恋愛サティスファクション

不動ベイシン

あつまれセブンナイツ5

8月21日。
今日から全国の裁判所が夏季休暇を終えて活動を始める。
でも、僕達の夏休みはまだ続く。

家のことはやるけど、ふたりで手早く終わらせて。
残った自由に過ごせる時間で本気の鬼ごっこをして遊んだり、アニメを見たり、昼寝をしたり。
まるで小学生の夏休みみたいな生活。

有り余る時間を使って、自由研究じゃないけど、うどんを粉から作ってみた。
二人で交代しながら何度も踏んで、寝かせると美味しくなるから一晩寝かせて。
ようやく完成したうどんはお昼にみんなで食べる。

「唯。写真撮ろー」

あとは茹でるだけのうどんを持って、記念写真。
近頃、圭介さんは写真を撮るのがブームだ。
僕と肩を並べて、腕をいっぱいに伸ばして撮るセルフィー。
お皿に山盛りのうどんを持った僕と圭介さんの写真はグループチャットにも送っておく。

『今日のお昼は僕達の作った手作りうどんです。天ぷらもあるよ』

お昼ごはんは、うどんと天ぷらだから時間厳守で食堂に来てね。
じゃないと、美味しく食べられないよ。
玲司君のリモートワークに合わせて12時半にお昼ごはんを食べられるように用意すると予告しておく。

僕が連絡をしている間に圭介さんは撮ったばかりの写真をスマホの待受に設定していた。
誰かに見られたらって思うけど、屋敷にいるみんなになら見られても問題ない。
塀の外に出られるようになったら、待受の設定を変えてくださいね。

自家製のうどんってモチモチしてて、すっごく美味しい。
揚げたてサックサクの天ぷらに、ダシを引くところから作った麺つゆをつけて。
穴子も海老も茄子も大葉も、天ぷらは全部美味しい。
食べ過ぎてる気もするけど、運動したらゼロカロリー。
お昼ごはんを食べたら、リングフィットアドベンチャーをやろう。
それに圭介さんは僕の食べる分をお皿によそう時、ちゃんとカロリー計算してくれているから。
信じて美味しく完食するよ。

うどんの弾力のある歯ごたえを楽しんでいたら、iPhoneの着信音。
誰の？ 僕のじゃないよ？

「松川さんだ」

圭介さんが画面を確認して、そう言った。
言っただけ。
電話に出てあげない。

「圭介さん、お電話ですよ。出てください」
「唯の踏んだうどんがのびる」
「また踏んであげるから出てください」

急ぎの要件だったら大変でしょ？
そうじゃないなら、かけ直せば良いじゃん。
横から腕を伸ばして、圭介さんの手の中にあるiPhoneの緑のアイコンをタップした。

「話が違うじゃないかー！」

隣に座る僕にまではっきりと聞こえた叫び声。
なになに？ トラブル発生？

圭介さんはスピーカーに切り替えたiPhoneをテーブルの上に置いて、うどんを啜る。
うん。とりあえず、食べながら話を聞こうか。

「盆休みは何もしないと言っていたじゃないか。なのに、なぜ、開示請求なんて。俺は聞いてないぞ！」

話してないからね。
圭介さんへの脅迫や誹謗中傷はあくまでも個人の問題だから。
弁護士さん達と相談して対応を進めている。
僕は時々意見を言ったけど、基本は見てただけ。
どんな表現が違法かって判断は僕には難しかった。
全部酷い言葉に見えちゃって、これは意見論評だからセーフなんて理論は理解できなかったよ。

会議の結果、警察への相談はひとまずやめておいた。
すでに衣笠大臣が警察への対応も進めてくれている。
衣笠大臣に話してしまうと、圭介さんが秘密裏に動いていることもバレてしまう。
だから、今はまだ刑事事件としては扱わない。

民事事件での対応になるけれど。
Twitter(現X)41件、5ちゃんねる25件、YouTube15件、note10件、ニコニコ動画5件、はてなブログ5件。
合わせて101件の開示請求をすることになった。
悪質な投稿は様々な媒体でされていたし。
一箇所に申請するより複数箇所に分けたほうが開示も早く進む。

圭介さんのお友達の伊都さんはそういうインターネットの事件を得意としている弁護士さんだったから。
各プラットフォームで微妙に違う開示の対応も知っていて、圭介さんの用意した書類をより良いものに直してくれた。
敵はあくまでも投稿者。
コンテンツを運営している会社は被告と呼ばれるけれども協力者だから、相手が仕事をしやすい明朗な書面を用意するのが大切なんだって。