66 / 69
第5章 旅立ち
妻の杞憂
しおりを挟む
「オト、寝てるの?」
近くで妻の声がして、慌てて目を開ける。
目の前には心配そうにのぞきこむ妻の顔があった。
いつ帰ってきたのだろう?
全く気づかなかった。
この頃は、呼びかけられていても気づかないことがある。
俺は、十七歳になった。
人間で言うと、八十四歳くらいだ。
耳が遠くなっても不思議ではない年齢である。
娘の明莉は、二十五歳になった。
大学四年生の時に内定をもらった会社に就職し、今は社会人三年目である。
「はあ、今日も明莉、仕事で遅くなるって。」
妻がスマホを見ながら呟く。
入社一年目は、新人ということで先輩についてアシスタントをしながら仕事内容を覚えていくのが主な明莉の業務だった。
二年目からは一人で仕事を任せられるようになり、会議の前や締切前などには残業をすることも増えてきた。
そして三年目の今年は先輩となり、自分の仕事だけではなく後輩のフォローもするようになったらしい。
夜遅くに家に帰ってきて、朝早くに家を出ていく日が続くこともあった。
「仕事熱心なのはいいけど、こんなんで明莉は結婚できると思う?」
「ニャッ、ニャッ⁉」
突然、妻に話しかけられて驚いた。
「仕事のことしか見えてないんじゃないかしら・・・まあ、今は仕事を覚えて早く一人前にならないといけない大事な時だとは思うけど・・・」
うん、それでいいんじゃないかな。
結婚は、社会人としての生活を確立してからでいいと思うぞ・・・まだ二十五歳だし・・・結婚は早いんじゃないかな・・・
妻は、その後も一人でぶつぶつ呟きながら夕食を食べていた。
妻も五十を超えて独り言が増えてきたような気がするな。
次の日、明莉は妻より早く帰ってきた。
「あら、今日は早いのね。」
キッチンで夕食を作っている明莉を見て、遅れて帰宅した妻が声をかける。
「うん。無事に企画が通ったからね。」
「打ち上げで飲みに行こうとかならないの?」
「私の企画が通っただけだもん。みんなは自分の仕事で忙しいの。」
「そうかもしれないけど・・・別の会社の人でもいいから、こういう解放された時に一緒に飲もうとかいう人はいないの?」
「平日だからね。明日も仕事があるし、私だって今日は寝たいよ。」
「そうか。」
妻は、まだ何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んで着替えのために部屋を出ていった。
「明莉ってモテないのかしら?」
明莉が寝た後、妻がリビングで雑誌をめくりながら呟いた。
「ニャッニャッ。(いきなり、どうしたんだ?)」
明莉が家にいる時間が短いためか、最近は俺が妻の話し相手になっている。
といっても、妻が一方的に話しかけ、俺の返事を都合のいいように解釈しているだけなのだが・・・
「仕事が早く終わっても、会いにいく彼氏もいないのかしらね。全然、デートの話も聞かないし・・・」
「ニャー。(いや、彼氏はいたと思うぞ。)」
明莉が友だちとの電話の中で男の名前を口にするのを聞いていた俺はうすうす気づいているのだが、妻は聞かされていないので知らないらしい。
そういえば、ダイキとかいう奴とは、どうなったんだ?
別に破局していても、俺はいいのだが・・・ダメになった話も聞かないな・・・
「顔もスタイルも悪いとは思わないんだけど・・・問題は性格かしらね?」
「ニャッニャッ。(そんなことはない!明莉はいい子だ!)」
「まあ、悪い子だとは思わないけど・・・男の人からしたら、かわいげがないのかもね。男の人にも負けないように、仕事を頑張っているみたいだし・・・結婚できるかしらね?」
「ニャー。(大丈夫だと思うぞ。)」
男性にも負けないようにと、対抗意識を燃やして仕事を頑張っていたのは妻も同じだ。
俺は壁にぶつかっても諦めずに頑張る姿に惹かれたし、本当は不安を感じていても強がっている姿に守りたいと思った。
きっと明莉のことを理解して守りたいと思ってくれる男はいると思うし、腹立たしいことに彼氏もいたっぽいので俺は心配していない。
しかし、俺はその後も何も知らない妻の不安を度々聞かされたのだった。
近くで妻の声がして、慌てて目を開ける。
目の前には心配そうにのぞきこむ妻の顔があった。
いつ帰ってきたのだろう?
全く気づかなかった。
この頃は、呼びかけられていても気づかないことがある。
俺は、十七歳になった。
人間で言うと、八十四歳くらいだ。
耳が遠くなっても不思議ではない年齢である。
娘の明莉は、二十五歳になった。
大学四年生の時に内定をもらった会社に就職し、今は社会人三年目である。
「はあ、今日も明莉、仕事で遅くなるって。」
妻がスマホを見ながら呟く。
入社一年目は、新人ということで先輩についてアシスタントをしながら仕事内容を覚えていくのが主な明莉の業務だった。
二年目からは一人で仕事を任せられるようになり、会議の前や締切前などには残業をすることも増えてきた。
そして三年目の今年は先輩となり、自分の仕事だけではなく後輩のフォローもするようになったらしい。
夜遅くに家に帰ってきて、朝早くに家を出ていく日が続くこともあった。
「仕事熱心なのはいいけど、こんなんで明莉は結婚できると思う?」
「ニャッ、ニャッ⁉」
突然、妻に話しかけられて驚いた。
「仕事のことしか見えてないんじゃないかしら・・・まあ、今は仕事を覚えて早く一人前にならないといけない大事な時だとは思うけど・・・」
うん、それでいいんじゃないかな。
結婚は、社会人としての生活を確立してからでいいと思うぞ・・・まだ二十五歳だし・・・結婚は早いんじゃないかな・・・
妻は、その後も一人でぶつぶつ呟きながら夕食を食べていた。
妻も五十を超えて独り言が増えてきたような気がするな。
次の日、明莉は妻より早く帰ってきた。
「あら、今日は早いのね。」
キッチンで夕食を作っている明莉を見て、遅れて帰宅した妻が声をかける。
「うん。無事に企画が通ったからね。」
「打ち上げで飲みに行こうとかならないの?」
「私の企画が通っただけだもん。みんなは自分の仕事で忙しいの。」
「そうかもしれないけど・・・別の会社の人でもいいから、こういう解放された時に一緒に飲もうとかいう人はいないの?」
「平日だからね。明日も仕事があるし、私だって今日は寝たいよ。」
「そうか。」
妻は、まだ何か言いたそうだったが、言葉を飲み込んで着替えのために部屋を出ていった。
「明莉ってモテないのかしら?」
明莉が寝た後、妻がリビングで雑誌をめくりながら呟いた。
「ニャッニャッ。(いきなり、どうしたんだ?)」
明莉が家にいる時間が短いためか、最近は俺が妻の話し相手になっている。
といっても、妻が一方的に話しかけ、俺の返事を都合のいいように解釈しているだけなのだが・・・
「仕事が早く終わっても、会いにいく彼氏もいないのかしらね。全然、デートの話も聞かないし・・・」
「ニャー。(いや、彼氏はいたと思うぞ。)」
明莉が友だちとの電話の中で男の名前を口にするのを聞いていた俺はうすうす気づいているのだが、妻は聞かされていないので知らないらしい。
そういえば、ダイキとかいう奴とは、どうなったんだ?
別に破局していても、俺はいいのだが・・・ダメになった話も聞かないな・・・
「顔もスタイルも悪いとは思わないんだけど・・・問題は性格かしらね?」
「ニャッニャッ。(そんなことはない!明莉はいい子だ!)」
「まあ、悪い子だとは思わないけど・・・男の人からしたら、かわいげがないのかもね。男の人にも負けないように、仕事を頑張っているみたいだし・・・結婚できるかしらね?」
「ニャー。(大丈夫だと思うぞ。)」
男性にも負けないようにと、対抗意識を燃やして仕事を頑張っていたのは妻も同じだ。
俺は壁にぶつかっても諦めずに頑張る姿に惹かれたし、本当は不安を感じていても強がっている姿に守りたいと思った。
きっと明莉のことを理解して守りたいと思ってくれる男はいると思うし、腹立たしいことに彼氏もいたっぽいので俺は心配していない。
しかし、俺はその後も何も知らない妻の不安を度々聞かされたのだった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜
七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。
ある日突然、兄がそう言った。
魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。
しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。
そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。
ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。
前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。
これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。
※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~
柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。
その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!
この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!?
※シリアス展開もわりとあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる