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4章
ヒト
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「どうやら機が熟した様ですね」
暗い廊下。いつもと違うのはその異臭だけだ。
地面に這いつくばる様にしているこの男、否果たして少年は寝巻きにその身を包んでいた。
「ああ、ヒトの憤怒がサタンを召喚する。我々の……我々の念願が遂に成就するのだ」
「人類の夢。永遠の命の独占が」そうほくそ笑みながら、矢張り老人もその成金趣味な着物を自身の血で朱に染めてそう言った。
「でも、なんで独占するんですか?」と寝巻き。
「お前にはまだ説明していなかったかな?」
「我々は総合思念体___或る一つの事象を無限にまで拡張出来る存在だ」
意識の共有。今食べている米の味の共有。
「だが、ソレはあくまで認識の共有に過ぎない。記憶は共有出来ないのだよ」
ましてや思想はね。
「認識と……記憶?」
「そうだ。人間ってのはまず目で見てその後に脳に記憶として保管するだろう?」
「君はすっかりそのまま抜け落ちてしまっているらしい」
見てはいるがその瞬間に忘れてしまう。故人の相貌の様だ。
「人間ってのは皆、その起源を辿ると一人の女性に帰着する。」
アダムとイブ。
「我々は皆共有しているのだよ」
その細胞を。
「故に私は断ち切らねばならないと感じた。人間を超える為に」
「その結果が独占、ね。」
全ては復讐の為。師である彼を裏切らせた神に復讐するため。
「成る程、納得出来たよ。ありがとうオリジナルさん」
寝巻きはそのまま眠そうに瞼を数回瞬きする。次第にその動きは怠慢になり、遂に動かなくなった。
しかし、もう片方の老人は見る見る内に息を吹き返して行く。若返って行く。
そこにはただ、銭袋を提げたイスカリオテのユダの姿があった。
「さあ、始めようか」
彼はそう言ってやおら立ち上がる。
袋が紐解かれて中から古く錆びた銭の山がこぼれ落ちる。
そして包み込む様にして彼を起き上がらせる。
「矢張り分身は全員殺されてしまったか……」
辺りの惨状を見て彼はそう落胆する。辺りには大小様々な男達の死体が転がっていた。
「初期が懐かしいなぁ。人体精製ってのは男女一対でしか成立しなかったからな」
あれだけコピーがいれば何も山本を一人処刑しただけでよもや気付かれまい。
入れ替わったとしても彼女達は。グレートヒェンは。
「片方が死ねばもう片方も道ずれだからな……そんなの完璧とは言えない」
深雪六花が殺した山本晶。ベルフェゴールが殺したのはユダだった。
それは一体どのユダだろうか?彼は彼の最愛の女性を殺したのだろうか?その手で、彼等は。
「ああ、面倒臭いなぁ」
辺りの男達の山はとても彼一人の力では持ち上げる事は出来そうに無い。
銭袋からカジノの様に大量の金貨が吐き出される。
ソレは男の足元を台風の目に辺り一帯を波の様に畝る。
次第に部屋の隅の方に固まり出す。
美しかった金貨は、ヒトが求めるソレは醜い泥の塊へとその姿を変えていた。
「うん。これで大分片付いたな」
廊下には再び静寂の反芻が訪れた。
元々はヒトが八人いたのだけれども。
彼等は彼なのだから。
「悪魔め、ふざけおって!こっちは高い代償を払って貴様等と契約を結んだのに」
焼却と冷却。
焼却は周囲のマナを消し去り悪魔の無力化を。
冷却はマナを凝固させその安定を。
「あいつ等揃いも揃ってこの万魔殿から逃げ出しおって」
裁くのは魔王だから。
「まあ、どの道全員処分するつもりだったのだがな」
そう悪態を吐く男の体は生々しい手術痕でびっしりと埋められていた。
暗い廊下。いつもと違うのはその異臭だけだ。
地面に這いつくばる様にしているこの男、否果たして少年は寝巻きにその身を包んでいた。
「ああ、ヒトの憤怒がサタンを召喚する。我々の……我々の念願が遂に成就するのだ」
「人類の夢。永遠の命の独占が」そうほくそ笑みながら、矢張り老人もその成金趣味な着物を自身の血で朱に染めてそう言った。
「でも、なんで独占するんですか?」と寝巻き。
「お前にはまだ説明していなかったかな?」
「我々は総合思念体___或る一つの事象を無限にまで拡張出来る存在だ」
意識の共有。今食べている米の味の共有。
「だが、ソレはあくまで認識の共有に過ぎない。記憶は共有出来ないのだよ」
ましてや思想はね。
「認識と……記憶?」
「そうだ。人間ってのはまず目で見てその後に脳に記憶として保管するだろう?」
「君はすっかりそのまま抜け落ちてしまっているらしい」
見てはいるがその瞬間に忘れてしまう。故人の相貌の様だ。
「人間ってのは皆、その起源を辿ると一人の女性に帰着する。」
アダムとイブ。
「我々は皆共有しているのだよ」
その細胞を。
「故に私は断ち切らねばならないと感じた。人間を超える為に」
「その結果が独占、ね。」
全ては復讐の為。師である彼を裏切らせた神に復讐するため。
「成る程、納得出来たよ。ありがとうオリジナルさん」
寝巻きはそのまま眠そうに瞼を数回瞬きする。次第にその動きは怠慢になり、遂に動かなくなった。
しかし、もう片方の老人は見る見る内に息を吹き返して行く。若返って行く。
そこにはただ、銭袋を提げたイスカリオテのユダの姿があった。
「さあ、始めようか」
彼はそう言ってやおら立ち上がる。
袋が紐解かれて中から古く錆びた銭の山がこぼれ落ちる。
そして包み込む様にして彼を起き上がらせる。
「矢張り分身は全員殺されてしまったか……」
辺りの惨状を見て彼はそう落胆する。辺りには大小様々な男達の死体が転がっていた。
「初期が懐かしいなぁ。人体精製ってのは男女一対でしか成立しなかったからな」
あれだけコピーがいれば何も山本を一人処刑しただけでよもや気付かれまい。
入れ替わったとしても彼女達は。グレートヒェンは。
「片方が死ねばもう片方も道ずれだからな……そんなの完璧とは言えない」
深雪六花が殺した山本晶。ベルフェゴールが殺したのはユダだった。
それは一体どのユダだろうか?彼は彼の最愛の女性を殺したのだろうか?その手で、彼等は。
「ああ、面倒臭いなぁ」
辺りの男達の山はとても彼一人の力では持ち上げる事は出来そうに無い。
銭袋からカジノの様に大量の金貨が吐き出される。
ソレは男の足元を台風の目に辺り一帯を波の様に畝る。
次第に部屋の隅の方に固まり出す。
美しかった金貨は、ヒトが求めるソレは醜い泥の塊へとその姿を変えていた。
「うん。これで大分片付いたな」
廊下には再び静寂の反芻が訪れた。
元々はヒトが八人いたのだけれども。
彼等は彼なのだから。
「悪魔め、ふざけおって!こっちは高い代償を払って貴様等と契約を結んだのに」
焼却と冷却。
焼却は周囲のマナを消し去り悪魔の無力化を。
冷却はマナを凝固させその安定を。
「あいつ等揃いも揃ってこの万魔殿から逃げ出しおって」
裁くのは魔王だから。
「まあ、どの道全員処分するつもりだったのだがな」
そう悪態を吐く男の体は生々しい手術痕でびっしりと埋められていた。
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