恋愛サティスファクション

不動ベイシン

つとめてリスナー5

ひっきりなしに鳴り続けるスマホに嫌気がさして。
僕は圭介さんのスマホを全て没収した。
こんなものがあるから、僕達の日常が脅かされるんだ。
知ったところで何も出来ないなら見なくていい。
全部まとめて風呂敷に包むと僕の部屋の押し入れに放り込んだ。

「離れのパソコンのコンセントも抜いちゃいましょう」
「いいの？ それやっちゃうと鈴さんとか松川さんとも連絡取れなくなるよ？」
「本当に大切な連絡なら、成瀬さんやお義父さんとか誰かを頼って伝えてきますよ。鈴村さんなら僕や玲司君に電話をくれるだろうし」

だから安心してメディアデトックスをしましょう。

「じゃあ、これだけやらせて」

そう言って圭介さんはパソコンでゲームを始めた。

『第1問・唯の好きなスイーツは？（2019年11月現在）』

なにこれ？ 僕に関するクイズ？

「定期的にこのクイズゲームに正解しないと、俺の持ってるデータが流出するように出来てる」

なにそのスパイ映画みたいな設定。
ケンゾーさんと冗談で作ったゲームなんだ。
見た目は無料で遊べるブラウザゲームみたいだけど中身はしっかり作られてるんだね。

「1回プレイしたら1ヶ月は大丈夫だから。コンセント抜く前にやっておかないと」
「よく分かんないけど大事なクイズみたいですね」

さて、僕の好きなスイーツはたくさんあるけど。
ヒントはこの日付。僕が大学3年の秋に好きだったもの。

「もしかして、ゆずソフト？」
「正解」

圭介さんがゆずソフトと打ち込むと、ゲームの画面に桜の花が咲いた。
バイト先で扱っていた期間限定メニューの柚子味ソフトクリームにハマってた時期がある。
それを圭介さんは知ってたんだね。さすがストーカー。

「今は開花しただけ。次に正解したら五分咲きになって。3問正解して満開になったらゲームクリアだよー。その前に3回間違えたらゲームオーバー。桜が散っちゃう。その時もデータは流出するから、遊ぶ時は気をつけてね」

そんな危険なゲームで遊ばないよ。

『第2問・唯の父方祖父が育てていた米の品種は？』
「コシヒカリ！」

これは簡単だ。即答できる。
会津で育ったコシヒカリは新潟県の魚沼産と並ぶくらいに美味しいと評価される自慢の米だからね。

桜の花がさらに開いて画面の半分ほどをおおった。
最後はどんな問題？

『2022年10月17日に唯が着装した黒うさぎコーデのアイテム、全て答えよ』

この日付。黒うさぎコーデの文字。
それって、僕の初めての夜に着た、あの黒いうさ耳ポンチョのこと！？
そんなもの答えられるわけがないだろう！

なのに圭介さんは迷いなく商品の品番まで答えて。桜の花は満開になった。

「最後の問題は削除してください」
「えー。良い問題なのに」
「全然良くないです」
「俺にしか答えられない。とっても良い問題だよ？」

このクイズゲームに正解しないと開かないファイルもあるから。
クイズは簡単すぎてもいけないと圭介さんは言う。

「機密情報のセキュリティは大事だから、その問題は残しても良いですけど。人に見せたら絶対に駄目ですよ」
「見せるわけないし。千を超える問題から、あの問題を引き当てる確率低いし。安心して」

1000問も僕に関するクイズがあるのも怖いんだけど。
他にはどんな問題があるのか。
知りたいけど、知りたくない。

人のパソコンの中身なんて、恋人同士でも見ないほうが良いものだ。
うん。僕も見なかったことにしよう。