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3章

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意外と重たい。

それが彼女___二階堂凛奈が初めて銃を、凶器を手にした時の感想である。

しかし、今彼女は改めて思った___重たい、と。

それは彼女が初めて人を撃った感想だった。

「それにしても……随分と可愛らしい太陽だな。月の方がしっくり来る。」

眩しくは無い、冷たいね。男は血をその口から僅かに吐き出しながらそう皮肉を込めて吐露した。

「しかし全く君って奴はどこまでも僕を驚かせてくれるね。」

魔王を目端でチラリと捉えて男はそう言う。

「……まあ、そうだよね。君のトドメをさしたのは僕じゃなかったんだしね。」

掌で顔を覆いながら男はそう言う。

「僕とした事が……最後に油断しちまったってわけか。いや実に良い嘘だったよ」

騙されがいがある。悲愴漂い男は一人でに、自分を納得させる様にそう言った。

「詐欺師が騙されてちゃいけないね……」

「何言ってるの?貴方、何か勘違いしているんじゃない?」

毅然と、冷たくどこまでも冷たく二階堂凛奈はそう口を割った。

「貴方はまんまと騙されたのよ……自分自身の嘘にね。」

「……違いない。」

詐欺師は悠然とそう言った。百面相の様に愉快に動かされた彼の四肢からは、踊る様に踊っていた彼の手足からは、百面相の様に悲愴感が漂っていた。

「人間ってのは絶えず騙してる生き物さ。相手を、そして自分を。ただ、自分を騙している事にも、相手を騙している事にも気付いていないだけさ。」

「だって嘘だから。」

男は流れる様に、あらかじめ考えていた常套句の様に、嘘を吐く様に、挨拶を交わす様にそう言った。

「命って文字には口って字が入っているだろう?」

自分に、彼女に言い聞かせる様に、嘘をついて男はそう言う。

「たまたま今日、その嘘が見破られたわけね。」

凛奈はそう言った。

「もう僕は嘘をつく事にも、人を騙す事からの疲れからもそろそろ解放されるみたいだ……そう考えるとそう悪くないかもね。」

実際のところ嫌なのだけれども。男は嘘か本当かわからない声音で、いつもの調子でそう呟いた、うそぶいた。

「随分と抹香臭いわね。」

「嘘って説法も終わりだ。百日の説法も屁一つってね。」

「貴方の嘘はそんなに有難いものじゃないわよ。」

君の嘘もな……、男はそう言った。

「しかし意外だよ……あいつが君に銃を渡すなんてね。」

「那須太一が銃を人に渡すなんて。」

男はそう独り言の様に言った。

「貴方、彼を知ってるの?」

「ああ。まあ、冥土の土産だと思って覚えておけ。」

「それを言うのは逆の立場じゃないッ!それに、紛らわしいフラグを立てるな!!」

生存フラグを立て、男はそう言った。

「何、ただのしがない独身男の戯言さ……最後の戯言だよ。」

「無駄な情報を挟み込むなッ!」

シリアスなのかギャグなのか掴めない男だ、そう凛奈は思った。

しかし、男は無視してこう続ける。

「まあ、知っていると言えば知っているし、知らないと言えば知っている……かもしれないね。」

「……要するに知っているのね。」

抹香臭い、否、胡散臭い男だと凛奈は思った。

「君が決めると良いさ……ただでさえ騙されやすいのだから。」

幽遠と、しかし分別臭く男はそう言う。

「君は自我を超える程の正義を、理屈を、真実を正しいと思うかい?」

辞書に載っている言葉を正しいと信じるかい?男はそう言う。

「?なんの話?真実は正しいに決まっているじゃない」

話にならない、彼、彼女はそう言った。

「そろそろ彼女の事が心配になってきたからこの無駄問答をやめましょう。」

凛奈はそう言って再び銃を軽々と持ち上げた。

「問答無用……馬の耳に念仏かな?」

ニヤニヤ、と男はそう言う。

「君は正しいよ、正当防衛だもんな。早く、ほら。引きなよ、その軽い引き金を。」

戯言さ、男はそう言って微笑んだ。

「さようなら。」

引き金の引かれる音がまたしても反芻した。

「終わったか?」

振りけ見ればなんとやら。

凛奈が後ろを振り向くと、東には美しい、月の光に照らされた、悪魔の様に美しく笑う少女が____そこには、いた。

「話を聞かせて頂戴。」

彼女はそう視線で少女を詰問した。
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