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3章

休養

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「いつまで寝てるの?起きて」

日曜日の朝。穏やかな時間が流れる。

「うにゅ。あと五分だけ……」

決して寝起きの良い方では無いのだけれど、二階堂凛奈は彼女のその囁きに手を焼いていた。

「……じゃあ、五分だけよ」

別段急いでいるわけでも無いのだけれど、凛奈はそう言って深雪麻友の心地良さげな寝顔を見つめる。

役得、目の前に横たわる少女の寝顔は正しく眼福モノであった。

「はい。もう五分経ったわよ」

実際にはまだ一分程しか経っていないのだけれど。凛奈はなんとなく揶揄からかってみたくてそう言って布団を剥がす。

「うにぃー。まだあと五分……」

しかし、必死に布団にしがみ付いて少女はそう言った。

「はは……ちょっと揶揄い過ぎたかしら。悪かったわ。あと五分ね……」

ん?あと五分?凛奈の頭に疑問符が浮かぶ。

「あと四分じゃない!」

そう言って今度は布団の上から麻友の体をくすぐる。

「うにゃーー」

少女の可愛らしい悲鳴が心地良く日曜の朝に響く。

「あと……あと十分」

凛奈の策略は余計に彼女の体力を奪ってしまったのか、その時間は延長していた。

讃に曰く。『策士、策に溺れる』とはこの事を指す。

そんな漢文調のテロップが凛奈の頭にふと浮かんだ。

「ああ~。良いのかな?そのまま寝てるとお姉ちゃんドーナッツ食べちゃうぞ~」

昨晩の案じるより団子汁作戦で得た戦果だがこのうららかに寝息を讃えているロリは甘い物、とくにドーナッツが大好きである事が分かったのである。

「ど、ドーナッツ……だと」

ロリの顔が途端に厳しいモノへと変貌する。

「そうよ。ああ、ポンデリング食べちゃおうかな~」

ちなみに余談だがこのロリポンデリングが好物である事は既に凛奈にリークしていた。

「う、うにゃーーー」

ロリは突如として跳ね上がるとそう叫んだ。

「ふ、布団が吹っ飛んだァ?!」

凛奈は仰け反りそう言った。

「お姉ちゃん、寒いよ」

「ん?どうしたの?ついさっきまで布団に包まっていたじゃない?」

そう言って凛奈はロリを春巻きの様に吹っ飛んだモノ____もとい布団で包む。

「はい、麻友ちゃんあーーん」

「あーーん」

大好物であるポンデリングを目の前に差し出された幼女は盲信的にその小さな口を一杯に開けた。

その瞳には財宝を見つけた海賊の様な、否、ポンデリングと云う指輪を見つけた女海賊____海賊船捕虜となった哀れなロリの姿がロリの、そして凛奈には写っていた。

「いやー。至福の一時だわ~~」

凛奈は目を輝かせてそう言う。

「ポンデ……リング……」

ナボコフもびっくりである。きっと裸足で逃げ出すに違いない。

至福と云うより、引くである。

「それで……」

一通りの余暇を経て、凛奈は何か口にするのを躊躇う様にしてそう口籠った。

「?」

少女は尚も貪りながら凛奈をその小さな、顔の割合にしては十二分に大きな輝く様な真っ直ぐな視線で凛奈を見つめ返す。

「……あの話の続きをしましょう。」

ゴクリ___。
少女の獲物を呑み込む音が聞こえる。

「そうじゃな……うらもちょうど貴様と話をしたいと考えておったからのう」

獲物を見つめるかの様に、彼女を値踏みするかの様に、少女は____魔王はそう言って不敵に嗤っていた。
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