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おねがいピックミー3
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きもちわるい。
これは乗り物酔いじゃない。三半規管が揺れてるんじゃない。
脳みそが揺れてるみたいに感情が落ち着かない。
僕は今、嬉しい? 怖い? 悲しい?
玲司君の運転する車はどこに向かってるのか。
車に乗り込んだあと聞こうとも思わなかった。
それは信頼? それとも無関心?
着いたのは住宅街のマンション。
昨日のホテルとは違う街。
ここはどこ? 誰の家? 聞くのが怖い。
僕は何を恐れているんだ。
自分でも分かっていないそれを理解しないと。
表面だけ整えて安心しても何も解決しない。
部屋に着いたら、きちんと話をしよう。
そう心に誓って、差し伸べられた手を握ったんだ。
この数ヶ月の間に体に染み付いたくせで圭介さんの手を取った。
車を降りる時はいつも圭介さんがエスコートをしてくれていたから。
「今日は疲れたよねー。もう歩かなくていいよー」
それなのに圭介さんはいつもと違って僕をふわりと抱き上げた。
疲れているけれど歩けないほどじゃない
だけど降ろしてと伝えて、歩けると伝えて。
圭介さんが僕の言葉を無視したら?
僕は暴れて逃げる?
圭介さんを突き飛ばして体をひねれば、簡単に落ちる、降りられる。
僕にそれが出来る? 出来るならとっくにやってる。
なんで僕は動かない?
最上階まで向かうエレベーターの中。
玲司君も鈴村さんも何も言わない。
目も合わせてくれない。
小さな箱の中では圭介さんの鼻歌だけが聞こえる。
ゴキゲンに奏でるメロディは第九。歓喜の歌。
真夏に聴く、年末の風物詩。
そのうちドイツ語で歌い出しそうなテンション。
ダダ下がりな僕のテンションに気付いてよ。
腕の中から見上げれば目は合うのに心は通じ合えない。
エレベーターの扉が開いて。一歩踏み出す圭介さんの軽やかな足取り。
先導する玲司君が玄関の鍵を開けた 。
さっきから圭介さんのサポートしかしてない。
ふたりの阿吽の呼吸から僕の知らない歴史を感じる。
彼らはいつから知り合いなんだ?
玲司君は圭介さんのロリータコレクションのことを知っていた。
それぐらい親密な関係。
ロリータ友達だったのかなって深く聞かないまま。
ヤクザとの繋がりを教えられて、変則的な恋人になって。
そこで有耶無耶になってしまった。
僕達はきちんと段階を踏んだ関係の構築をするべきだった。
ところで。
僕、結構真面目に考え事をしてるから。
圭介さんも空気読んでくれない?
キングサイズのベッドの上に恭しく降ろされて。
優しく触れるキスまでは、まあいいよ。
おかえり。ただいまの挨拶的な感じでね。
でも着物の裾から手を入れてくるのはナシかな。
なにヤル気になってるの?
「圭介さん。やめて」
僕は太ももを撫でている圭介さんの手を掴んでやめさせそうとしただけ。
掴んだって言ってもそんなに強くない。
ちょっと待ってほしいぐらいの気持ちで軽く手首を掴んだだけなのに。
圭介さんがそれまでの甘い雰囲気から豹変した。
僕の手を振りほどくと、乱暴に着物の衿を掴んで胸元をはだけさせる。
「やだっ」
そんな力任せに脱がせないで。
薄くて華奢な布地が裂けてしまいそう。
「玲司君助けて!」
開けっ放しの寝室のドアにもたれるように立って僕達を見ていた玲司君に助けを求める。
なんで部屋の中まで入ってきてくれないの?
圭介さんがいつもと違うんだ。助けてよ。
「ワリィ。ムリ。とばっちりがコワイから佐倉がんばれ。まあ。キモチよくなるだけだろうし、いーだろ」
なにも良くない。
理由も分からず怒ってる相手に気持ちよくされたら余計に怖い。
「鈴村さん!」
まだ居るよね?
帰ってないよね?
ドアの向こうにまだ居ると信じて叫ぶ。
「自力でなんとかしろ」
突き放すような声だけが返ってきた。
自力じゃ無理だから頼んでるんだ。
そこにいるなら助けてくれたっていいじゃん。
「圭君の嫉妬深さを体で覚えるといいよ」
鈴村さんに見捨てられた。
玲司君も頼れない。
圭介さんを止められない。
「なんで他の奴と話してるのー? 俺だけを見てよ」
見てるよ。でもこんなんじゃ何も見えていないのと同じだ。
圭介さんを突き飛ばそうとしても。上からしっかり押さえつけられて逃げられない。
「受け入れてよ。いつもみたいに」
いつもって何?
今この状況が普段と同じだと思ってる?
違うよね。
形勢は悪くても絶対に体をゆるすわけにはいかない。
今ここでSEXをしたら大事なものをなくしてしまうから。
圭介さんを大好きな気持ちだけはなくしたくない。
体格差はある。だけど僕を傷付けることはしないと、どこかタカをくくっていた。
だから逃げようとしていても、どこか本気でなくて。
けれども圭介さんは違ったみたい。
乱暴に僕を押さえつけた勢いで着物の袖を破いた。
布の裂ける乾いた音が耳に刺さり。
咄嗟に落ちていたバッグを掴んで振り下ろす。
今度は物のぶつかる鈍い音が耳に届く。
遅れて伝わるのは手のしびれ。
圭介さんの手が緩んだすきをついて距離を取った。
ベッドの隅に膝をついて。祈るように両手を握る。
落ち着け。僕。
目の前には頭を手で押さえて痛みに唸る圭介さん。
大丈夫。圭介さんは生きてる。
これは乗り物酔いじゃない。三半規管が揺れてるんじゃない。
脳みそが揺れてるみたいに感情が落ち着かない。
僕は今、嬉しい? 怖い? 悲しい?
玲司君の運転する車はどこに向かってるのか。
車に乗り込んだあと聞こうとも思わなかった。
それは信頼? それとも無関心?
着いたのは住宅街のマンション。
昨日のホテルとは違う街。
ここはどこ? 誰の家? 聞くのが怖い。
僕は何を恐れているんだ。
自分でも分かっていないそれを理解しないと。
表面だけ整えて安心しても何も解決しない。
部屋に着いたら、きちんと話をしよう。
そう心に誓って、差し伸べられた手を握ったんだ。
この数ヶ月の間に体に染み付いたくせで圭介さんの手を取った。
車を降りる時はいつも圭介さんがエスコートをしてくれていたから。
「今日は疲れたよねー。もう歩かなくていいよー」
それなのに圭介さんはいつもと違って僕をふわりと抱き上げた。
疲れているけれど歩けないほどじゃない
だけど降ろしてと伝えて、歩けると伝えて。
圭介さんが僕の言葉を無視したら?
僕は暴れて逃げる?
圭介さんを突き飛ばして体をひねれば、簡単に落ちる、降りられる。
僕にそれが出来る? 出来るならとっくにやってる。
なんで僕は動かない?
最上階まで向かうエレベーターの中。
玲司君も鈴村さんも何も言わない。
目も合わせてくれない。
小さな箱の中では圭介さんの鼻歌だけが聞こえる。
ゴキゲンに奏でるメロディは第九。歓喜の歌。
真夏に聴く、年末の風物詩。
そのうちドイツ語で歌い出しそうなテンション。
ダダ下がりな僕のテンションに気付いてよ。
腕の中から見上げれば目は合うのに心は通じ合えない。
エレベーターの扉が開いて。一歩踏み出す圭介さんの軽やかな足取り。
先導する玲司君が玄関の鍵を開けた 。
さっきから圭介さんのサポートしかしてない。
ふたりの阿吽の呼吸から僕の知らない歴史を感じる。
彼らはいつから知り合いなんだ?
玲司君は圭介さんのロリータコレクションのことを知っていた。
それぐらい親密な関係。
ロリータ友達だったのかなって深く聞かないまま。
ヤクザとの繋がりを教えられて、変則的な恋人になって。
そこで有耶無耶になってしまった。
僕達はきちんと段階を踏んだ関係の構築をするべきだった。
ところで。
僕、結構真面目に考え事をしてるから。
圭介さんも空気読んでくれない?
キングサイズのベッドの上に恭しく降ろされて。
優しく触れるキスまでは、まあいいよ。
おかえり。ただいまの挨拶的な感じでね。
でも着物の裾から手を入れてくるのはナシかな。
なにヤル気になってるの?
「圭介さん。やめて」
僕は太ももを撫でている圭介さんの手を掴んでやめさせそうとしただけ。
掴んだって言ってもそんなに強くない。
ちょっと待ってほしいぐらいの気持ちで軽く手首を掴んだだけなのに。
圭介さんがそれまでの甘い雰囲気から豹変した。
僕の手を振りほどくと、乱暴に着物の衿を掴んで胸元をはだけさせる。
「やだっ」
そんな力任せに脱がせないで。
薄くて華奢な布地が裂けてしまいそう。
「玲司君助けて!」
開けっ放しの寝室のドアにもたれるように立って僕達を見ていた玲司君に助けを求める。
なんで部屋の中まで入ってきてくれないの?
圭介さんがいつもと違うんだ。助けてよ。
「ワリィ。ムリ。とばっちりがコワイから佐倉がんばれ。まあ。キモチよくなるだけだろうし、いーだろ」
なにも良くない。
理由も分からず怒ってる相手に気持ちよくされたら余計に怖い。
「鈴村さん!」
まだ居るよね?
帰ってないよね?
ドアの向こうにまだ居ると信じて叫ぶ。
「自力でなんとかしろ」
突き放すような声だけが返ってきた。
自力じゃ無理だから頼んでるんだ。
そこにいるなら助けてくれたっていいじゃん。
「圭君の嫉妬深さを体で覚えるといいよ」
鈴村さんに見捨てられた。
玲司君も頼れない。
圭介さんを止められない。
「なんで他の奴と話してるのー? 俺だけを見てよ」
見てるよ。でもこんなんじゃ何も見えていないのと同じだ。
圭介さんを突き飛ばそうとしても。上からしっかり押さえつけられて逃げられない。
「受け入れてよ。いつもみたいに」
いつもって何?
今この状況が普段と同じだと思ってる?
違うよね。
形勢は悪くても絶対に体をゆるすわけにはいかない。
今ここでSEXをしたら大事なものをなくしてしまうから。
圭介さんを大好きな気持ちだけはなくしたくない。
体格差はある。だけど僕を傷付けることはしないと、どこかタカをくくっていた。
だから逃げようとしていても、どこか本気でなくて。
けれども圭介さんは違ったみたい。
乱暴に僕を押さえつけた勢いで着物の袖を破いた。
布の裂ける乾いた音が耳に刺さり。
咄嗟に落ちていたバッグを掴んで振り下ろす。
今度は物のぶつかる鈍い音が耳に届く。
遅れて伝わるのは手のしびれ。
圭介さんの手が緩んだすきをついて距離を取った。
ベッドの隅に膝をついて。祈るように両手を握る。
落ち着け。僕。
目の前には頭を手で押さえて痛みに唸る圭介さん。
大丈夫。圭介さんは生きてる。
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