シェドは霞んだ世界をただ駆け抜けながら、強く決意した。そして、激しい憎悪を持って、彼は心の中で、誓いを立てる。
――そして! 神を! 一人残らず殺してやる!!
添削がやっと終了したので二部投稿を始めようかと思います。二部は、サンの心の成長がテーマです。よろしくお願いします。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~
中島健一
ファンタジー
[ルールその1]喜んだら最初に召喚されたところまで戻る
[ルールその2]レベルとステータス、習得したスキル・魔法、アイテムは引き継いだ状態で戻る
[ルールその3]一度経験した喜びをもう一度経験しても戻ることはない
17歳高校生の南野ハルは突然、異世界へと召喚されてしまった。
剣と魔法のファンタジーが広がる世界
そこで懸命に生きようとするも喜びを満たすことで、初めに召喚された場所に戻ってしまう…レベルとステータスはそのままに
そんな中、敵対する勢力の魔の手がハルを襲う。力を持たなかったハルは次第に魔法やスキルを習得しレベルを上げ始める。初めは倒せなかった相手を前回の世界線で得た知識と魔法で倒していく。
すると世界は新たな顔を覗かせる。
この世界は何なのか、何故ステータスウィンドウがあるのか、何故自分は喜ぶと戻ってしまうのか、神ディータとは、或いは自分自身とは何者なのか。
これは主人公、南野ハルが自分自身を見つけ、どうすれば人は成長していくのか、どうすれば今の自分を越えることができるのかを学んでいく物語である。
なろうとカクヨムでも掲載してまぁす
適正異世界
sazakiri
ファンタジー
ある日教室に突然現れた謎の男
「今から君たちには異世界に行ってもらう」
そんなこと急に言われても…
しかし良いこともあるらしい!
その世界で「あること」をすると……
「とりあいず帰る方法を探すか」
まぁそんな上手くいくとは思いませんけど
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
魔王召喚 〜 召喚されし歴代最強 〜
四乃森 コオ
ファンタジー
勇者によって魔王が討伐されてから千年の時が経ち、人族と魔族による大規模な争いが無くなっていた。
それでも人々は魔族を恐れ、いつ自分たちの生活を壊しに侵攻してくるのかを心配し恐怖していた ───── 。
サーバイン戦闘専門学校にて日々魔法の研鑽を積んでいたスズネは、本日無事に卒業の日を迎えていた。
卒業式で行われる『召喚の儀』にて魔獣を召喚する予定だっのに、何がどうなったのか魔族を統べる魔王クロノを召喚してしまう。
訳も分からず契約してしまったスズネであったが、幼馴染みのミリア、性格に難ありの天才魔法師、身体の頑丈さだけが取り柄のドワーフ、見習い聖騎士などなどたくさんの仲間たちと共に冒険の日々を駆け抜けていく。
そして・・・スズネと魔王クロノ。
この二人の出逢いによって、世界を巻き込む運命の歯車がゆっくりと動き出す。
■毎週月曜と金曜に更新予定です。
異世界転生した先の魔王は私の父親でした。
雪月花
ファンタジー
不慮の事故で死んだ主人公・七海が転生した先は、なんと自分の父親が魔王として君臨している世界であった!
「なんでパパが異世界で魔王やってるのー!?」
それは七海のかつての夢を叶えるために世界征服をしようとしている究極の親バカ魔王の姿であった。
最強の魔王は主人公のパパ。
しかも娘を溺愛しているために、部下は勿論、四天王も主人公には頭が上がらず。
わけのわからない理由で世界征服しようとしている魔王なパパを今日も主人公の鋭いツッコミと共に右ストレートをお見舞いする。
そんなこんなで気づくと勇者になってしまった主人公は魔王な父親と更に複雑な関係に……。
魔王の父親とはからずも勇者になってしまった娘。ふたりの親子による物語が異世界を巻き込んでいく。なお後半シリアス。
※小説家になろう、カクヨムにて同作品を公開しております。
紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜
覇翔 楼技斗
ファンタジー
「貴様は今日を持ってこの家から追放し、一生家名を名乗ることを禁ずる!」
とある公爵家の三男である『テル』は無能という理由で家を追放されてしまう。
追放されても元・家族の魔の手が届くことを恐れたテルは無理を承知で街を単身で出る。
最初は順調だった旅路。しかしその夜、街の外に蔓延る凶悪な魔物が戦う力の少ないテルに襲いかかる。
魔物により命の危機に瀕した時、遂にテルの能力が開花する……!
これは、自分を追放した家を見返して遂には英雄となる、そんな男の物語。
注意:
最強系ではなく、努力系なので戦いで勝つとは限りません。なんなら前半は負けが多いかも……。
ざまぁ要素も入れる予定ですが、本格的にざまぁするのは後半です。
ハ(検索避け)レム要素は基本的に無いですが、タグにあるように恋愛要素はあります。
『カクヨム』にて先行投稿してします!
ダンジョン美食倶楽部
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
長年レストランの下働きとして働いてきた本宝治洋一(30)は突如として現れた新オーナーの物言いにより、職を失った。
身寄りのない洋一は、飲み仲間の藤本要から「一緒にダンチューバーとして組まないか?」と誘われ、配信チャンネル【ダンジョン美食倶楽部】の料理担当兼荷物持ちを任される。
配信で明るみになる、洋一の隠された技能。
素材こそ低級モンスター、調味料も安物なのにその卓越した技術は見る者を虜にし、出来上がった料理はなんとも空腹感を促した。偶然居合わせた探索者に振る舞ったりしていくうちに【ダンジョン美食倶楽部】の名前は徐々に売れていく。
一方で洋一を追放したレストランは、SSSSランク探索者の轟美玲から「味が落ちた」と一蹴され、徐々に落ちぶれていった。
※カクヨム様で先行公開中!
※2024年3月21で第一部完!
バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話
紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界――
田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。
暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。
仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン>
「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。
最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。
しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。
ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと――
――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。
しかもその姿は、
血まみれ。
右手には討伐したモンスターの首。
左手にはモンスターのドロップアイテム。
そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。
「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」
ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。
タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。
――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる