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みまう
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ラナティンがアルフォリダの身を案じて地上の村に駆け付けると。
アルフォリダは骨折による発熱で寝込んでいた。
苦痛に歪む額に汗が浮かぶ。
ラナティンはその汗を舐めとって熱を冷まそうとした。
ところが双子達に首根っこを掴まれてアルフォリダの寝室から追い出された。
ずるずると引きずられたラナティンは居間に新調された長椅子に座らされる。
双子達はラナティンの腕に絡み付くように抱きついて左右に座った。
その長椅子は土台の木をアルフォリダが組み、座面の布をマリファが織った、二人の合作。
座面は軽く昼寝をするのにも使えそうなぐらいに広めに作られているので、三人が並んで座っても余裕があった。
「なにをするんですか」
「それはこっちの台詞だよ」
「アルフォリダが苦しそうなんです。早く治してあげないと」
「治療ならマリファがすでにしてる。あとは寝てれば治るってー」
「ですが、今すぐ治るわけではないですよね? 痛みも熱もあって、とても辛そうです。僕ならその苦痛を取り除けます」
「面倒なんでマリファに解説してもらお」
「そだねー」
長椅子の向かいの椅子には一人腰かけるマリファ。
双子達の視線に促されて口を開いた。
「ラナティン。今日は君の体質について学ぼう。君の体液は万病に効くけれど、副作用があるのは知っているかい?」
ラナティンは知らないと首を横に振った。
何度も使ったアルフォリダに副作用らしい副作用は見られなかった。
「君の体液は君のことを愛している者にとって甘露のようなものなんだ。その甘さに魅了され、君の身体を求めてしまう。とくに君を深く愛している私やアルフォリダには深刻な症状を生む」
そのような副作用を知らずに使っていたことをラナティンは恥じた。
無知ゆえにマリファとアルフォリダを苦しめてしまったと反省した。
マリファは「悪いのは君ではなく、自制が足りなかった私だよ」と慰めた。
そう。マリファは分かっていたのだ。
ラナティンがアルフォリダを治療するのを観察して舐めるという行為が起こす作用を。
分かっていて便乗した。
本当ならば教育者として介するべきを当事者の一人になったのはマリファの意思。
反省すべきは無知なラナティンではなく、悪知恵を働かせたマリファだ。
「その副作用によって君を傷付けてしまったことを私達はとても悔やんでいたんだ。アルフォリダもだよ。だから彼は君に治療を願わなかった」
「僕はアルフォリダになにも出来ないんですか」
ラナティンは無力な己が悲しくなった。
「治療は無理でも看病は出来るだろう。見舞ってあげるだけでもアルフォリダは喜ぶよ。ほら、そろそろ身体を拭いてあげようと思っていたところだ。ラナティンがやってくれるかい」
「僕がやっても大丈夫ですか?」
「舐めて清めなければ大丈夫だろう」
自分にもやれることがあると知ってラナティンは喜んだ。
ラナティンは清潔な布と水、そして新しい着替えを用意する。
ちょうど目覚めたアルフォリダの衣服を脱がせて、濡らした布で丁寧に拭いていく。
井戸から汲んだばかり水はひんやりとしていて身体に熱のこもるアルフォリダには心地よい。
「やばっ。俺、熱で幻覚が見えてんのかな。ラナティンがいる」
「僕は本物ですよ。幻なんかじゃありません」
ラナティンは広い背中を、筋肉の張った二の腕を、足の指の間まで丁寧に拭いていく。
最後に下履きを脱がせて尻や男性器を拭こうとしたが、それはアルフォリダに断られた。
汚れた布と水を片付けて、ラナティンは枕元に用意した椅子に座る。
たくさん寝てもう眠たくないというアルフォリダと話をしたかった。
「ごめんなさい。僕は知らないで貴方を呪っていました」
「唾液の副作用のことマリファから聞いたんだ」
「はい」
「じゃあさ、もともとラナティンが好きな奴ならもっと好きになるだけっていうのも聞いてるだろ?」
聞いてはいるけれど、それが自分達に当てはまるとラナティンは思えなかった。
「俺は呪いだなんて思ってないよ。ラナティンに治さないでって言ったのは、ラナティンが嫌いだからじゃない。好きだから、大切にしたいから言ったんだ」
アルフォリダは純粋な愛だけのこもった瞳でラナティンを見つめる。
「もし次があるなら、副作用とかない状態で愛し合いたい」
「また僕を愛してくれるのですか?」
「許されるのなら、今すぐにでも」
「そう思うなら、まずは元気にならないといけませんね」
「こんな怪我すぐに治るさ」
「治るまで僕はここに居ても良いですか?」
「むしろ居てくれるのか? この家はラナティンにとって辛い思い出もあるだろ。その、俺達のせいで」
「辛かったときのことはあんまり覚えていないんです。それよりも楽しかった思い出のが多いです。僕はそばに居るしか出来ないけど、アルフォリダのそばに居たいんです」
「嬉しいよ。ラナティンが居てくれるだけで本当に幸せだ。もうどこにも行かないで」
アルフォリダはラナティンをそっと抱き寄せると、額に優しく触れるだけのキスをした。
アルフォリダは骨折による発熱で寝込んでいた。
苦痛に歪む額に汗が浮かぶ。
ラナティンはその汗を舐めとって熱を冷まそうとした。
ところが双子達に首根っこを掴まれてアルフォリダの寝室から追い出された。
ずるずると引きずられたラナティンは居間に新調された長椅子に座らされる。
双子達はラナティンの腕に絡み付くように抱きついて左右に座った。
その長椅子は土台の木をアルフォリダが組み、座面の布をマリファが織った、二人の合作。
座面は軽く昼寝をするのにも使えそうなぐらいに広めに作られているので、三人が並んで座っても余裕があった。
「なにをするんですか」
「それはこっちの台詞だよ」
「アルフォリダが苦しそうなんです。早く治してあげないと」
「治療ならマリファがすでにしてる。あとは寝てれば治るってー」
「ですが、今すぐ治るわけではないですよね? 痛みも熱もあって、とても辛そうです。僕ならその苦痛を取り除けます」
「面倒なんでマリファに解説してもらお」
「そだねー」
長椅子の向かいの椅子には一人腰かけるマリファ。
双子達の視線に促されて口を開いた。
「ラナティン。今日は君の体質について学ぼう。君の体液は万病に効くけれど、副作用があるのは知っているかい?」
ラナティンは知らないと首を横に振った。
何度も使ったアルフォリダに副作用らしい副作用は見られなかった。
「君の体液は君のことを愛している者にとって甘露のようなものなんだ。その甘さに魅了され、君の身体を求めてしまう。とくに君を深く愛している私やアルフォリダには深刻な症状を生む」
そのような副作用を知らずに使っていたことをラナティンは恥じた。
無知ゆえにマリファとアルフォリダを苦しめてしまったと反省した。
マリファは「悪いのは君ではなく、自制が足りなかった私だよ」と慰めた。
そう。マリファは分かっていたのだ。
ラナティンがアルフォリダを治療するのを観察して舐めるという行為が起こす作用を。
分かっていて便乗した。
本当ならば教育者として介するべきを当事者の一人になったのはマリファの意思。
反省すべきは無知なラナティンではなく、悪知恵を働かせたマリファだ。
「その副作用によって君を傷付けてしまったことを私達はとても悔やんでいたんだ。アルフォリダもだよ。だから彼は君に治療を願わなかった」
「僕はアルフォリダになにも出来ないんですか」
ラナティンは無力な己が悲しくなった。
「治療は無理でも看病は出来るだろう。見舞ってあげるだけでもアルフォリダは喜ぶよ。ほら、そろそろ身体を拭いてあげようと思っていたところだ。ラナティンがやってくれるかい」
「僕がやっても大丈夫ですか?」
「舐めて清めなければ大丈夫だろう」
自分にもやれることがあると知ってラナティンは喜んだ。
ラナティンは清潔な布と水、そして新しい着替えを用意する。
ちょうど目覚めたアルフォリダの衣服を脱がせて、濡らした布で丁寧に拭いていく。
井戸から汲んだばかり水はひんやりとしていて身体に熱のこもるアルフォリダには心地よい。
「やばっ。俺、熱で幻覚が見えてんのかな。ラナティンがいる」
「僕は本物ですよ。幻なんかじゃありません」
ラナティンは広い背中を、筋肉の張った二の腕を、足の指の間まで丁寧に拭いていく。
最後に下履きを脱がせて尻や男性器を拭こうとしたが、それはアルフォリダに断られた。
汚れた布と水を片付けて、ラナティンは枕元に用意した椅子に座る。
たくさん寝てもう眠たくないというアルフォリダと話をしたかった。
「ごめんなさい。僕は知らないで貴方を呪っていました」
「唾液の副作用のことマリファから聞いたんだ」
「はい」
「じゃあさ、もともとラナティンが好きな奴ならもっと好きになるだけっていうのも聞いてるだろ?」
聞いてはいるけれど、それが自分達に当てはまるとラナティンは思えなかった。
「俺は呪いだなんて思ってないよ。ラナティンに治さないでって言ったのは、ラナティンが嫌いだからじゃない。好きだから、大切にしたいから言ったんだ」
アルフォリダは純粋な愛だけのこもった瞳でラナティンを見つめる。
「もし次があるなら、副作用とかない状態で愛し合いたい」
「また僕を愛してくれるのですか?」
「許されるのなら、今すぐにでも」
「そう思うなら、まずは元気にならないといけませんね」
「こんな怪我すぐに治るさ」
「治るまで僕はここに居ても良いですか?」
「むしろ居てくれるのか? この家はラナティンにとって辛い思い出もあるだろ。その、俺達のせいで」
「辛かったときのことはあんまり覚えていないんです。それよりも楽しかった思い出のが多いです。僕はそばに居るしか出来ないけど、アルフォリダのそばに居たいんです」
「嬉しいよ。ラナティンが居てくれるだけで本当に幸せだ。もうどこにも行かないで」
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