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4章
死戦期呼吸
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「ああ、お兄ちゃん頑張るよ。」
前までとは打って変って六花はそう目を逸らさずに言った。
嘘だ!とヒステリックに叫んで、逃げるのではなく。
しかし、結果としては何ら変わらない。
彼はただ突きつけられた理不尽とも取れる、しかして極めて当然の惨状を前にただ茫然と突き立つだけなのである。
「ふざけるなッ!」
「よくも……よくも麻友ちゃんを殺しやがって!」
激情を顕に、凛奈はそう叫ぶ。
彼女の脳裏にはあの、角に消えて行った女性の顔が浮かんでいたのだろう。
彼女はその激情をぶつけるべく間合いを伺っている。
「相手は格上だ。作戦を練ろう」
不思議な程冷静に、しかし激情を実行する為の言葉を吐いたのは意外にも六花だった。
「何よ……」
その全身に逆鱗を剥き出した様に気性の荒くなっている凛奈はそう彼の素っ気ない態度につってかかろうとしたのだが、その言葉は結局彼女の喉に押し込められて遂には口に出ることが無かった。
一番の被害者は六花なのである。
量と質はどちらも甲乙付けがたいだろう。
確かに二階堂凛奈と深雪麻友の二人の二日間の交流は決して密度の薄い物ではないだろう。
少なくとも凛奈にとっては。
しかし、彼女が産まれてから以来面倒を見ていた六花にはとても敵うまい。
「俺が先ず斬り込む。それを君は援護して欲しい」
戦略、そう言うのには余りにも拙いソレは六花の口から放たれた。
彼の唇は微かに震えていた。
「分かったわ。グレートヒェンさんの為にも頑張りましょう」
深雪麻友。
「ああ。君にそう言って貰えると助かる。」
そして二つの光は大きな一つの光に向かって飛躍して行った。
***
「やれやれ、滅茶苦茶だ。」
自身の夥しい手術痕に対してか、それとも現状についてか男はそう悪態をついた。
ガラス窓が数枚割れている程度の被害ではあるが、それは先程彼が死体を掃除した為であり、実態は殺人現場に他ならなかった。
殺陣、そう言った方が良いのかもしれないが…
「もう今日でこの屋敷ともおさらばか」
男はそのまま足を早めて今いた3階から1階の玄関のドアへと手を掛けてそう言った。
扉に添えられた彼の手はその少年の様な瑞々しいさを残した顔に似合わず、ゴツゴツと角ばっており老人のモノの様であった。
「だが、それで良い。全てのマナは……魂は私と一つに」
先ずは神の尖兵を打ち砕く為。
男は外に出て袋を暫くの間見つめる。
「私が導いてみせますぞ……メシアよ。サタンが復活した____時が来た。世界の終焉の時が____俺が裁きを……」
詠唱する様に彼はそう言って金貨を操る。
金貨は銀に、銅から泥へと次第に変貌して行く。
「そ、そんな……」
男を取り囲み締め付ける、絞め殺そうとする。
「ああ、私が愛を……」
金貨だった物に呑み込まれる男の瞳には、空に高々と掲げられた十字架の影がただ写っていた。
彼がかつて掲げさせた十字架が。
「いらっしゃい。さあさあ店仕舞いとしましょう!」
嫌に艶っぽい声が響く。春におあつらえ向きな柳の葉が、揺れていた。
***
「これでも喰らえッ!」
血気盛んに青年はそう言って刀を振るう。
けれども中々刃は届かない。それもその筈だ。なにせ彼が対峙しているのは槍使いなのだから。
刀よりも間合いの長い槍にその刃が届かない。
それに相手の膂力は彼のソレを圧倒的に凌駕していた。
「クソッ」
なんとかその刀身を捉えて弾こうとするも逆に弾かれてしまう。
ただ彼のみが傷を負っていた。それも切り傷などではなく、惨たらしいモノを。
首が飛んだ時よりも再生が追いつかない。
彼の治癒力を持ってしても届かない。
相手の治癒力は、暴力へと変換されていた。
「腹の一つ、くれてやラァ」
突き刺さる。鮮血が空に走る。
「腹を割って話そうぜ。」
光を放つ二つの瞳が、交差した。
前までとは打って変って六花はそう目を逸らさずに言った。
嘘だ!とヒステリックに叫んで、逃げるのではなく。
しかし、結果としては何ら変わらない。
彼はただ突きつけられた理不尽とも取れる、しかして極めて当然の惨状を前にただ茫然と突き立つだけなのである。
「ふざけるなッ!」
「よくも……よくも麻友ちゃんを殺しやがって!」
激情を顕に、凛奈はそう叫ぶ。
彼女の脳裏にはあの、角に消えて行った女性の顔が浮かんでいたのだろう。
彼女はその激情をぶつけるべく間合いを伺っている。
「相手は格上だ。作戦を練ろう」
不思議な程冷静に、しかし激情を実行する為の言葉を吐いたのは意外にも六花だった。
「何よ……」
その全身に逆鱗を剥き出した様に気性の荒くなっている凛奈はそう彼の素っ気ない態度につってかかろうとしたのだが、その言葉は結局彼女の喉に押し込められて遂には口に出ることが無かった。
一番の被害者は六花なのである。
量と質はどちらも甲乙付けがたいだろう。
確かに二階堂凛奈と深雪麻友の二人の二日間の交流は決して密度の薄い物ではないだろう。
少なくとも凛奈にとっては。
しかし、彼女が産まれてから以来面倒を見ていた六花にはとても敵うまい。
「俺が先ず斬り込む。それを君は援護して欲しい」
戦略、そう言うのには余りにも拙いソレは六花の口から放たれた。
彼の唇は微かに震えていた。
「分かったわ。グレートヒェンさんの為にも頑張りましょう」
深雪麻友。
「ああ。君にそう言って貰えると助かる。」
そして二つの光は大きな一つの光に向かって飛躍して行った。
***
「やれやれ、滅茶苦茶だ。」
自身の夥しい手術痕に対してか、それとも現状についてか男はそう悪態をついた。
ガラス窓が数枚割れている程度の被害ではあるが、それは先程彼が死体を掃除した為であり、実態は殺人現場に他ならなかった。
殺陣、そう言った方が良いのかもしれないが…
「もう今日でこの屋敷ともおさらばか」
男はそのまま足を早めて今いた3階から1階の玄関のドアへと手を掛けてそう言った。
扉に添えられた彼の手はその少年の様な瑞々しいさを残した顔に似合わず、ゴツゴツと角ばっており老人のモノの様であった。
「だが、それで良い。全てのマナは……魂は私と一つに」
先ずは神の尖兵を打ち砕く為。
男は外に出て袋を暫くの間見つめる。
「私が導いてみせますぞ……メシアよ。サタンが復活した____時が来た。世界の終焉の時が____俺が裁きを……」
詠唱する様に彼はそう言って金貨を操る。
金貨は銀に、銅から泥へと次第に変貌して行く。
「そ、そんな……」
男を取り囲み締め付ける、絞め殺そうとする。
「ああ、私が愛を……」
金貨だった物に呑み込まれる男の瞳には、空に高々と掲げられた十字架の影がただ写っていた。
彼がかつて掲げさせた十字架が。
「いらっしゃい。さあさあ店仕舞いとしましょう!」
嫌に艶っぽい声が響く。春におあつらえ向きな柳の葉が、揺れていた。
***
「これでも喰らえッ!」
血気盛んに青年はそう言って刀を振るう。
けれども中々刃は届かない。それもその筈だ。なにせ彼が対峙しているのは槍使いなのだから。
刀よりも間合いの長い槍にその刃が届かない。
それに相手の膂力は彼のソレを圧倒的に凌駕していた。
「クソッ」
なんとかその刀身を捉えて弾こうとするも逆に弾かれてしまう。
ただ彼のみが傷を負っていた。それも切り傷などではなく、惨たらしいモノを。
首が飛んだ時よりも再生が追いつかない。
彼の治癒力を持ってしても届かない。
相手の治癒力は、暴力へと変換されていた。
「腹の一つ、くれてやラァ」
突き刺さる。鮮血が空に走る。
「腹を割って話そうぜ。」
光を放つ二つの瞳が、交差した。
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