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はなつ

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智慧を名乗る神は日に日に痩せ衰える少年の姿を見守ることしか出来なかった。
ただ、その枕元に座り骨と皮だけになってしまった手を擦ることしか出来なかった。

「何故。君には健やかな営みの術を教えたのに」
「教わった結果が今の僕です」

痩けた頬。青白く浮いた血管。かさつく肌。
数日前までで瑞々しく弾けんばかりだった少年の面影はない。
力なく投げ出された少年の右手を、そっと寝具の中にしまってやる。
横たわる少年は自分の腕の上げ下ろしすら出来ないまでに衰えていた。

──人間は数日も食べないだけでここまで弱ってしまう。水すら飲まないこのままでは彼は……。

マリファは少年に、再三食事を取るように促していた。口元まで匙を運んでもいた。けれども少年はマリファの用意した食事を拒んだ。

「今の君はとてもじゃないが健康とは程遠いよ」
「僕はヒバリになりたいのです」

声は掠れているのに強い気持ちが籠っている分、よく耳に届く。
マリファは耐えられなくなって瞳を伏せる。それでも耳を塞ぐことはしなかった。

「空を駆ける翼が欲しいのならば数を教えよう」
「そういう意味ではありません」
「囀ずる鈴の音を奏でたいのならば音を教えよう」
「僕には必要ありません」

少年が欲しいのは心踊る軽やかな音ではなく“沈黙”。
神の庭、土の中で眠ることを許されるために必要なのは知識でも学びでもない。
すでに欲しいものの手に入れ方は学んでいる。

少年は生まれたときからずっと生きるための智慧を与えられてきたのだ。
死を望むならばその逆をすれば良い。
生きることを放棄すれば、訪れるのは永久の眠り。
少年はゆっくりと瞼を下ろし、口を閉ざした。
残されたマリファは途方にくれた。

差し伸べ救おうとする手から溢れ落ちんとする命の灯火。
衰える身体に比例して強い意思の宿る瞳。

──どうして?

智慧の神は初めて“分からない”を知った。
自分の理解の範囲を越えた少年の行動がマリファの好奇心を掻き立てた。

──知りたい。

けれども、少年の唇は乾きひび割れ呼吸をするのに精一杯といった様子。
言葉を話せる体力は残っていないのだろう。
今朝は黒目がちで愛らしい瞳も閉じたまま。

──このまま彼を終わらせるのは惜しい。

マリファは考えた。少年を目覚めさせる方法を。
それならば知っている。つい先日、友人にも教えたばかりだ。
友人はちんまりとした姿のせわしなく動く双子の兄弟をその方法で手に入れ、左右に侍らせていた。

「君に授けましょう。神の真髄を。かけてあげましょう。秘されるべき奥底に。そして目覚めなさい。私の智慧を満たす為に」

マリファは瞳を閉じた少年の寝具を剥ぎ取り、簡素な寝間着の裾を捲り上げる。そして下履きを脱がせた。
足を割り開き、痩せて肉の痩けた臀部のさらに奥に隠されている清浄なる秘部に指先をそえる。
すらりと伸びた人差し指を迷いなく少年の隘路に突き立てぐるりと回し、中の具合を確かめる。
問題なしと判断したマリファは指を引き抜くと隙なく着込んだ着衣を寛げ、己の陰茎を指の太さ一本分だけ開いた少年の隘路に押し入れた。

ろくに慣らされていない少年の下部に鮮血が垂れる。
マリファはシーツが朱に染まるのにも構わず、腰を揺らした。
本来ならばもっと少年の身体を労るべきだと、もう一人のマリファが諌める。けれどもマリファは衝動を抑えることが出来ず、より激しく少年を屠る。
一度目の精を吐き出してもその衝動が治まることはなく。赤と白が混ざりあい、より動かしやすくなった少年の深部を暴く。

こうして一昼夜続いた神の狂乱は揺さぶられ続けた少年が胃液を吐き出すまで続いた。

 ──死にかけの人間の身体など神の眷属にしてしまえばすぐに治る。だから大丈夫だ。

瀕死の少年を前にマリファは初めて自分に言い訳をした。

神の精を人間の身の内に放てば、その人間は神の眷属となり仮初めの不死を手に入れる。
そうして側に置き飽きるまで愛でるのは、大概の神が経験することだ。
しかしこれまで人間の子供の教育に熱心だったマリファは、この少年が初めての眷属となる。

故に知識としては知っていても実際に体験していなかった眷属とのまぐわいに些か冷静さを欠いてしまったが、多量の精を注ぐことが出来て結果としては上々だ。
あとはマリファの精がその身に馴染み、少年が目覚めるのを待つばかり。

けれども少年は目覚めない。
精が足りないのかと更に注ぐも目覚めない。
経口摂取も必要なのかと飲ませてみるが、眠る少年は噎せるばかりで飲み干さない。

焦るマリファは友人の色の神、アローネに相談することにした。
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