恋愛サティスファクション

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魔女の子のこった1

今日は博多だ！ 鈴村さんの彼氏さんにご挨拶だ！
早起きして朝ごはんもビュッフェでしっかり食べて長距離移動もばっちこい。
準備万端。あとは鈴村さんの支度が出来るの待つだけですよ。
ってウキウキしてたのに。

鈴村さんはふらっとどこかに行っちゃった。
まあ遠距離恋愛中の恋人に会うんだからおめかししたいよね。
テレビでも見て待ってるよ。

名古屋のご当地情報番組。
市内の動物園で行われた動物ふれあいイベントのニュース。
ゴマフアザラシにエサの魚を食べさせられるイベントだって。
いいな。僕もアザラシにご飯あげてみたい。
もちもちしててかわいいなー。

落ち着いたら動物園デートをしようよってテレビの画面を写真に撮ってinstagramに投稿。
ライオンもいるよって書いておいたらウサギはいるのかって玲司君からリプが返ってきた。
ウサギ？ ウサギもいるよ。メキシコのウサギだって。
公式ブログで見つけたウサギの写真をぺたり。#かわいいー

文字だけでの会話。思ったよりも悪くない。
自分のペースで返せるのがいいんだ。
普段の会話だと玲司君の声とか手とか。言葉以外の別の部分に翻弄されちゃうので。
純粋なお話って実はあんまりしてなかったかも。

玲司君とのおしゃべりを楽しんでいたらチャイムの音。
鈴村さんが帰ってきたのかな？ 鍵を持っていくの忘れちゃった？
はいはーいってドアを開けたら。

「おはようございます。楓和装店着付け出張サービスです」

まさかの楓さん！ お久しぶりです。
今日も素敵なお着物姿。
白地の着物に濃紺の帯で爽やかな装い。

「おはようございます。どうしたんですか？ 鈴村さんは今出かけてて。とりあえず中にどうぞ。荷物お持ちします」

荷物は僕が持ちます。
長方形で平たい風呂敷の包みとキャリーケース。着付けサービスの道具ですか？
今から博多に行くのに？

不思議だなぁって思いながら楓さんをリビングに通す。
大きな風呂敷包みはテーブルに置いた。
重たいキャリーケースは床に立てた状態で止める。

外は暑かったよね？
冷たいお茶をどうぞ。お菓子もあるよ。
鈴村さんがいない分も僕が楓さんを歓迎します。

「今日は県体育館に行くんやろ。楽しみやねぇ」
「今日は博多に行くんですよ？ だって鈴村さんが柏崎さんに会わせてくれるって言ってました」

帯が潰れないようにソファに浅く腰掛けた楓さんが顎に手を当てて、あらまあって困ってる。
あれ？ また僕は何か勘違いをしてる？

「鈴ちゃんは言葉が足りてないし、サクラちゃんも早とちりし過ぎやわ。物事を決めつけんように、一度立ち止まって考えるとええよ」

優しくたしなめられた。
衝動的に行動するのは良くないってこの数日間でいっぱい学んだはずなのに。
またやっちゃった。

「人の行動はすぐには変わらん。でもね、意識して変わろうとしたら変われる。間違いに気付けたサクラちゃんはまだ若いんやから大丈夫」

本当？ 僕は変われるのかな。
自信がないよ。

「今日からはじめて1ヶ月後、1年後。自分の歩いてきた道を振り返って。直したいところに気付けたら、その都度訂正する。毎日を地層みたいに積み重ねて、なりたい自分になっていけば良いんよ」

前だけ見てても駄目なんだ。
ときには自分を顧みる必要がある。
楓さんは今の僕が欲しかった言葉をくれるから、すごくすんなり入ってくる。

「ほらちょうどテレビでもやっとるわ。今日はお相撲を見に行くんよ」

つけっぱなしにしてたテレビはほのぼの動物ニュースからスポーツコーナーになっていた。
県体育館で行われている大相撲名古屋場所についてのニュースが流れる。

「鈴ちゃんはね、面会許可が降りないから柏崎には会えない。でも刑務所の中でもテレビは見られるから。お相撲が放送されるとき、観客席におる鈴ちゃんの姿を画面越しに見てもらうことは出来るの」
「なんで鈴村さんは面会できないんですか？ お義父さんは何度も面会してるってニュース記事を読みました」

ネットの記事だけど。書いている人がヤクザに詳しいライターさんみたいでいくつも特集記事を書いてる人だから信頼できるニュースだと思う。

「保さんは出所後の生活支援についての相談で会っているんやと思うわ。でもね鈴ちゃんは家族でも支援者でもないし。厳密に言うと被害者なんよ」

被害者？