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うらやむ
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さて、保護者がいなくなった眠る幼神ラナティンを放っておいてくれるほど、空は優しくなかった。
暇をもて余した神々がちょっかいをかけに手ぐすね引いてラナティンの目覚めを待った。
さすがに病める子供を叩き起こす非情なものはいなかったけれど、起きたら何をしてやろうかと策を練るものはたくさんいた。
そんな神々の思惑を感じ取った双子は悪戯心にほんの少しの悪意をエッセンスとして込める。
そしてラナティンの寝台を花で埋め尽くす勢いで飾り立てた。マリファが愛するのは無垢な乙女だというように。
そもそも神に男や女などの性別はないし、その時々で都合の良い形をとるものだ。
それでもマリファは生まれてからずっと男の姿をとっていて、それは色のアローネも同じだが、とくにマリファは男女どちらの神にも魅力的な相手だと思われていた。
なのでマリファが男であって新たな神ラナティンが女であるということが他の神々に悪い意味合いに取られた。
近頃の神々の間で人の真似事をするのが流行していた。
朝起きて夜には眠り、世話しなく働いては食べなくても良い食事を取り、そして男女で番う。
その番相手候補としてマリファは人気だった。
なぜならばマリファの生活は人間の営みそのままだったから。
マリファと共に過ごすということは人の生活を生きるということと同義だった。
だからこそ、神々は待っていた。智慧の神の愛し子が大人となって地上に降りるのを。
子育て中のマリファは子供に全力を注ぐが、それが終われば基本的に博愛精神の塊だ。
甘えればころりと落ちるだろうと考えられた。
神々は子育ての邪魔をしてマリファに悪印象を持たれるよりも気長に待つことを選んでいた。
それが、どうして。
マリファは育てていた子供を愛して同格の神にしたというのだ。
今まで特別を持たずにいたマリファが道端に生えている雑草のような存在を愛した。
それは自尊心の塊のような神々にとって耐えられるものではなかった。
なので、神々はこう考えた。
今回のことはマリファの気の迷いであり事故なのだ。
ラナティンは過ちの神。ならば我々が消してあげるのも優しさ。
マリファの手厚い治療のかいあって健やかに目覚めたラナティンは、朝露に忍ばせた毒に冒されて倒れた。
「今度は服毒だってー」
「世話がかかるったらないね」
「僕達が慈悲深い兄弟だったことに感謝してほしいよねー」
「アローネが帰ってきたらご褒美もらおうよ」
「それは良いねー」
双子の世話とラナティンの元より丈夫な身体のお陰で数日も経てば庭先の森を散策できるまでに回復した。
果実を摘みに森に入ったラナティンは他所の神が愛玩用に捕まえたあと、ろくに餌を与えず挙げ句に存在すら忘れた獣に襲われた。
柔らかい肚をかじられても息のあるラナティンを見つけた双子は「これで死ねないなんて哀れだ」と思った。
口には出さなかったが互いに同じ気持ちになった双子はぼろ切れのようなラナティンを屋敷まで引きずって帰った。
「君は外にでない方が良いと思うよー。じゃないとまた死んじゃうよー」
「そだね。とりあえず、マリファの帰りを待ちなって」
実際には死なないのだが、双子はそう脅した。
ラナティンも自分が怪我をすると双子に迷惑をかけてしまうから家で大人しくしていることにした。
殊勝なラナティンを計算高い腹黒だと決めつけて勝手に腹を立てた神がいた。
閉じ籠るなら屋敷ごと飛ばしてやると、風を起こす。
双子は身の危険を感じて窓から飛び出し、とにかく遠くへと駆けた。
風に背中を押されて転び、膝を擦りむいたが双子はその程度で済んだ。
けれどもマリファに守られて害意に触れ慣れていないラナティンは逃げるという発想にはならず、暴風に軋む屋敷のなかで身を縮めて震えていた。
強い突風に煽られた屋敷は木っ端微塵に砕け、ラナティンは雲の隙間から地上に墜ちた。
暇をもて余した神々がちょっかいをかけに手ぐすね引いてラナティンの目覚めを待った。
さすがに病める子供を叩き起こす非情なものはいなかったけれど、起きたら何をしてやろうかと策を練るものはたくさんいた。
そんな神々の思惑を感じ取った双子は悪戯心にほんの少しの悪意をエッセンスとして込める。
そしてラナティンの寝台を花で埋め尽くす勢いで飾り立てた。マリファが愛するのは無垢な乙女だというように。
そもそも神に男や女などの性別はないし、その時々で都合の良い形をとるものだ。
それでもマリファは生まれてからずっと男の姿をとっていて、それは色のアローネも同じだが、とくにマリファは男女どちらの神にも魅力的な相手だと思われていた。
なのでマリファが男であって新たな神ラナティンが女であるということが他の神々に悪い意味合いに取られた。
近頃の神々の間で人の真似事をするのが流行していた。
朝起きて夜には眠り、世話しなく働いては食べなくても良い食事を取り、そして男女で番う。
その番相手候補としてマリファは人気だった。
なぜならばマリファの生活は人間の営みそのままだったから。
マリファと共に過ごすということは人の生活を生きるということと同義だった。
だからこそ、神々は待っていた。智慧の神の愛し子が大人となって地上に降りるのを。
子育て中のマリファは子供に全力を注ぐが、それが終われば基本的に博愛精神の塊だ。
甘えればころりと落ちるだろうと考えられた。
神々は子育ての邪魔をしてマリファに悪印象を持たれるよりも気長に待つことを選んでいた。
それが、どうして。
マリファは育てていた子供を愛して同格の神にしたというのだ。
今まで特別を持たずにいたマリファが道端に生えている雑草のような存在を愛した。
それは自尊心の塊のような神々にとって耐えられるものではなかった。
なので、神々はこう考えた。
今回のことはマリファの気の迷いであり事故なのだ。
ラナティンは過ちの神。ならば我々が消してあげるのも優しさ。
マリファの手厚い治療のかいあって健やかに目覚めたラナティンは、朝露に忍ばせた毒に冒されて倒れた。
「今度は服毒だってー」
「世話がかかるったらないね」
「僕達が慈悲深い兄弟だったことに感謝してほしいよねー」
「アローネが帰ってきたらご褒美もらおうよ」
「それは良いねー」
双子の世話とラナティンの元より丈夫な身体のお陰で数日も経てば庭先の森を散策できるまでに回復した。
果実を摘みに森に入ったラナティンは他所の神が愛玩用に捕まえたあと、ろくに餌を与えず挙げ句に存在すら忘れた獣に襲われた。
柔らかい肚をかじられても息のあるラナティンを見つけた双子は「これで死ねないなんて哀れだ」と思った。
口には出さなかったが互いに同じ気持ちになった双子はぼろ切れのようなラナティンを屋敷まで引きずって帰った。
「君は外にでない方が良いと思うよー。じゃないとまた死んじゃうよー」
「そだね。とりあえず、マリファの帰りを待ちなって」
実際には死なないのだが、双子はそう脅した。
ラナティンも自分が怪我をすると双子に迷惑をかけてしまうから家で大人しくしていることにした。
殊勝なラナティンを計算高い腹黒だと決めつけて勝手に腹を立てた神がいた。
閉じ籠るなら屋敷ごと飛ばしてやると、風を起こす。
双子は身の危険を感じて窓から飛び出し、とにかく遠くへと駆けた。
風に背中を押されて転び、膝を擦りむいたが双子はその程度で済んだ。
けれどもマリファに守られて害意に触れ慣れていないラナティンは逃げるという発想にはならず、暴風に軋む屋敷のなかで身を縮めて震えていた。
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