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あの空の上に陽は昇る
お前の目な。すごくそっくりなんだよ。アサヒに
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――過去――
「お前!? どうしてそのペンダントを」
道場からの帰り道、唐突に唐突にそう声をかけられて、とても驚いたのを、サンは覚えている。
「え?」
「そのペンダントだよ! 刀型のペンダント。どこで手に入れたんだ?」
凄まじい剣幕で詰め寄られるサン。どこで手に入れたと言われても、別段どこかで購入したわけでもない。サンは、目の前の獣人に対し、正直に答えた。
「どうしたも何も、最初から持ってたんです。多分親にもらったんだと思います。もっとも俺には両親の記憶はないんですけど」
親という言葉を聞いて、目の前の獣人はピクリと体を震わせる。そして、彼らほんの少しの涙を浮かべて言った。
「そうか、じゃあやっぱり、お前がアサヒの子なのか。会えてよかった。でも、どうして?」
感動しながらもなんらかの事実に戸惑っている彼。
しかししばらくそうしていると、その獣人は、サンに向かって、こう告げる。
「じゃあ、少し俺と話をしないか。お前の母さんにはすごく世話になったんだよ。あと、お前は、他の人から母さんの話はどれくらい聞いてるんだ?」
「あまり聞いてません。施設の方針で過去の話はしちゃダメなことになってて」
「そんなのもったいない! お前の母さんは本当に素晴らしい人だったんだぞ。あいつの息子として、あいつの生き様は知っておいた方がいい。だから少しだけ話を聞いてくれないか」
正直、文字通り知らない人に急に声をかけられて、果たしてついていっていいのかという疑問はあった。しかし、この獣人の目は決して嘘をついているようには見えなかったし、本当に自分の母親に感謝している様子だった。
「わかりました。聞かせてください。母さんのこと」
「よしきた。ちょっと長くなるぞ。あ、そうそう、急に会ったのにお前なんてよんでごめんな。俺はフォン。そっちの名前は?」
「サンです。よろしくお願いします」
「堅苦しいなぁ。敬語なんて使うなよ。よろしくな、サン」
そして、サンはフォンからたくさんの話を聞いた。自分の母親がフォンの人生を変えてくれたこと。母が、とても強い人だったこと。そして、たくさんの人を助け、たくさんの人に信頼されていたこと。
日の短い時期だったからか、話に夢中になっていたからか、彼が母との思い出を語り切る頃には日はすっかり沈み、サンはそんな夜空を見て、自分がどれほどその場に長居していたかに気づいた。
「あ、もうこんな時間だ。ありがとうフォン。俺、そろそろ帰らないと」
「おお、そうか、そうだな。ありがとな。こんなおっさんの話をちゃんと聞いてくれて」
「全然だよ! すっごく楽しかった。ありがと」
そう言ってサンは、この空き家を出る準備をする。そんなサンへフォンはふと声をかける。
「なぁ、サン。一つだけ聞いていいか?」
「うん、何?」
「サンはさ、自分の母親がなんの獣人かってだけは聞くことを拒んだだろ? あれはなんでだ?」
「あ、それは」
サンは、言葉に詰まった。なんとなくその理由をまだ大して親しくなっていない人に明かすのははばかられるのではないかと感じたからだ。しかしフォンは、そんな彼の内心を読み取ったかのように、言葉を紡ぐ。
「あーなんとなく今日でサンの性格がわかってきたな。さては、怖かったんだろ。俺が話している母親が自分の母親と違うってわかることが。アサヒがしっかりとした獣人だったら、サンにその特徴が現れてないのはおかしいもんな」
「……うん」
獣人は、他の動物と同じように必ずしも同じ種族と添い遂げなければならない決まりはない。例えば馬の獣人と魚の獣人が出会って恋をして、そのまま子孫を残すこともある。そして、その際の子どもはどんな獣人になるのかといえば、決して魚の下半身と馬の上半身を持つなどということはなく、普通に父母どちらかのベースとなった獣の特徴を受け継いで生まれてくる。
だからこそ、サンは怖かったのだ。アサヒという女性が、なんの獣人かを聞いて、自分との親子関係が否定されることが。せっかく掴んだ母の手がかりを簡単に手放してしまうことが。
しかし、フォンは、そんなサンに対してこう告げた。
「サン。大丈夫だよ。お前は絶対アサヒの息子だ。俺が保証する。お前の目な、すごくそっくりなんだよ。アサヒに。本当に目に映るもの、全部救っちまいそうなほど、芯にしっかりとした強さと優しさを持った眼だ。きっとさ、お前はいつか凄いことを成し遂げるよ。そんな気がする」
彼はそう言ってサンに笑顔を見せた。その笑顔は本当に優しくて、暖かくて、この日からフォンのことを信頼していたんだと思う。
そしてなによりも居心地が良かったのだ。何も自信が持てなかった自分に対して、アサヒの息子だから、きっと何かを成し遂げられると言ってくれるフォンの隣が。だからこそ、サンは、何度もフォンのところに通うようになったのだ。
「お前!? どうしてそのペンダントを」
道場からの帰り道、唐突に唐突にそう声をかけられて、とても驚いたのを、サンは覚えている。
「え?」
「そのペンダントだよ! 刀型のペンダント。どこで手に入れたんだ?」
凄まじい剣幕で詰め寄られるサン。どこで手に入れたと言われても、別段どこかで購入したわけでもない。サンは、目の前の獣人に対し、正直に答えた。
「どうしたも何も、最初から持ってたんです。多分親にもらったんだと思います。もっとも俺には両親の記憶はないんですけど」
親という言葉を聞いて、目の前の獣人はピクリと体を震わせる。そして、彼らほんの少しの涙を浮かべて言った。
「そうか、じゃあやっぱり、お前がアサヒの子なのか。会えてよかった。でも、どうして?」
感動しながらもなんらかの事実に戸惑っている彼。
しかししばらくそうしていると、その獣人は、サンに向かって、こう告げる。
「じゃあ、少し俺と話をしないか。お前の母さんにはすごく世話になったんだよ。あと、お前は、他の人から母さんの話はどれくらい聞いてるんだ?」
「あまり聞いてません。施設の方針で過去の話はしちゃダメなことになってて」
「そんなのもったいない! お前の母さんは本当に素晴らしい人だったんだぞ。あいつの息子として、あいつの生き様は知っておいた方がいい。だから少しだけ話を聞いてくれないか」
正直、文字通り知らない人に急に声をかけられて、果たしてついていっていいのかという疑問はあった。しかし、この獣人の目は決して嘘をついているようには見えなかったし、本当に自分の母親に感謝している様子だった。
「わかりました。聞かせてください。母さんのこと」
「よしきた。ちょっと長くなるぞ。あ、そうそう、急に会ったのにお前なんてよんでごめんな。俺はフォン。そっちの名前は?」
「サンです。よろしくお願いします」
「堅苦しいなぁ。敬語なんて使うなよ。よろしくな、サン」
そして、サンはフォンからたくさんの話を聞いた。自分の母親がフォンの人生を変えてくれたこと。母が、とても強い人だったこと。そして、たくさんの人を助け、たくさんの人に信頼されていたこと。
日の短い時期だったからか、話に夢中になっていたからか、彼が母との思い出を語り切る頃には日はすっかり沈み、サンはそんな夜空を見て、自分がどれほどその場に長居していたかに気づいた。
「あ、もうこんな時間だ。ありがとうフォン。俺、そろそろ帰らないと」
「おお、そうか、そうだな。ありがとな。こんなおっさんの話をちゃんと聞いてくれて」
「全然だよ! すっごく楽しかった。ありがと」
そう言ってサンは、この空き家を出る準備をする。そんなサンへフォンはふと声をかける。
「なぁ、サン。一つだけ聞いていいか?」
「うん、何?」
「サンはさ、自分の母親がなんの獣人かってだけは聞くことを拒んだだろ? あれはなんでだ?」
「あ、それは」
サンは、言葉に詰まった。なんとなくその理由をまだ大して親しくなっていない人に明かすのははばかられるのではないかと感じたからだ。しかしフォンは、そんな彼の内心を読み取ったかのように、言葉を紡ぐ。
「あーなんとなく今日でサンの性格がわかってきたな。さては、怖かったんだろ。俺が話している母親が自分の母親と違うってわかることが。アサヒがしっかりとした獣人だったら、サンにその特徴が現れてないのはおかしいもんな」
「……うん」
獣人は、他の動物と同じように必ずしも同じ種族と添い遂げなければならない決まりはない。例えば馬の獣人と魚の獣人が出会って恋をして、そのまま子孫を残すこともある。そして、その際の子どもはどんな獣人になるのかといえば、決して魚の下半身と馬の上半身を持つなどということはなく、普通に父母どちらかのベースとなった獣の特徴を受け継いで生まれてくる。
だからこそ、サンは怖かったのだ。アサヒという女性が、なんの獣人かを聞いて、自分との親子関係が否定されることが。せっかく掴んだ母の手がかりを簡単に手放してしまうことが。
しかし、フォンは、そんなサンに対してこう告げた。
「サン。大丈夫だよ。お前は絶対アサヒの息子だ。俺が保証する。お前の目な、すごくそっくりなんだよ。アサヒに。本当に目に映るもの、全部救っちまいそうなほど、芯にしっかりとした強さと優しさを持った眼だ。きっとさ、お前はいつか凄いことを成し遂げるよ。そんな気がする」
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