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初陣アプレンティス
別れ話は突然に1
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……頭痛い。なにこれ。病気?
違う。これは二日酔いだ。昨日は楽しくて飲み過ぎちゃった。
お義父さんのコレクションだというお酒の飲み比べをさせてもらったのは覚えてる。
ご馳走やお祝いのケーキも食べた。
そのあと僕はどうしたんだ?
まだ眠りたい気持ちを無視して。無理矢理に目を開ける。
ここは僕の寝室。いつもの布団。見慣れた天井。
だれかが眠ってしまった僕を運んでくれたのか。
今何時だ? 朝の水やりをしなきゃ。でも起きたくない。
耳をすませば窓の外に雨の音。外が雨なら水やりはしなくてもいい。
二度寝が許される恵みの雨だ。
そう思ってもう一度目を閉じ、ガーゼケットを手繰り寄せようとしたら何かに引っかかった。
「おはよう。唯」
声に驚いて再び目を開けたら、笑顔の圭介さんが僕の布団にいた。
目があって数秒。何が起きているのか分からずに固まってしまう。
「何してんですか!?」
勢いよく体を起こして布団から飛び出した。
いつの間にかパジャマに着替えてる。
それに化粧も落とされてる。
痣が見られちゃった。嫌だ。見ないで。
顔の右半分を手のひらで覆った。
あいている左手で全身を触って、異変がないかの確認。
二日酔いの頭痛とほんの少しの吐き気。
腰とか大事なところに違和感はない。
僕達は一緒に寝てただけ?
「昨日の夜はかなり飲んでたねー。俺と一緒に寝るって駄々こねる唯が見られて可愛かったよ」
酔った勢いで僕は圭介さんに添い寝をねだったのか。
なにも覚えていなくて、そんなことを言うはずないともいえない。
畳の上に座って呆けていたら二上さんが朝の検温にやってきた。
「おはようございます。具合はどうですか? 昨夜はかなり飲まれてましたけど」
頭が痛い。吐き気もある。でも普通に動ける程度。
それよりもこの状況に戸惑っているんだ。
でも二上さんは平然としてる。
「腕出してください」
圭介さんがいるのに普段と変わらない様子で、体温と血圧を測られる。
二上さんが何も言わないってことは、本当に僕は圭介さんと一緒に寝ると言ったのか?
「127の72。寝起きのいつも通りですね」
無視されても気にせず僕を見つめ続ける圭介さんの視線が怖い。
きっと二上さんが読み上げる僕の血圧を覚えることに夢中だと思いたい。
「二日酔いなら今日は大人しくしていてください。吉野さんも二日酔いで寝込んでるので、今日は食事も各自で簡単に済ませようかと」
「飯なら俺が作るよ。その、唯が良かったらだけど」
二上さんの言葉をそれまで大人しく僕を見ていた圭介さんが遮る。
僕が食べないと言ったら作らないってこと?
いちいちお伺いを立ててくるのが鬱陶しいけど、勝手にされるのも嫌なのでそこは我慢。
「圭介さんの作るご飯は美味しいですし、吉野さんが休めるなら。それでいいんじゃないですか」
他に言いようもないし。
「美味しい朝食作るー。何食べたい? だし巻き? オムレツ? 目玉焼き?」
卵料理の選択なら。
「ふわふわのだし巻き卵が食べたいです」
こいつ胃袋掴まれてんなって二上さんに思われそうだけど。
実際に掴まれちゃったんだから仕方ないじゃん。
美味しいんだよ。圭介さんの作る卵焼き。
朝食の支度をすると言って圭介さんは布団から出て行った。
そういえば当たり前だというように一緒に寝てたけど。
僕がねだったというのは本当なのか?
二上さんに聞いてみよう。
「昨日の夜、寝る前の僕ってどんな感じでした?」
「覚えてないんですか?」
疑問を疑問で返された。
「お義父さんのコレクションのお酒を味見させてもらったことは覚えてるんですけど。ケーキを食べたあとは全く」
記憶にございません。
鈴村さんお手製の味醂で作った梅酒が美味しかったのは覚えてるよ。
でもそれ以外はさっぱりだ。
呆れたって顔で見ないでよ。
二上さんはいっつもその顔をしてる。
「僕が圭介さんに添い寝をねだったって聞いたんですけど。本当ですか?」
「そんなものを頼む前に寝てました。一緒に寝たのは圭さんの判断でしょう」
また嘘をつかれた。
息を吐くように嘘をつくな。
MOZUちゃんより圭介さんの方がずっと虚言癖じゃないか。
朝の身支度が整う頃。朝食が出来たと呼ばれた。
昨日までと同じ食卓。
でも作ったのは吉野さんじゃない人。
朝食を作った圭介さんは当然のように僕の隣りに座って食べている。
僕だけが二日酔いの朝に優しい献立。にゅうめんとだし巻き卵、数切れの茄子のぬか漬け。
美味しいご飯に罪はない。
だから残さず食べたけど。
これですべてが許されたと思われても困るので釘を差しておくことにした。
二日酔いで寝込んでいる吉野さんと離れで昨日の後始末をしている成瀬さんを除く皆の前で僕は伝えたんだ。
「圭介さん、僕達別れましょう」
違う。これは二日酔いだ。昨日は楽しくて飲み過ぎちゃった。
お義父さんのコレクションだというお酒の飲み比べをさせてもらったのは覚えてる。
ご馳走やお祝いのケーキも食べた。
そのあと僕はどうしたんだ?
まだ眠りたい気持ちを無視して。無理矢理に目を開ける。
ここは僕の寝室。いつもの布団。見慣れた天井。
だれかが眠ってしまった僕を運んでくれたのか。
今何時だ? 朝の水やりをしなきゃ。でも起きたくない。
耳をすませば窓の外に雨の音。外が雨なら水やりはしなくてもいい。
二度寝が許される恵みの雨だ。
そう思ってもう一度目を閉じ、ガーゼケットを手繰り寄せようとしたら何かに引っかかった。
「おはよう。唯」
声に驚いて再び目を開けたら、笑顔の圭介さんが僕の布団にいた。
目があって数秒。何が起きているのか分からずに固まってしまう。
「何してんですか!?」
勢いよく体を起こして布団から飛び出した。
いつの間にかパジャマに着替えてる。
それに化粧も落とされてる。
痣が見られちゃった。嫌だ。見ないで。
顔の右半分を手のひらで覆った。
あいている左手で全身を触って、異変がないかの確認。
二日酔いの頭痛とほんの少しの吐き気。
腰とか大事なところに違和感はない。
僕達は一緒に寝てただけ?
「昨日の夜はかなり飲んでたねー。俺と一緒に寝るって駄々こねる唯が見られて可愛かったよ」
酔った勢いで僕は圭介さんに添い寝をねだったのか。
なにも覚えていなくて、そんなことを言うはずないともいえない。
畳の上に座って呆けていたら二上さんが朝の検温にやってきた。
「おはようございます。具合はどうですか? 昨夜はかなり飲まれてましたけど」
頭が痛い。吐き気もある。でも普通に動ける程度。
それよりもこの状況に戸惑っているんだ。
でも二上さんは平然としてる。
「腕出してください」
圭介さんがいるのに普段と変わらない様子で、体温と血圧を測られる。
二上さんが何も言わないってことは、本当に僕は圭介さんと一緒に寝ると言ったのか?
「127の72。寝起きのいつも通りですね」
無視されても気にせず僕を見つめ続ける圭介さんの視線が怖い。
きっと二上さんが読み上げる僕の血圧を覚えることに夢中だと思いたい。
「二日酔いなら今日は大人しくしていてください。吉野さんも二日酔いで寝込んでるので、今日は食事も各自で簡単に済ませようかと」
「飯なら俺が作るよ。その、唯が良かったらだけど」
二上さんの言葉をそれまで大人しく僕を見ていた圭介さんが遮る。
僕が食べないと言ったら作らないってこと?
いちいちお伺いを立ててくるのが鬱陶しいけど、勝手にされるのも嫌なのでそこは我慢。
「圭介さんの作るご飯は美味しいですし、吉野さんが休めるなら。それでいいんじゃないですか」
他に言いようもないし。
「美味しい朝食作るー。何食べたい? だし巻き? オムレツ? 目玉焼き?」
卵料理の選択なら。
「ふわふわのだし巻き卵が食べたいです」
こいつ胃袋掴まれてんなって二上さんに思われそうだけど。
実際に掴まれちゃったんだから仕方ないじゃん。
美味しいんだよ。圭介さんの作る卵焼き。
朝食の支度をすると言って圭介さんは布団から出て行った。
そういえば当たり前だというように一緒に寝てたけど。
僕がねだったというのは本当なのか?
二上さんに聞いてみよう。
「昨日の夜、寝る前の僕ってどんな感じでした?」
「覚えてないんですか?」
疑問を疑問で返された。
「お義父さんのコレクションのお酒を味見させてもらったことは覚えてるんですけど。ケーキを食べたあとは全く」
記憶にございません。
鈴村さんお手製の味醂で作った梅酒が美味しかったのは覚えてるよ。
でもそれ以外はさっぱりだ。
呆れたって顔で見ないでよ。
二上さんはいっつもその顔をしてる。
「僕が圭介さんに添い寝をねだったって聞いたんですけど。本当ですか?」
「そんなものを頼む前に寝てました。一緒に寝たのは圭さんの判断でしょう」
また嘘をつかれた。
息を吐くように嘘をつくな。
MOZUちゃんより圭介さんの方がずっと虚言癖じゃないか。
朝の身支度が整う頃。朝食が出来たと呼ばれた。
昨日までと同じ食卓。
でも作ったのは吉野さんじゃない人。
朝食を作った圭介さんは当然のように僕の隣りに座って食べている。
僕だけが二日酔いの朝に優しい献立。にゅうめんとだし巻き卵、数切れの茄子のぬか漬け。
美味しいご飯に罪はない。
だから残さず食べたけど。
これですべてが許されたと思われても困るので釘を差しておくことにした。
二日酔いで寝込んでいる吉野さんと離れで昨日の後始末をしている成瀬さんを除く皆の前で僕は伝えたんだ。
「圭介さん、僕達別れましょう」
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