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初陣アプレンティス
おしつけノーサンキュー3
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「佐倉さん! 俺の声、聞こえてますか?」
二上さんが真剣な様子で僕の顔を覗き込む。
「えっと、聞こえてます。大丈夫です」
「よかった」
二上さんがホッとした顔で微笑んだ。
そのささやかな慈しみに触れて、僕の胸がこっそりとときめいた。
今の高鳴りは恋じゃない。
友情の始まりを喜んでいるだけ。
「風呂ぐらい静かに入れ! たわけ!!」
なんの前触れもなく、廊下と脱衣所をつなぐ引き戸が開けられた。
今度は僕達の立てる騒音に怒った染井さんがやってきた。
ごめんなさい。煩くしたのは僕が原因です。
「てめえ。サク坊になにしとる?」
滑って転んでしまった僕達を染井さんは何か勘違いをしてしまったようだ。
染井さんは僕が襲われたと思って怒ってる。
二上さんに殴りかかろうとするのを止めたくて、僕は二上さんに抱きついた。
「違うんです」
まずは落ち着いて説明をさせてください。
「なんや、サク坊から誘ったんか?」
なんでそうなるの?
「二上、サク坊がしたがってるんだで相手しろ」
僕がしたいのは届いた荷物についての説明であって、染井さんが考えてることは求めてない。
「吉野ー。腹減ったー。って、なんだ。染井か」
今度は玲司君?
お腹すいたなら自分で夜食ぐらい用意しなよ。
染井さんにも失礼だよ。
二上さんの胸にしがみつき、脱衣所の床に座ったまま、甘えた態度の玲司君を見上げる。
「佐倉なにやってんだよ」
「玲司君、違うんだ」
玲司君にも勘違いされてる!?
拳を強く握るのは染井さんと同じ。
でも、怒りの矛先は違う。
玲司君は僕に対して怒ってる。
浮気現場だと思ってる。
たしかに紛らわしい状況になっちゃったのは僕のせいだけど。
なんで皆、すぐに殴ろうとするの。
より強く二上さんに抱きつく。
「なんで二上なんだよ……」
だから、違うって。そうじゃないんだ。
「もうなんでもいいから、離れてください」
二上さんが大きくため息をついた。
そうだよね。まずは身体を拭かなきゃ風邪ひいちゃう。
「何も良くねぇよ」
玲司君が怒鳴る声が怖くて、二上さんにしがみついちゃったのは仕方がないよね。
玲司君を染井さんがなだめる。
「一発ぐらいええだろ。サク坊も溜まっとるんだで」
玲司君の怒りに油を注がないで。
染井さんは誤解してるし。
玲司君は怒ってるし。
「僕は二上さんと友達になりたかっただけです!」
「俺は死んでも友達にはなりません」
僕の告白は二上さんにばっさりと切り捨てられた。
だけど悲しんでいる暇はない。
この状況をなんとかしなきゃ。
ぐちゃぐちゃの頭で考えてもアイデアなんて浮かばない。
二上さんの胸がすごく早くドキドキしているのは分かる。
僕もつられて心臓がバクバクしてきた。
2つの心音がユニゾンする。
そこにピリついた空気にそぐわない飄々とした声が響いた。
「そんな狭いとこに集まってどーした? 皆、居間に来い。吉野に茶淹れてもらおー」
お義父さんの一言で全てが決まった。
服が濡れた僕は一度部屋に戻って着替えることに。
玲司君は黙って僕の後ろをついてくる。
無言な目線が背中に痛い。
部屋に戻ってきて目に入るのは大きな段ボールと散らかった包装紙のゴミ。
玲司君は段ボールの中をチラリと覗いて舌打ちした。
アレのパッケージを見たんだろう。
「これ、どーする?」
「いらない」
濡れたパジャマを脱いで、適当に手に取ったTシャツを着る。
このあと、皆で話をするなら痣消しクリームも塗ろう。
鏡の前で深呼吸。
冷静に話をするためのおまじない。
玲司君が取ってくれたハーフパンツを履いたら、深夜の家族会議スタイルの完成です。
手抜きだね。
「僕、誕生日プレゼントだと思って開けたからびっくりしたんだ。それで段ボールを持ってきた二上さんに説明したくて。でも、上手に伝えられなくて。玲司君ごめん」
「謝るなら二上にだろ。オレはもういいぜ。アレは佐倉がパニクるのも分かるし」
玲司君ありがとう。
そうだね。真夜中に騒ぎを起こして寝ていたお義父さんを起こしちゃった。
すごく反省してる。
そこも謝りたい。
二上さんが真剣な様子で僕の顔を覗き込む。
「えっと、聞こえてます。大丈夫です」
「よかった」
二上さんがホッとした顔で微笑んだ。
そのささやかな慈しみに触れて、僕の胸がこっそりとときめいた。
今の高鳴りは恋じゃない。
友情の始まりを喜んでいるだけ。
「風呂ぐらい静かに入れ! たわけ!!」
なんの前触れもなく、廊下と脱衣所をつなぐ引き戸が開けられた。
今度は僕達の立てる騒音に怒った染井さんがやってきた。
ごめんなさい。煩くしたのは僕が原因です。
「てめえ。サク坊になにしとる?」
滑って転んでしまった僕達を染井さんは何か勘違いをしてしまったようだ。
染井さんは僕が襲われたと思って怒ってる。
二上さんに殴りかかろうとするのを止めたくて、僕は二上さんに抱きついた。
「違うんです」
まずは落ち着いて説明をさせてください。
「なんや、サク坊から誘ったんか?」
なんでそうなるの?
「二上、サク坊がしたがってるんだで相手しろ」
僕がしたいのは届いた荷物についての説明であって、染井さんが考えてることは求めてない。
「吉野ー。腹減ったー。って、なんだ。染井か」
今度は玲司君?
お腹すいたなら自分で夜食ぐらい用意しなよ。
染井さんにも失礼だよ。
二上さんの胸にしがみつき、脱衣所の床に座ったまま、甘えた態度の玲司君を見上げる。
「佐倉なにやってんだよ」
「玲司君、違うんだ」
玲司君にも勘違いされてる!?
拳を強く握るのは染井さんと同じ。
でも、怒りの矛先は違う。
玲司君は僕に対して怒ってる。
浮気現場だと思ってる。
たしかに紛らわしい状況になっちゃったのは僕のせいだけど。
なんで皆、すぐに殴ろうとするの。
より強く二上さんに抱きつく。
「なんで二上なんだよ……」
だから、違うって。そうじゃないんだ。
「もうなんでもいいから、離れてください」
二上さんが大きくため息をついた。
そうだよね。まずは身体を拭かなきゃ風邪ひいちゃう。
「何も良くねぇよ」
玲司君が怒鳴る声が怖くて、二上さんにしがみついちゃったのは仕方がないよね。
玲司君を染井さんがなだめる。
「一発ぐらいええだろ。サク坊も溜まっとるんだで」
玲司君の怒りに油を注がないで。
染井さんは誤解してるし。
玲司君は怒ってるし。
「僕は二上さんと友達になりたかっただけです!」
「俺は死んでも友達にはなりません」
僕の告白は二上さんにばっさりと切り捨てられた。
だけど悲しんでいる暇はない。
この状況をなんとかしなきゃ。
ぐちゃぐちゃの頭で考えてもアイデアなんて浮かばない。
二上さんの胸がすごく早くドキドキしているのは分かる。
僕もつられて心臓がバクバクしてきた。
2つの心音がユニゾンする。
そこにピリついた空気にそぐわない飄々とした声が響いた。
「そんな狭いとこに集まってどーした? 皆、居間に来い。吉野に茶淹れてもらおー」
お義父さんの一言で全てが決まった。
服が濡れた僕は一度部屋に戻って着替えることに。
玲司君は黙って僕の後ろをついてくる。
無言な目線が背中に痛い。
部屋に戻ってきて目に入るのは大きな段ボールと散らかった包装紙のゴミ。
玲司君は段ボールの中をチラリと覗いて舌打ちした。
アレのパッケージを見たんだろう。
「これ、どーする?」
「いらない」
濡れたパジャマを脱いで、適当に手に取ったTシャツを着る。
このあと、皆で話をするなら痣消しクリームも塗ろう。
鏡の前で深呼吸。
冷静に話をするためのおまじない。
玲司君が取ってくれたハーフパンツを履いたら、深夜の家族会議スタイルの完成です。
手抜きだね。
「僕、誕生日プレゼントだと思って開けたからびっくりしたんだ。それで段ボールを持ってきた二上さんに説明したくて。でも、上手に伝えられなくて。玲司君ごめん」
「謝るなら二上にだろ。オレはもういいぜ。アレは佐倉がパニクるのも分かるし」
玲司君ありがとう。
そうだね。真夜中に騒ぎを起こして寝ていたお義父さんを起こしちゃった。
すごく反省してる。
そこも謝りたい。
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