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すれ違い三叉路12

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「もうさ。玲司は唯の中でひとつの特別な存在なんだよ。それは認めなー」
「そう、なんでしょうか」
「俺もめっちゃ悔しいけど、それは事実だから。唯はちゃんと玲司と向き合うべき」
「なんでそんなに余裕なんですか? 僕が玲司君に惚れちゃっても良いんですか?」
「余裕なんてないよ。今だって本当は玲司に会うなって言いたい」
「じゃあ、なんで言ってくれないんですか? 圭介さんが会っちゃ駄目って言うなら、僕は玲司君に会わないです」
「それが駄目なんだよー。唯の行動を俺の言葉で縛っちゃ駄目なんだ。それって唯の本心を誤魔化してるだけだから。一生誤魔化し続けるなんて無理だからね。いつか破綻する」

僕にも分からない僕の気持ちが、なんで圭介さんには分かるんだろう。
確かに僕は自分で考えて決めるのが苦手だ。
圭介さんが決めてくれるなら、その中に囲われるのも悪くないなって思っちゃう。

「唯だって自分で言ってるじゃん。惚れちゃっても良いのかって。それって惚れる可能性があるって意味だろ」

可能性の話で、ここまでになるの?

「僕が玲司君の恋人になっても良いんですか?」
「そうならないために俺は唯を一度手放す」
「意味分かんないです。手を離さないでください。お願いだから」
「唯が会いたくなったら、いつでも会いに行くから。電話だってこれまで通り、毎朝かける。俺も唯の声聞きたいから、毎日続ける」

じゃあ、僕を突き放さないで。
それは別れの言葉だ。

「俺はこれからも唯の彼氏だよ。玲司はまだ友達。唯は俺以外の友達とも遊んで、俺がいかに男前か知るべき」
「圭介さんが男前のイケメンだって、僕はもう十二分に知ってますよ。これ以上は必要ないです」
「必要だよー。ねえ。唯。俺の我が儘で困らせてごめんね。でもこれだけは約束する。俺の腕の中は唯専用だから。会いたくなったら呼んで。すぐに飛んで行って抱き締めてあげる」
「本当ですか? 絶対ですよ。僕、圭介さんの恋人でいて良いんですよね?」
「唯は俺の大事な恋人だよ。愛してる」
「僕も圭介さんのことが大好きです。だから、圭介さんが安心できるように世界を広げて帰ってくるから。待っててください」
「うん待ってる」

僕が玲司君と遊んで、それで圭介さんが安心できるなら。
たくさん遊んで、それでもちゃんと圭介さんのことが大好きなんだって分かってもらおう。

そうだ。あの事についても話さないと。

「この前、玲司君とクラブでご飯食べたときに。圭介さんはあのクラブのオーナーさんだって聞いたんですけど」
「俺、公務員だから副業禁止だよー」
「でも色々やってるって」

玲司君が言ってた。
嘘ついてる感じでもなかった。

「ちなみに、副業禁止って言うけど。例えば株とかで資産運用するのはアリ。個人所有のマンションを貸して家賃収入を得るのもアリ。作家にだってなれるよー。うちの役所の土木課の人は絵本作家だし。ほとんど趣味みたいなものだとは言ってたけど」

絵本作家さんとかすごい。

「さて問題です。そんな公務員の俺があのクラブの“実質的なオーナー”になる方法は?」

えっ? いまクイズ?
ちょっと待って。公務員でも許されている副業。

「もしかして、あのビルが圭介さんの物だなんて言わないですよね?」

だって坪単価いくらだよって聞くのも怖い都会の繁華街のビルだよ。
そんなの持ってるとか。働かなくても食べていけるじゃん。

「うん。あのビルは俺個人の名義じゃないよ。さすがに高額過ぎて個人で持つのはキツくてさー。適当なアパートとかなら良いんだけど、大き過ぎる建物は申請が面倒で管理は人に任せてる。報酬はいつ行っても美味しいご飯が食べられること。唯も食べたでしょ?あそこ美味しくない?」
「美味しかったです。すごく」

夜中にひつまぶしが出てきた理由がちょっと分かった気がする。
あれは賃貸料金の代わりなんだ。
だから店長さんは僕に優しくしてくれたんだね。
圭介さんの恋人だからって。
あれ? それなら玲司君は?
一緒に当たり前のように食べてたけど。

「これからも玲司と一緒にご飯食べに行くといいよー。俺しばらく忙しくて行けないから俺の分も食べてきて」
「圭介さんの分も玲司君と」

それで良いのかな。
僕にとって都合が良すぎる気がする。

「今話せるのはこれぐらいかな。俺のこと全部知りたいならいつでも聞いて。でもね、聞いたら最後。俺は唯のことを絶対に逃がさないから。その覚悟が出来たら戻っておいで」

圭介さんの全部。
聞いたら引き返せないっていうのは、きっと脅しじゃない。

それを聞くのは僕が圭介さんと玲司君のどちらを選ぶのかちゃんと決めてから。
きちんと圭介さんを選んだとき聞かせてもらおう。怖いけど。

今すぐ聞かせてと言えない僕はすごく最低だ。
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