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とぶ
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──く、くるしい……。
夢を見なくても良いぐらいに深い眠りの呪いを自分にかけたはずなのに。あまりの息苦しさにラナティンの意識がほんのりと浮上する。
本来、神は呼吸を必要としないのだがラナティンはついこの間まで人間の子供だった記憶がまだ身体に残っていたので無意識に酸素を求めてしまった。
──息。息がしたいです……。
喘ぐように口を開くも、空気ではなく別の何かが咥内に入り込んで喉を塞ぐ。
滑る蛇のようなそれは無遠慮にラナティンの歯や上顎を舐めまわす。
息苦しくて朦朧としたラナティンは、咥内を這い回る蛇を追い返そうと舌で押した。
しかし、蛇は歓迎されて喜ぶかのようにラナティンの舌に絡み付いた。
舌を吸い上げる仕草はまるで受け入れてくれてありがとうと喜んでいるよう。
けれどもラナティンは蛇を歓迎してなどいないし、今すぐ自分から出ていって欲しいと願った。
──違います。お願いだから出ていってください。苦しいです。
ラナティンの願いが通じたのか蛇が名残惜しそうに出ていく。
新鮮な空気を求めてはぁはぁと荒れる呼気。
空気が肺にそして血液を通じて身体の隅々まで行き渡り、ラナティンはゆっくりを瞳を開けた。
未だ浅く短い呼吸を繰り返すラナティンに覆い被さるように見下ろしていたのは、死してもなお側にいたいと求めてやまないマリファ。
熱を孕んだ青灰色の瞳がラナティンをじっと見つめていた。
──こんなマリファ様、知らないです。
ラナティンにとってマリファは親や教師のような存在だ。
慈愛に満ちた瞳は幾度となく見てきたが、このように獣じみた雄の色を含んだ瞳は見たことない。
ラナティンは咄嗟に目を逸らす。
次に見えたのは長椅子の上で組んず解れず絡み合う三人。
服は着ていて肌の色はほとんど見えないのに、着崩れて乱れた衣服は裸体よりもいっそう淫らに感じた。
ラナティンに見られていることに気付いていないのか、分かっていても気にしないのか。
ひとりの男に二人の青年が絡み付いていた。
腰に跨がる青年と、横から口付けをねだる青年。
男は口付けていた方の青年の首筋を舐めあげ、耳たぶを食んだ。
そのまま青年の耳の穴に舌を捩じ込んで、猫が水を飲むときような音をたてて愛撫する。
男に耳を舐められて悦に浸る青年の顔がラナティンの方に向けられた。
赤く上気する頬。潤む瞳。だらしなく開いた口と、そこから溢れる唾液と吐息。
そのどれもこれも、ついこの間まで無垢な子供だったラナティンには刺激が強過ぎた。
耐えきれなくなったラナティンは自分に覆い被さるマリファを突き飛ばす。
そして寝台のすぐ側にある大きな窓から身を乗り出すと、飛んだ。
正しくは飛び降りた。
ラナティンの寝室は塔の上にあって、眺めが良いのが気に入っていた。
ラナティンは神になったけれども特別に翼が生えたわけではない。
体は基本的に人間だった頃とそう変わらない。
少し丈夫にはなったが、怪我はする。
なので窓の下、可憐な野花が咲く地面に叩き付けられたラナティンは痛みで意識を手放した。
夢を見なくても良いぐらいに深い眠りの呪いを自分にかけたはずなのに。あまりの息苦しさにラナティンの意識がほんのりと浮上する。
本来、神は呼吸を必要としないのだがラナティンはついこの間まで人間の子供だった記憶がまだ身体に残っていたので無意識に酸素を求めてしまった。
──息。息がしたいです……。
喘ぐように口を開くも、空気ではなく別の何かが咥内に入り込んで喉を塞ぐ。
滑る蛇のようなそれは無遠慮にラナティンの歯や上顎を舐めまわす。
息苦しくて朦朧としたラナティンは、咥内を這い回る蛇を追い返そうと舌で押した。
しかし、蛇は歓迎されて喜ぶかのようにラナティンの舌に絡み付いた。
舌を吸い上げる仕草はまるで受け入れてくれてありがとうと喜んでいるよう。
けれどもラナティンは蛇を歓迎してなどいないし、今すぐ自分から出ていって欲しいと願った。
──違います。お願いだから出ていってください。苦しいです。
ラナティンの願いが通じたのか蛇が名残惜しそうに出ていく。
新鮮な空気を求めてはぁはぁと荒れる呼気。
空気が肺にそして血液を通じて身体の隅々まで行き渡り、ラナティンはゆっくりを瞳を開けた。
未だ浅く短い呼吸を繰り返すラナティンに覆い被さるように見下ろしていたのは、死してもなお側にいたいと求めてやまないマリファ。
熱を孕んだ青灰色の瞳がラナティンをじっと見つめていた。
──こんなマリファ様、知らないです。
ラナティンにとってマリファは親や教師のような存在だ。
慈愛に満ちた瞳は幾度となく見てきたが、このように獣じみた雄の色を含んだ瞳は見たことない。
ラナティンは咄嗟に目を逸らす。
次に見えたのは長椅子の上で組んず解れず絡み合う三人。
服は着ていて肌の色はほとんど見えないのに、着崩れて乱れた衣服は裸体よりもいっそう淫らに感じた。
ラナティンに見られていることに気付いていないのか、分かっていても気にしないのか。
ひとりの男に二人の青年が絡み付いていた。
腰に跨がる青年と、横から口付けをねだる青年。
男は口付けていた方の青年の首筋を舐めあげ、耳たぶを食んだ。
そのまま青年の耳の穴に舌を捩じ込んで、猫が水を飲むときような音をたてて愛撫する。
男に耳を舐められて悦に浸る青年の顔がラナティンの方に向けられた。
赤く上気する頬。潤む瞳。だらしなく開いた口と、そこから溢れる唾液と吐息。
そのどれもこれも、ついこの間まで無垢な子供だったラナティンには刺激が強過ぎた。
耐えきれなくなったラナティンは自分に覆い被さるマリファを突き飛ばす。
そして寝台のすぐ側にある大きな窓から身を乗り出すと、飛んだ。
正しくは飛び降りた。
ラナティンの寝室は塔の上にあって、眺めが良いのが気に入っていた。
ラナティンは神になったけれども特別に翼が生えたわけではない。
体は基本的に人間だった頃とそう変わらない。
少し丈夫にはなったが、怪我はする。
なので窓の下、可憐な野花が咲く地面に叩き付けられたラナティンは痛みで意識を手放した。
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