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3章
天
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「霊感変則」
二階堂凛奈はそう呪文の様に何度も唱える。
何度も、何度でも。
「おお、これは驚いた」
僕、それ見覚えがあるよ。男はそう言ってにやにやと下卑た笑みを浮かべる。
無数の銃弾が宙を舞う。
「凄い。まるで田原坂の戦いみたいだね」
悠然と男はそう言う。しかし、いくら男が余裕綽々と構えていても銃弾が消えるわけがなく、
「いや、これはどっちかって言うと長篠の戦いかな」
銃弾が男の目睫に迫る。それも一発ではない。彼女は無数の銃弾を放ったのだ。
岡目八目。
「いや、どれも違うな……そうか!これは赤壁の戦いだな」
ウンウン、一人得心した様に、男はそうやって何度もしきりに頷くのであった。
「?!」
凛奈の詠唱が一瞬止まる。
「孔明の十万矢なんて話があるけど、あれも嘘らしいよ。」
破顔、破綻。男のその歪んだ笑みとともに、世界は破滅した。
無数の銃弾が、彼女の放った無数の矢がコチラに向かって、銃を両手一杯に握った彼女に向かっていたのだ。
「霊感変則ッ」
悠久とも取れる分秒の間暫く停止した後、しかし彼女は咄嗟に次の動作へと移行する。
「……ほう。まさか僕の嘘、戯言を本当の事にするとは……」
田原坂の戦い。
辺り一面に正面からぶつかり、融解した銃弾が散乱していた。
男はその日一番の感心した様な、恐れた様な、楽しむ様な……関心を少女に寄せていた。
「全く君ってヤツは大したモノだよ」
驚いたよ、男はそう言った。
「そのニヤケ面、やっと剥がせたわね」
霊感変則、またしても無数の銃口が男に向けられる。
「長篠の戦い……って言ったかしら。こっちも再現させてあげる。」
「……はは。おいおい、僕のお株を奪うなよ」
笑う顔にも矢立たず、そう言うだろ?男はそう言って下卑た笑みを口元に浮かべる。
「銃弾よ」
「何、物の例えさ。戯言だよ。」
鰐口。口を横に引いて男はそう言う。
「それにもう嘘はついた後だしね……」
長篠の戦い。
無数の銃弾が少女に向かって飛んで行った。
「田原坂にはならないよ」
西郷さんにはここで死んでもらうとするか。男はそう再び、下卑た笑みを顔に浮かべた。
「勿論、戯言だけれど。」
嘘つきは嘘を吐かず、自身の嘘をそう報告した。
かつて第六天魔王が放った無数の、それこそ無体の銃弾が凛奈を襲う。
「霊体変則。」
無数の、無数の銃弾が彼女のその呪文によって彼女に向けられた。彼女自身を呪う呪文によって……
「君は何度も、何度でも僕を驚かせてくれるんだね……」
悪魔でもないくせに。男はそう言って炯々と眼光を光らせる。
眼光炯々として人を射る。眼光ではなく、本物の銃弾でだが。
「……ハァ。全く困ったものだ」
刹那、少女の拳が着弾によって舞上げられた土埃の中から現れる。
土煙を巻き上げて、爆風を伴って、土地を摩せながら。
俯仰之間。
電光朝露。
「儚いねぇ。」
男は静かにそう言った。
「?!」
破顔一徹。毛厘の隙間を残して、凛奈の拳は失速していた。
「……おやおや」
珍しい事もあるものだ。男はそう言って幼女の方を見上げる。
「魔王様が人畜を助けるとは。」
「いつまでも洞ヶ峠を決め込む事も出来ないからね。こっちはお前から見て西だろう。」
蜘蛛の巣をみやり少女はそう言う。
「彼女に死なれでもしたら、それこそ元の木阿弥じゃあないか……」
かつて少女のいた場所からは綺麗な朝日が昇っていた。
西日が冷たく幼女の笑みを照らしていた。
二階堂凛奈はそう呪文の様に何度も唱える。
何度も、何度でも。
「おお、これは驚いた」
僕、それ見覚えがあるよ。男はそう言ってにやにやと下卑た笑みを浮かべる。
無数の銃弾が宙を舞う。
「凄い。まるで田原坂の戦いみたいだね」
悠然と男はそう言う。しかし、いくら男が余裕綽々と構えていても銃弾が消えるわけがなく、
「いや、これはどっちかって言うと長篠の戦いかな」
銃弾が男の目睫に迫る。それも一発ではない。彼女は無数の銃弾を放ったのだ。
岡目八目。
「いや、どれも違うな……そうか!これは赤壁の戦いだな」
ウンウン、一人得心した様に、男はそうやって何度もしきりに頷くのであった。
「?!」
凛奈の詠唱が一瞬止まる。
「孔明の十万矢なんて話があるけど、あれも嘘らしいよ。」
破顔、破綻。男のその歪んだ笑みとともに、世界は破滅した。
無数の銃弾が、彼女の放った無数の矢がコチラに向かって、銃を両手一杯に握った彼女に向かっていたのだ。
「霊感変則ッ」
悠久とも取れる分秒の間暫く停止した後、しかし彼女は咄嗟に次の動作へと移行する。
「……ほう。まさか僕の嘘、戯言を本当の事にするとは……」
田原坂の戦い。
辺り一面に正面からぶつかり、融解した銃弾が散乱していた。
男はその日一番の感心した様な、恐れた様な、楽しむ様な……関心を少女に寄せていた。
「全く君ってヤツは大したモノだよ」
驚いたよ、男はそう言った。
「そのニヤケ面、やっと剥がせたわね」
霊感変則、またしても無数の銃口が男に向けられる。
「長篠の戦い……って言ったかしら。こっちも再現させてあげる。」
「……はは。おいおい、僕のお株を奪うなよ」
笑う顔にも矢立たず、そう言うだろ?男はそう言って下卑た笑みを口元に浮かべる。
「銃弾よ」
「何、物の例えさ。戯言だよ。」
鰐口。口を横に引いて男はそう言う。
「それにもう嘘はついた後だしね……」
長篠の戦い。
無数の銃弾が少女に向かって飛んで行った。
「田原坂にはならないよ」
西郷さんにはここで死んでもらうとするか。男はそう再び、下卑た笑みを顔に浮かべた。
「勿論、戯言だけれど。」
嘘つきは嘘を吐かず、自身の嘘をそう報告した。
かつて第六天魔王が放った無数の、それこそ無体の銃弾が凛奈を襲う。
「霊体変則。」
無数の、無数の銃弾が彼女のその呪文によって彼女に向けられた。彼女自身を呪う呪文によって……
「君は何度も、何度でも僕を驚かせてくれるんだね……」
悪魔でもないくせに。男はそう言って炯々と眼光を光らせる。
眼光炯々として人を射る。眼光ではなく、本物の銃弾でだが。
「……ハァ。全く困ったものだ」
刹那、少女の拳が着弾によって舞上げられた土埃の中から現れる。
土煙を巻き上げて、爆風を伴って、土地を摩せながら。
俯仰之間。
電光朝露。
「儚いねぇ。」
男は静かにそう言った。
「?!」
破顔一徹。毛厘の隙間を残して、凛奈の拳は失速していた。
「……おやおや」
珍しい事もあるものだ。男はそう言って幼女の方を見上げる。
「魔王様が人畜を助けるとは。」
「いつまでも洞ヶ峠を決め込む事も出来ないからね。こっちはお前から見て西だろう。」
蜘蛛の巣をみやり少女はそう言う。
「彼女に死なれでもしたら、それこそ元の木阿弥じゃあないか……」
かつて少女のいた場所からは綺麗な朝日が昇っていた。
西日が冷たく幼女の笑みを照らしていた。
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