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恋愛サティスファクション
ハローGW9
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電話は圭介さんから。
ちょっと遅めの昼休みって時間だから職場からかけているのだろう。
出るべきか迷っていたら、鈴村さんに「電話の相手を待たせてはいけないよ」って言われた。
待たせてるつもりはないけど。
ちょっと緊張するんだ。
きっと圭介さんは今から僕が行く場所のことを知った上で電話をくれたから。
深呼吸をひとつ。
緑色の着信アイコンを指ではじく。
「もしも……」
「唯、今どこにいる?」
くいぎみに圭介さんが聞いてきた。
すごく焦ってる。そして怒ってる。
そんなピリピリとした声が耳に刺さる。
「玲司君の車で」
「すぐ降りるんだ」
「無理です。だって高速だし」
「なら、一番近いサービスエリアで待ってて。迎えに行く 」
「迎えって。圭介さん仕事中ですよね」
「そんなものどうとでもなる。それよりも高速って、どの辺りを走っているんだ? 玲司に言って、すぐに最寄りのサービスエリアに入ってもらえ」
「えっ、えっと……」
今どこにいるかなんて急に聞かないで。
道は玲司君が知ってるみたいだから、僕は助手席に座っているけどナビなんてしていない。
さっき青看板はあったけど何て書いてあったっけ?
「唯、返事は?」
「はいっ。ごめんなさいっ」
「謝ってほしいんじゃない。なんで花見会なんかに行くの?」
「ごめっ……」
謝るんじゃなくて説明をするべきなのに言葉に詰まる。
花見会に行く理由を聞かれても。
行き先も知らず、玲司君に誘われるまま、車に乗ったとしか言えない。
でも、それを言ったら圭介さんはもっと怒りそう。
僕と圭介さんの間に無音の時間。
その空白を切り裂くように、スッと後ろから鈴村さんの手が伸びてきて、話し途中のスマホが取り上げられた。
「やあやあ勤労青年よ。お疲れ様。ご機嫌はいかがかな?」
飄々とした鈴村さんにスマホの向こうで圭介さんがすっごく怒ってる。
それを「うむ」と笑顔で相槌をうち聞き流す鈴村さん。
一通り、圭介さんの言い分を聞いて。
「行き先を花見会だと伝えずに車に乗せたのは玲司だ。肉を食べに行くとだけ伝えて誘ったそうだよ。君から玲司との遊びを推奨されていたサクラにその誘いを断れというのも酷ではないかね」
鈴村さんは僕の代わりに、どうしてこうなった? な状況を説明する。
落ち着いた鈴村さんの言葉を圭介さんも聞いてくれてるみたい。
「そして花見会が鞘間組の“お集まり”だと伝えたのは私だ。黙ったまま会場に放り出すのも可哀想じゃないか。初顔見せなのだから粗相のないようにフォローするのが先輩の役目かと思ったのだよ」
顔見せ。僕は今日、ヤクザの皆さんに紹介されるってことか。
実感わかないなあ。
「とにかくサクラに怒鳴り散らすのは筋違いだろう。君の不手際が起こした結果だ。反省もかねて午後もしっかり定時まで働きたまえ。仮病で早退などしたら“メッ”だからね」
何回聞いても怖くない“メッ”だなあ。
「それでは自分がするべきことは分かったかい?……違うだろう。働くことも大事だがね。一方的に怒りをぶつけたことに正当性はないのだ。サクラに謝るべきだろう。ごめんなさいって言えるね?……うんうん。私は頑張る君を応援しているから。ではサクラに電話を返すよ。」
ここで僕ですか!?
僕は気にしなくて良いです。
このタイミングでスマホ返さないで。
いや、受け取りますけど。
僕の動揺した息遣い、スマホの向こうに伝わらないでっ。
ちょっと遅めの昼休みって時間だから職場からかけているのだろう。
出るべきか迷っていたら、鈴村さんに「電話の相手を待たせてはいけないよ」って言われた。
待たせてるつもりはないけど。
ちょっと緊張するんだ。
きっと圭介さんは今から僕が行く場所のことを知った上で電話をくれたから。
深呼吸をひとつ。
緑色の着信アイコンを指ではじく。
「もしも……」
「唯、今どこにいる?」
くいぎみに圭介さんが聞いてきた。
すごく焦ってる。そして怒ってる。
そんなピリピリとした声が耳に刺さる。
「玲司君の車で」
「すぐ降りるんだ」
「無理です。だって高速だし」
「なら、一番近いサービスエリアで待ってて。迎えに行く 」
「迎えって。圭介さん仕事中ですよね」
「そんなものどうとでもなる。それよりも高速って、どの辺りを走っているんだ? 玲司に言って、すぐに最寄りのサービスエリアに入ってもらえ」
「えっ、えっと……」
今どこにいるかなんて急に聞かないで。
道は玲司君が知ってるみたいだから、僕は助手席に座っているけどナビなんてしていない。
さっき青看板はあったけど何て書いてあったっけ?
「唯、返事は?」
「はいっ。ごめんなさいっ」
「謝ってほしいんじゃない。なんで花見会なんかに行くの?」
「ごめっ……」
謝るんじゃなくて説明をするべきなのに言葉に詰まる。
花見会に行く理由を聞かれても。
行き先も知らず、玲司君に誘われるまま、車に乗ったとしか言えない。
でも、それを言ったら圭介さんはもっと怒りそう。
僕と圭介さんの間に無音の時間。
その空白を切り裂くように、スッと後ろから鈴村さんの手が伸びてきて、話し途中のスマホが取り上げられた。
「やあやあ勤労青年よ。お疲れ様。ご機嫌はいかがかな?」
飄々とした鈴村さんにスマホの向こうで圭介さんがすっごく怒ってる。
それを「うむ」と笑顔で相槌をうち聞き流す鈴村さん。
一通り、圭介さんの言い分を聞いて。
「行き先を花見会だと伝えずに車に乗せたのは玲司だ。肉を食べに行くとだけ伝えて誘ったそうだよ。君から玲司との遊びを推奨されていたサクラにその誘いを断れというのも酷ではないかね」
鈴村さんは僕の代わりに、どうしてこうなった? な状況を説明する。
落ち着いた鈴村さんの言葉を圭介さんも聞いてくれてるみたい。
「そして花見会が鞘間組の“お集まり”だと伝えたのは私だ。黙ったまま会場に放り出すのも可哀想じゃないか。初顔見せなのだから粗相のないようにフォローするのが先輩の役目かと思ったのだよ」
顔見せ。僕は今日、ヤクザの皆さんに紹介されるってことか。
実感わかないなあ。
「とにかくサクラに怒鳴り散らすのは筋違いだろう。君の不手際が起こした結果だ。反省もかねて午後もしっかり定時まで働きたまえ。仮病で早退などしたら“メッ”だからね」
何回聞いても怖くない“メッ”だなあ。
「それでは自分がするべきことは分かったかい?……違うだろう。働くことも大事だがね。一方的に怒りをぶつけたことに正当性はないのだ。サクラに謝るべきだろう。ごめんなさいって言えるね?……うんうん。私は頑張る君を応援しているから。ではサクラに電話を返すよ。」
ここで僕ですか!?
僕は気にしなくて良いです。
このタイミングでスマホ返さないで。
いや、受け取りますけど。
僕の動揺した息遣い、スマホの向こうに伝わらないでっ。
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