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こうどうマーチ4
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「僕、中高の6年間野球部だったんだ。中学入学したての春。隣の席の子に体験入部に行こうって誘われて。野球のルールすら知らなかったけど、せっかく誘ってくれたし仲良くなるキッカケになるかと軽い気持ちで参加したのがはじまり」
見学だけして入部するつもりはなかった。
僕が入学した総開大附は野球の名門で有名だったし。
未経験者の僕が入るなんて無茶な話だ。
「中学受験でそれまで仲良かった地元の子達と別の中学に進学することになって。僕だけ本命校に落ちちゃったから仕方ないんだけど。初対面の子しかいない教室が心細かった。だから誘われるままについていった」
僕は昔から流されてばっかりだ。
自分で一歩を踏み出せない。
誰かの後ろをついていってる。
「でも、そこで野球部のことを説明してくれた鶴見先輩がね。カッコ良かったんだ」
一目惚れだった。それが僕の初恋。
鶴見先輩と仲良くなりたい。
そんな不純な動機で始めた野球。
「入部の挨拶で未経験だけど鶴見先輩と同じキャッチャーをやりたいですって宣言して。キャッチャー志望の他の子達はみんな小学校の頃から部活やリトルリーグで野球をしていたから僕は完全に浮いてた」
無謀すぎる。何も知らないから飛び込めたって今なら思う。
「僕らの代はマネージャーがいなかったから最初はマネージャーの代わりをしてたんだ。女マネの先輩から仕事と一緒に野球のルールも教えてもらったりしたよ」
雑用を任されて、合間の時間に野球のルールを学んだ。
一番大事なのは野球部の体育会系な空気に慣れること。
挨拶は大事。先輩や先生、父兄さん達の言うことは絶対。
当時の僕は女マネの先輩より立場が下のヒエラルキー最下位だった。
「あとは昼休みとかの休み時間に僕を野球部に誘ってくれた中原君がキャッチボールの相手をしてくれて。誘ったからには僕が選手になれるように育てるって変な使命感持ってる子だった。試合に出るのは全然違うんだって力説されたな。僕は鶴見先輩と話せれば雑用係でも満足だったのに」
中原君はのちに僕達の代のキャプテンを任されるぐらい真面目な子だった。
野球部に入部したからには試合に出てこそだと言って、そのために必要な基礎をひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
僕は野球のルールで分からないことがあるといつも中原君に聞いていた。
「キャッチボールがおぼつかなくなった頃。捕手の練習にも混ぜてもらえるようになったんだ。それまでの雑用から一気にやれることが増えた。最初はひとりでレガースを付けることも出来なかった僕に鶴見先輩はすっごい親切で丁寧に教えてくれたよ。雑用の頃よりたくさん話せるようになって嬉しかったな」
鶴見先輩は教えるのも勉強になるからと自分の練習時間を割いて僕に使ってくれた。
基本の姿勢。ミットの構え方。キャッチャーの心得。
捕球の基礎は全部鶴見先輩から学んだ。
「まあ鶴見先輩、高等部行ったら成長期と筋トレが悪魔合体してゴリラみたいになっちゃって。ゴリラは違うかなってスンって冷めちゃったんだけど。初恋なんてそんなもんなんだ。始まるのも終わるのもあっという間。それからは野球に集中出来て、それはそれで良かったし」
初恋は儚いけど。これはそんなに嫌じゃない思い出。
「中学3年の夏くらいには純粋に野球が楽しくなってきて。二軍の練習試合に出してもらえるようになったからかな。やっぱり見てるより自分でマスクを被ってグラウンドに立つのは面白さが半端なくて。中原君には本当に感謝してる。彼が僕のキャッチボールに根気強く付き合ってくれたから、僕は試合に出られた」
中原君は中学3年間、毎日昼休みにキャッチボールの相手をしてくれたんだ。
雨でも体育館の軒の下を使って、本当に毎日付き合ってくれた。
彼が僕に試合に出る楽しさを教えることを諦めなかったから、僕はその楽しさを知れたんだ。
「中3の時には全国大会のベンチにも記録員として座らせてもらえた。僕は記録員だったからグラウンドに立つことは出来なかったけど皆と一緒に戦ってる一体感。あれは凄い」
声が枯れるまでベンチから声援をおくったっけ。
「優勝した時のことは今でもはっきり覚えてるよ。興奮した選手にもみくちゃにされた時、僕も仲間として認めてもらえたんだってすごく嬉しかった。帰りのバスの中、みんなで校歌とか歌って」
あの時のテンションはやばかった。
興奮冷めやらぬみんなが俺達は日本一だ!
って騒いで先生に叱られてた。
怒られたって静かになるわけもなく、先生達も諦めてたけど。
誰も大人しくシートに座ってなくて。大会の間のいろんなプレーについて1球1球振り返ってた。
自画自賛が強い子もいたけど、それだけ自分に自信があるからレギュラーにもなれるんだろう。
自信を裏付けるだけの才能が彼にはあったし。
そんな感じで大騒ぎのバスの中。みんなすっごく嬉しそうに笑ってた。
当たり前だ。日本一だもん。
あの夏、彼らは本当に日本で一番の中学生だったんだ。
そして僕もその一員として、裏方としてだけどチームに貢献できたのが嬉しくて、帰りのバスでは泣いちゃった。
卒業式でもないのに泣きながら校歌を歌うことなんて。それも喜びの涙で。
「それで満足しちゃったんだよね。燃え尽きた感じ。みんなは次の目標は甲子園だって高い意識を持って練習してたけど。僕は高等部でも野球部に入るか迷っていたんだ」
高等部の練習は中等部と比べ物にならないくらいにハードなのは見て知っていた。
あれに僕がついていけるのかって考えたらしり込みしたんだ。
「そんな秋のある日。スポーツ推薦で高等部から一緒になる子が何人か練習に来た。その中のひとりがピッチャー志望の平間君」
彼との出会いは忘れたくても忘れられない。
見学だけして入部するつもりはなかった。
僕が入学した総開大附は野球の名門で有名だったし。
未経験者の僕が入るなんて無茶な話だ。
「中学受験でそれまで仲良かった地元の子達と別の中学に進学することになって。僕だけ本命校に落ちちゃったから仕方ないんだけど。初対面の子しかいない教室が心細かった。だから誘われるままについていった」
僕は昔から流されてばっかりだ。
自分で一歩を踏み出せない。
誰かの後ろをついていってる。
「でも、そこで野球部のことを説明してくれた鶴見先輩がね。カッコ良かったんだ」
一目惚れだった。それが僕の初恋。
鶴見先輩と仲良くなりたい。
そんな不純な動機で始めた野球。
「入部の挨拶で未経験だけど鶴見先輩と同じキャッチャーをやりたいですって宣言して。キャッチャー志望の他の子達はみんな小学校の頃から部活やリトルリーグで野球をしていたから僕は完全に浮いてた」
無謀すぎる。何も知らないから飛び込めたって今なら思う。
「僕らの代はマネージャーがいなかったから最初はマネージャーの代わりをしてたんだ。女マネの先輩から仕事と一緒に野球のルールも教えてもらったりしたよ」
雑用を任されて、合間の時間に野球のルールを学んだ。
一番大事なのは野球部の体育会系な空気に慣れること。
挨拶は大事。先輩や先生、父兄さん達の言うことは絶対。
当時の僕は女マネの先輩より立場が下のヒエラルキー最下位だった。
「あとは昼休みとかの休み時間に僕を野球部に誘ってくれた中原君がキャッチボールの相手をしてくれて。誘ったからには僕が選手になれるように育てるって変な使命感持ってる子だった。試合に出るのは全然違うんだって力説されたな。僕は鶴見先輩と話せれば雑用係でも満足だったのに」
中原君はのちに僕達の代のキャプテンを任されるぐらい真面目な子だった。
野球部に入部したからには試合に出てこそだと言って、そのために必要な基礎をひとつひとつ丁寧に教えてくれた。
僕は野球のルールで分からないことがあるといつも中原君に聞いていた。
「キャッチボールがおぼつかなくなった頃。捕手の練習にも混ぜてもらえるようになったんだ。それまでの雑用から一気にやれることが増えた。最初はひとりでレガースを付けることも出来なかった僕に鶴見先輩はすっごい親切で丁寧に教えてくれたよ。雑用の頃よりたくさん話せるようになって嬉しかったな」
鶴見先輩は教えるのも勉強になるからと自分の練習時間を割いて僕に使ってくれた。
基本の姿勢。ミットの構え方。キャッチャーの心得。
捕球の基礎は全部鶴見先輩から学んだ。
「まあ鶴見先輩、高等部行ったら成長期と筋トレが悪魔合体してゴリラみたいになっちゃって。ゴリラは違うかなってスンって冷めちゃったんだけど。初恋なんてそんなもんなんだ。始まるのも終わるのもあっという間。それからは野球に集中出来て、それはそれで良かったし」
初恋は儚いけど。これはそんなに嫌じゃない思い出。
「中学3年の夏くらいには純粋に野球が楽しくなってきて。二軍の練習試合に出してもらえるようになったからかな。やっぱり見てるより自分でマスクを被ってグラウンドに立つのは面白さが半端なくて。中原君には本当に感謝してる。彼が僕のキャッチボールに根気強く付き合ってくれたから、僕は試合に出られた」
中原君は中学3年間、毎日昼休みにキャッチボールの相手をしてくれたんだ。
雨でも体育館の軒の下を使って、本当に毎日付き合ってくれた。
彼が僕に試合に出る楽しさを教えることを諦めなかったから、僕はその楽しさを知れたんだ。
「中3の時には全国大会のベンチにも記録員として座らせてもらえた。僕は記録員だったからグラウンドに立つことは出来なかったけど皆と一緒に戦ってる一体感。あれは凄い」
声が枯れるまでベンチから声援をおくったっけ。
「優勝した時のことは今でもはっきり覚えてるよ。興奮した選手にもみくちゃにされた時、僕も仲間として認めてもらえたんだってすごく嬉しかった。帰りのバスの中、みんなで校歌とか歌って」
あの時のテンションはやばかった。
興奮冷めやらぬみんなが俺達は日本一だ!
って騒いで先生に叱られてた。
怒られたって静かになるわけもなく、先生達も諦めてたけど。
誰も大人しくシートに座ってなくて。大会の間のいろんなプレーについて1球1球振り返ってた。
自画自賛が強い子もいたけど、それだけ自分に自信があるからレギュラーにもなれるんだろう。
自信を裏付けるだけの才能が彼にはあったし。
そんな感じで大騒ぎのバスの中。みんなすっごく嬉しそうに笑ってた。
当たり前だ。日本一だもん。
あの夏、彼らは本当に日本で一番の中学生だったんだ。
そして僕もその一員として、裏方としてだけどチームに貢献できたのが嬉しくて、帰りのバスでは泣いちゃった。
卒業式でもないのに泣きながら校歌を歌うことなんて。それも喜びの涙で。
「それで満足しちゃったんだよね。燃え尽きた感じ。みんなは次の目標は甲子園だって高い意識を持って練習してたけど。僕は高等部でも野球部に入るか迷っていたんだ」
高等部の練習は中等部と比べ物にならないくらいにハードなのは見て知っていた。
あれに僕がついていけるのかって考えたらしり込みしたんだ。
「そんな秋のある日。スポーツ推薦で高等部から一緒になる子が何人か練習に来た。その中のひとりがピッチャー志望の平間君」
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