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3章

真心

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「アンタ、本当にサタンなの?」

至福の時間は終わりを告げる。時計は天辺にさしかかっていた。

「うむ。いかにも我こそが魔王であるッ!」

「お主の悩みは『傲慢』が何処へ消えた、か。そうじゃな?」

明解に、残酷に無垢の皮を被ったソレはそう言う。

「死んでおるぞ」

「え?」

凛奈はその一言に思わずそう漏らした。

彼女にとって彼は死ぬ様な存在として認識されていないのだ。

「しかし、矢張り守護者というだけある。実際、奴が足留めをしていなかったらうら達はここにはいないかもしれん」

魔王はそう言った。

「……奴って、誰?」

聞きたくない____嫌だ。嫌だ、もう傷付くのは。

「?決まっておるじゃろ?」

「那須太一に」

悪魔は受胎を告知する様にそう告げた。ただ、告げるだけだった。

「私が……私が殺したの」

問いかける様に凛奈はそう言う。

彼を殺した。実際に手を加えてはいない。けれども、彼は凛奈が殺したも同然だった。

「そうだ。お前が殺したんだ」

何度も、反芻される。心を抉る。

「まあ、良いじゃないか……お前はずっと一人だった。今迄も、これからも」

「違うッ!私は一人じゃない」

公園に駆けつけてくれた彼の姿が思い出される。

「いいや、お前は一人だよ。だから人を助けようとする」

罵倒は続く。

「違う。違う違う違う違う違う……」

「いいや、違わない。なんであの時お前は彼を巻き込んだ。なんでお前はせっかく自分を認めてくれた人を手放した」

「傲慢だからだよ、全部。お前が傲慢だからだ……ただ満足すれば良かっただけなのに」

お前はそうしなかった。

「違う……私はただ」

助けたかっただけなんだ。

この両手一杯に。

「それを傲慢って言うんだろ。君はもう後戻り出来ない。君は彼を見殺しにしたから」

受胎告知。

お前____君。

「君はだってそう言ったんだろ?」

約束。

「彼は元々代わりに過ぎなかったんだから、ほら」

助けに行かなくちゃ駄目だろ。

「助けに……?」

銃を持つ手が震える。

「それを武者震いって云うんだよ」

   ***

「契約の更新だ。一時間後に」

彼女はそう言って消えて行った。

契約。彼女を、春野芽生を救う契約。

それが更新されたのだ。

『二階堂凛奈と深雪麻友はサタンが守る。』

『深雪六花はサタンの焔をその代償として使用出来ない』

『サタンはこの二人に危機が迫った場合にのみ深雪麻友の肉体に憑依出来る』

『また、この契約の遵守の為に深雪六花とサタンは接触する事が出来ない』

これらの情報が刹那、六花の脳裏に入りこんで来る。

しかし、これらの条項は全くもって六花には不利益が無かった。

「人間なんだよ。俺も君もな」

六花は元より人間に戻りたかったのだ。

彼女と再会を果たしたあの夢の続きから。

涙を流す彼女がいる。

だって仕方が無いじゃないか……「春野芽生は人間だったんだから」

夢であった彼女はもう死んだのにも関わらず、燃やされて冷たくなったのにも関わらず綺麗だった。輝いていた。

だから、彼はその条件を快く受け入れた。

六花にはただ、痛みが心地良かった。
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