俺は猫であり父である

佐倉さつき

文字の大きさ
上 下
56 / 69
第4章 娘は大人の階段を上り中?

サクラ○○

しおりを挟む
「いってきます!」
「いってらっしゃい。あっ、マスクの予備は持ってる。」
「うん、カバンに入ってる。」

新しい年を迎え、A高校の受験日まであと残りわずかとなってきた。
今、世間ではインフルエンザが流行っているらしい。
妻も明莉も家に帰ってくると、必ず手洗いうがいをしている。
外出先はもちろん、家の中でもマスクをしている。
予防接種も受けているが、「今年は絶対にインフルエンザにはならない」と念には念を入れている。
少しでも規則正しい生活ができるようにと、妻はできるだけ早く帰って夕食を作るようになった。
忙しい時には惣菜に頼ることも多いが、風邪予防にいいと聞いたキノコ類やネギ、鮭などが食卓によく並ぶようになった。
受験が近づくにつれて、ますます健康面でのサポートに力を入れている。

明莉は、夏休みや二学期の間は各教科の内容の習得を目的とした問題集を解いていた。
甘い物の誘惑には妻と一緒に負けることが多々あったが、遊びの誘惑には打ち勝ち、勉強中心の毎日を過ごしていた。
一学期から二学期にかけてほど急激ではないが二学期中も成績は上がり、冬休み初日に行われた個人懇談では、最終的な第一志望校をA高校にすることが確定した。
ただ、A高校は毎年志願者が多く、競争率も偏差値も高いので油断はできない。
そして冬休みからは、志望校の過去問題や今年度の入学試験の予想問題集などを解いて本番に備えている。



「はあ、もっと早くから真面目に勉強しておけばよかった・・・」
夕食後、お茶を飲みながら明莉が言った。
「あら、どうしたの?三年生の夏からでも、何とかなりそうなところまできたじゃない?」
「もう、そういう油断が危ないんだよ。ママは楽観的なんだから。」
「だって過ぎたことをクヨクヨ考えても、しょうがないじゃない。」
明莉に楽観的だと言われた妻は、平気な顔をして答える。
時々、隠れて涙を流すことはあっても、家族の前では明るく元気に振舞っている妻。
その明るさに、俺は何度も救われたことがある。
「だけど、受験まであとちょっとしかないのに、やってないことや、やっておきたいことがいっぱいあるんだもん。全然時間が足りないよ。」
「焦ってもしょうがないわ。優先順位が高いものから一つずつやっていくしかないわよ。」
「そうだけど・・・何が一番大切かわからないんだもん。不安なことばかり、どんどん出てくるの。」
明莉も受験直前で、山のように広がる不安に心が押しつぶされそうなのだろう。
「じゃあ。思いついたことからでもいいんじゃない?とにかく、やった分だけ自信につながるんだから。」
「そうか。じゃあ、今日も、もうちょっと頑張ってから寝るね。」
明莉はそう言うと、椅子から立ち上がった。



「大丈夫かな。落ちてたら、どうしよう?」
疲れきった顔で、明莉がA高校の入学試験から帰ってきた。
そして、そのままソファーに倒れ込むと寝てしまった。
頑張ったね、明莉。お疲れさま。
俺はそっとソファーのアームに座って、明莉の頭を撫でた。



それから合格発表までの数日は、家中がソワソワしていた。
A高校が駄目だった時のために勉強しないといけないが、明莉はA高校の結果が気になって、勉強がはかどらない様子だった。

そして、迎えた合格発表の日。
郵便で結果が届いた。
明莉が恐る恐る封筒を開ける様子を、俺はドキドキしながら見ていた。
怖いけど、聞きたい、見たい。
矛盾する気持ちを抱えて見守った。

「合格」

「よかった・・・合格してた・・・」
「ニャー。(おめでとう。)」
「ありがとう、オト。」
明莉はローテーブルの上に封筒を置くと、俺を抱きしめてくれた。



夜、仕事から帰ってきた妻に合格通知を見せると、妻は、
「明莉、よく頑張ったわね。おめでとう。」
と言って、明莉を抱きしめた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

王太子さま、側室さまがご懐妊です

家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。 愛する彼女を妃としたい王太子。 本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。 そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。 あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...