恋愛サティスファクション

可視化ライブラリ

魔女の子のこった5

楓さん、お待たせしました。
鈴村さんが脱ぐのはいつものことだから気にしてなかったって？
駄目ですよ。親しい間柄だって、ちゃんと社会常識は残さないと。

さあ長襦袢を着ましょう。
さらりとした麻の下着は涼しそうだ。
それと気になるのが。

「半衿はビーズなんですね」

花見会の時は花模様の刺繍が入ったシルクの半衿だったけど。
今日の半衿は小さなビーズが板状になってる。
中世の鎧、チェーンメイルの華奢なやつみたい。

「そうよ。ガラスのビーズを糸に通して、それを織ったもの。ひんやりして気持ちいいでしょ？」

たしかに。首元がひんやりする。これは夏向きの半衿だな。
カラーは肌なじみの良いオフホワイト。ビーズ織りの半衿はハイライト効果もあって素晴らしいです。

ひまわり柄の着物に合わせるのは白とライムグリーンがかわいい市松模様の名古屋帯。
鈴村さんも褒めてくれた組み合わせ。
楓さんは若い人向けのコーディネートを考えるのが楽しかったと言う。

着替えたあとはせっかくの機会だし着物が綺麗に見える動き方を教わる。
家でひきこもってた時も圭介さんに教えてもらって自主練はしてたよ。
花見会の時は正座をしていたら足痺れて酷い目にあったし。
正座の耐久訓練は何度かやりました。
同じ失敗を繰り返したくはないからね。

「お着物のときはお袖と裾をバサバサ広げないように意識して。歩く時は歩幅を小さく。猫背も良くないけどサクラちゃんはもともと姿勢が良いから、そこはバッチリね」

突貫での練習会は褒めて伸ばすスタンスの楓先生のおかげで楽しく学べる。
今日は枡席っていう座布団の席で相撲を見るのでそのときの動きをメインで集中講座。

そうこうしてたら。
鈴村さんもお出かけ用の服に着替えはじめた。
今日はモスグリーンのスタンドカラーの長袖シャツにブラウンのストレートパンツ。
外に行く時は肌見せない系なんだよね。
オンオフのギャップ強め。

「いいわぁ。本物の親子みたい。お写真を撮りましょう。そこの花瓶のところに立って」

楓さんに言われて。部屋に飾られていた花の前で鈴村さんと記念撮影。
すっごくそれっぽい写真になった。
その写真のデータを僕にも送ってください。
インスタに載せたいから。

#夏着物　#相撲観戦コーデ　#鈴村さん風メイク

ストーリー用に動画も撮りたい。
インカメラで鈴村さんと一緒に自撮り。
今日の僕は鈴村さんの娘だよ。
可愛いって思ってくれたらイイネしてね。

「写真になると、より私に似るな」
「目の錯覚ですよ。写真は平面なので。あと笑うとより似ます。ほらニコニコー」

笑うと目尻が下がるから、よりタレ目っぽくなるんだ。
それに化粧は科学です。そしてバケ学です。
理屈が分かれば応用は簡単。

「魔女の娘は魔法使いか。面白い。すでに手話のサインで私のことを母と呼んでいるのだ。せっかくだし本当の母親になってあげるよ」

お母さんですか？ お父さんではなく？

「それは素敵！ 今日は保さんも一緒でしょ？ なら保さんのことをお父さん、鈴ちゃんのことをお母さんって呼びなさい。面白いことになるわぁ！」

楓さんが興奮気味に右手の親指と左手の人差し指を立ててフリフリしてる。
外に出たらウサギモード。手話で話すことになる。
その時にお父さんとお母さんのサインで2人を呼べというのか。
僕は構わないけど。なんだか怪しい作戦に巻き込まれてる気がする。
鈴村さんの笑顔が悪巧みをしている悪役に見えるのは穿ちすぎか？