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くらげ

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おいたちラプソディ7

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「安奈、俺と別れたあとも家には帰らなかったんだって。俺が置いてった20万を切り詰めて過ごしてた。昼間は公園とか図書館で時間潰して、夜は漫画喫茶で寝泊まりして。それでも金が尽きてきて、またウリやるかって時にタイミング悪く悪阻で身動き取れなくなった。家にも帰れない。金もないってところで声かけられたんだ」

にっちもさっちもいかない状況で声をかけてきたのは誰?

「それがLittle WOMENっていう福祉系の社団法人。その法人が運営してる、少女向けのシェルターLittle WOMENの家に保護されることになったまでは良かったんだけど」

女の子を保護してくれる民間の団体があったんだね。
そういう人達のドキュメンタリーは時々テレビでやってるから見たことある。
僕が新大久保でカレーをご馳走になった泰葉さんも似たような活動してたし。
他人に無関心だと言われる現代の世の中もそんなに捨てたもんじゃない。

「安奈が妊娠してることを知ったシェルターのスタッフから中絶するように言われたんだ。まだ若いから無理に産むよりも今回は諦めなさいって」

女の子を保護するくらい親切な人達なのに。
なんでそんな非情なことを言うの?

「でも安奈は家族に強い憧れがある奴だったから。腹の子と家族になりたいと願い、スタッフの指示を拒否したらしい」

家に居場所がなくて。それでも家族を求めていた安奈さんだから。
簡単に子供を諦めるなんて出来なかったんだ。

「中絶手術を受ける為、強制的に病院に連れていかれる途中。車から逃げ出して、俺のとこに来たってわけ」

それは必死にもなる。
お腹の子を守れるのは自分だけ。
そんな安奈さんの話をろくに聞かずに下ろすように言った圭介さんはやっぱり最低。

「Little WOMENから逃げ出したはいいけど追われる身。運良く廃品回収に出されてた冬物の服を漁って、着替えて変装したのは発想力が凄いよね。そのあとも財布落として帰れないって適当な嘘ついて、街ゆく人に小銭借りて。そうして集めた金で考功の最寄り駅まで辿り着く行動力。そしてなりふり構わず俺に縋れる度胸」

是が非でも圭介さんに会うんだっていう強い意志。
本当に頼れるのが圭介さんだけだったんだ。

「これが母親かって思ったら、なんにも言えない」

母は強しって言うもんね。

「翌日、病院で検査してもらったら、安奈の腹の子は順調に育ってるのが分かって。さてこの後どうする? シェルターに帰るなんてありえない。Little WOMENに実家もバレてる。じゃあ一緒に住むかってなったんだ」

その状況では他に選択肢もない。

「あの頃、俺は世田谷の屋敷の敷地内に別宅建ててもらって、鈴さんと玲司と一緒に住んでた。そこの部屋のひとつを、安奈に貸したんだ」

玲司君も一緒に住んでたんだ。
だから栞奈ちゃんの名前がつい口を出てしまった。

「別宅とはいえ、他人が敷地内に入ることを親父に認めてもらうために頭下げたよ。俺が馬鹿やったことを怒るのかと思ったら。全然違って、めちゃくちゃ喜んでくれて。安奈は美人だったから、両親どっちに似ても可愛い子になるって。俺達の子供を喜んでくれるなんて、思ってもいなかったから拍子抜けしたね」

お義父さんは子供が好きだから。
それと圭介さんに頼って貰えたのも嬉しかったんだと思う。
ようやく父親らしいこと出来るって。

「4月になって、俺はエスカレーターで高校に上がって。これまで通り学校に通って、放課後は各種お稽古事も続けて。でも夜は安奈と一緒に飯食って、昼間に何してたか話を聞くのがルーティンになった。本当なら、安奈も高校入学の歳だったんだけど、通える状態じゃなかったから。俺の高校の話を聞きたがったな。いつかは通いたいって」

安奈さんは圭介さんと同い年だったんだ。
だけど妊婦さんだし受験どころじゃない。

「敷地から出るのは危ないから禁止してたけど、健康のためにって庭を散策して過ごしてた。あと、親父がよく話し相手になってくれてたらしい。屋敷の人間に勉強も見てもらってたよ。小学校のつまづいたところから、丁寧にやり直してた」

落ち着いた後に高校に通うとしても。
義務教育期間の勉強を、事前にやり直しておくのは無駄がない。
それに話を聞いてる感じ安奈さん、地頭は良さそうなんだよね。
ちゃんと自分の頭で考えて行動が出来る人。
家庭の問題のせいで学校の勉強が疎かになっていたとしたら勿体ないことだ。
でも敷地から出るの禁止ってそこまでやる?

「危ないって言っても家の周りを散歩くらいなら出来たんじゃないんですか?」

安全の為だと言われてた僕でも圭介さんや玲司君と一緒に出掛けたりはしたよ。
本職のヤクザに護衛を頼めそうな安奈さんなら少しぐらいの外出も余裕じゃない?

「あの時、Little WOMENが分からないなら調べればいいって調べたんだ。そしたら出てきたのは、Little WOMENの裏の顔。奴ら表じゃ善人ぶって福祉の顔して、隠れたところじゃヤクザ顔負けな裏稼業やってた」

ここで圭介さんが話すのをやめた。

「でも、これについては話したくない。唯に聞かせたくない」
「ここまで話しておいて言わないっていうのは良くないですよ」
「でもすっげー胸糞悪い話だし。尾壁なんて、話聞いて吐いたよ」

壁やんはLittle WOMENの裏稼業を知ってるんだ。
もしかして僕に話せない頼まれ事ってそのこと?

「壁やんが知ってて僕が知らないなんて駄目ですよ。僕は壁やんの上司なんです」

もう僕だけが知らないのは嫌だ。
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