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くらげ

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真実のその先へ4

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「あの時、鞘間は上前津抗争の後始末で親父を含めた幹部級が何人も逮捕された直後だったから。これ以上の厄介事は本当に避けたかったんだよ。ヤクザが善意の第三者になんてなっても無駄に疑われて損するだけだ。唯のことは居なくなった日の夜に速報で報道されていたから鞘間としても対応に苦慮してたよ」

ヤクザってだけで疑われる。
だから善意の行動はしない。
結果、罪を重ねて。余計に信用を失って。

それに巻き込まれた形なのが僕か。
事態を面倒にしたのは半日もたたないうちに報道機関にまで情報が公開されたせいもあるみたいだけど。
捜査機関が情報提供を求めていたんだろうけど1日くらい報道を待ってくれたら。僕の扱いは変わっていたんだろうか。
タラレバを考えても仕方ないのに考えずにはいられない。

「連れて行かれた世田谷の屋敷では鈴さんが出迎えてくれた。皆忙しくて手隙なのが鈴さんしかいなかったんだろうね。ガキの処遇なんて雑務はガキにさせたら良いってこと」

当時、まだ未成年だった鈴村さんに僕達のことを一任させていた?
いくらヤクザ歴が長くても、人生経験豊富でいくつもの修羅場を掻い潜っていたとしても。
決められることなんて自分に関する事柄だけだろう。
子供に自分より小さな子供の人生に関わる判断を強要していないか?

「俺の顔見た瞬間の鈴さんの驚いた顔。あれは忘れられないな。最初は兄貴の子供だと思ったらしいよ。俺達、無駄にそっくりだから。それで何かに使えるかもしれないってDNA鑑定をすることになった」

もし圭介さんが樹さんの子供だったら。
どんなふうに使うつもりだったんだ?
ゆすり? たかり?
鈴村さんが考えることなら、そんな単純じゃなさそう。

「唯が家に帰るまで10日間もかかったのは俺のせいなんだ。もしも兄貴の子供だったら唯の対応も変わるからって。俺がなんでもないそのへんのガキだったら。唯もイタズラ目的で攫われた、ただの可哀想な子供として扱われてたのに」

そもそもの誘拐の目的がイタズラだったはずだよね?
犯人が女の子だと思って拐われたから、イタズラは未遂に終わってるけど。
圭介さんが助け出してくれたから暴力も振るわれてないけど。

「鑑定結果が出るまでの期間。俺と唯、世話係の多菊さんは世田谷の屋敷の敷地内にある離れで過ごすことになった。離れはThe昭和の和風建築だったんだけど。唯には祖父母の家っぽく思えたみたいで速攻馴染んでたよ」

僕、順応するの早いな。
環境があれこれ変わってるのに覚えてないのが不思議だけど。
屋敷の離れというのが福島のお爺ちゃん家みたいな感じだったんだろうか。
それで記憶が混線して曖昧に忘れてしまった?

「唯が飽きないようにって大量のおもちゃが座敷に運び込まれて。食べたいものはなんでも多菊さんが用意して。大はしゃぎで喜ぶ唯に俺は夢を見てるんだよって何度も言い聞かせた」

夢?

「最初に怒鳴られたのは怖い夢でそのあとはずっと楽しい夢。やりたいことはなんでも叶う素敵な時間。朝、目が覚める度にまだ夢の中? って聞く唯に。そうだよ。まだ夢の中だよ。今日は何をして過ごそうか? って言って聞かせてた」

それで騙される僕はどうなんだ。
素直すぎるだろう。
夢の中だと信じちゃうくらい好き放題させてもらってたのか。

「当初の予定では唯は殺されてたかもしれなかったんだ。鑑定結果次第では俺も。だから最後の晩餐じゃないけど贅沢三昧させてくれたんじゃない?」

さらっと怖い計画を話さないで。
僕と圭介さんが死んでたかもしれないなんて。
そんな紙一重の判断を鈴村さんがしていたことが何よりも怖い。

だって魔女の魔法で人が殺せるのなら。
魔女見習いになる僕も、その判断を求められるんじゃないか。
人の生き死に関わりたくなんてないよ。

「俺はどうでも良かったけど。唯が死ぬのは嫌だった。唯だけは生かして家に帰してやりたいって思ったんだ」

駄目だよ。圭介さん。
そこはふたりで生き残ることを考えないと。
結果として僕達は生きているけど、運が良かっただけで危ない場面はいくつもあった。
それこそ圭介さんが僕を助けてくれなかったら。
僕は最初の誘拐犯に殺されていたかもしれないんだ。
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