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2章
勝った
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「ああ、そうか。」
森に悠然とした六花の声が木霊する。
「何を悠長な事を……」
その飄々として、我が道を行くといった六花の態度にグレートヒェンは呆れたかの様にそう言う。
「いいですか、マナを失ったという事はですね、あなたはもう春野芽生を救い出す事はほぼ不可能になったという事なんですよっ?」
「ああ、ほぼというより不可能だろうな。なにせ今の俺はただの人間でしか無い。死んでしまった人間をただの人間如きが蘇らせる事なんて……そんな奇妙な事ありえる訳無いだろ。」
志怪。
奇怪。
「しかし、あなたはそれで良いのですか?」
今までの彼の言動とは矛盾するその諦めたかの様な彼の発言に耳を疑うかの様にして彼女はそう訊き返す。
「ああ、それで良いんだよ。むしろそうじゃなきゃ駄目なんだよ。」
六花はその顔を安らげそう言った。
「あなたは諦めるのですか?」
彼女‘を迎えに行く、そう言って意気揚々と瞳を輝かせていた彼の姿が思い起こされる。
そう、それまではセミの抜け殻の様に彼女に自身を殺させようとしていた彼が、その事で再び輝きを取り戻したのだ。生きようと彼は思えたのだ。
「ああ、だってしょうがないだろ?」
ボロボロになった六花は低い声でそう言った。
「?!」
六花の頬は打たれていた。
「私は見損ないました。」
そう言って急くように彼女はその場を立ち去ろうとする。
「はは。前にもこんな事あったよな……」
穢らわしいモノでも見るかのように彼女は六花を睨む。
「君って優しいんだね。」
辛抱ならん、そういった感じで彼女は勢い良く六花の方に振り向く。
「貴方に……アナタに私の何が解るというのですかッ?」
息を切らせながら彼女はそう言う。その一挙一動には憤慨した彼女の感情がこもっていた。
「だってそうじゃないか。君は前、自分の事をネジだと言ったよね。でも、君は僕をぶった。それは誰かに命令された事なのかな?」
「いくらアナタがそう言う優しい私でもそろそろ怒りますよ。」
「今だってそうじゃないか。君は怒っている、憤慨している。そして、それは君自身に対する侮辱なんかによるモノじゃあない。決まってソレは他人のためのモノだ。」
自身を人形であると卑下する彼女。その実は心のこもっていない人形としては不完全なモノであった。
「人間なんだよ。君も俺もな。」
崩れ去った研究所を背に、グレートヒェンは涙を流していた。
「お願いが……あります。」
震えた声で彼女はそう言う。
「なんだ?俺に出来る事なら何でも聞いやるよ。」
「兄さんの……兄さんの元に、私を。」
「ああ、分かったよ。」
二人はそうして森へと消えて行った。
***
「改造って……一体どういう事なのよ?」
二階堂凛奈は恐る恐るそう少女に尋ねた。
「そのままその通りの事だよ。私達はもう人間じゃないんだ。」
先程まで小さく震えていた少女はハッキリとそう言った。
「お兄ちゃんはサタンに、私は山本先生にね。」
そう言ってワラウ少女の震えはもう止まっていた。
***
「それじゃあ、さようなら。」
那須太一はその剣を大きく振りかぶる。
ロジャーの首はその瞬間、空に飛んでいた。
「行かせは……しない……。」
背を向けた太一の肩に向かって彼はその首で噛み付いた。
「おいおい、そんなので僕が感動して君のご主人様を見逃すとでも思っているのかい?」
肩から血を滴らせながらも那須太一は気にも止めずにそう言った。
「ああ、もしかして僕の首を嚙み切れるとでも思っていた?」
彼の首が次第に人間のソレから白虎のソレへと変貌して行く。
「まったく君って奴は傲慢だねぇ。」
男はそう言って彼の眉間に刃物を突き刺した。
白虎が暴れ、さらにその首から血が溢れる。
「安心しなよ……すぐに君の大好きなご主人様と再会させてあげるから。」
男はそう言って虎の首を宙に投げ捨て、空を駆けていった。
無残に、残酷に。
森に悠然とした六花の声が木霊する。
「何を悠長な事を……」
その飄々として、我が道を行くといった六花の態度にグレートヒェンは呆れたかの様にそう言う。
「いいですか、マナを失ったという事はですね、あなたはもう春野芽生を救い出す事はほぼ不可能になったという事なんですよっ?」
「ああ、ほぼというより不可能だろうな。なにせ今の俺はただの人間でしか無い。死んでしまった人間をただの人間如きが蘇らせる事なんて……そんな奇妙な事ありえる訳無いだろ。」
志怪。
奇怪。
「しかし、あなたはそれで良いのですか?」
今までの彼の言動とは矛盾するその諦めたかの様な彼の発言に耳を疑うかの様にして彼女はそう訊き返す。
「ああ、それで良いんだよ。むしろそうじゃなきゃ駄目なんだよ。」
六花はその顔を安らげそう言った。
「あなたは諦めるのですか?」
彼女‘を迎えに行く、そう言って意気揚々と瞳を輝かせていた彼の姿が思い起こされる。
そう、それまではセミの抜け殻の様に彼女に自身を殺させようとしていた彼が、その事で再び輝きを取り戻したのだ。生きようと彼は思えたのだ。
「ああ、だってしょうがないだろ?」
ボロボロになった六花は低い声でそう言った。
「?!」
六花の頬は打たれていた。
「私は見損ないました。」
そう言って急くように彼女はその場を立ち去ろうとする。
「はは。前にもこんな事あったよな……」
穢らわしいモノでも見るかのように彼女は六花を睨む。
「君って優しいんだね。」
辛抱ならん、そういった感じで彼女は勢い良く六花の方に振り向く。
「貴方に……アナタに私の何が解るというのですかッ?」
息を切らせながら彼女はそう言う。その一挙一動には憤慨した彼女の感情がこもっていた。
「だってそうじゃないか。君は前、自分の事をネジだと言ったよね。でも、君は僕をぶった。それは誰かに命令された事なのかな?」
「いくらアナタがそう言う優しい私でもそろそろ怒りますよ。」
「今だってそうじゃないか。君は怒っている、憤慨している。そして、それは君自身に対する侮辱なんかによるモノじゃあない。決まってソレは他人のためのモノだ。」
自身を人形であると卑下する彼女。その実は心のこもっていない人形としては不完全なモノであった。
「人間なんだよ。君も俺もな。」
崩れ去った研究所を背に、グレートヒェンは涙を流していた。
「お願いが……あります。」
震えた声で彼女はそう言う。
「なんだ?俺に出来る事なら何でも聞いやるよ。」
「兄さんの……兄さんの元に、私を。」
「ああ、分かったよ。」
二人はそうして森へと消えて行った。
***
「改造って……一体どういう事なのよ?」
二階堂凛奈は恐る恐るそう少女に尋ねた。
「そのままその通りの事だよ。私達はもう人間じゃないんだ。」
先程まで小さく震えていた少女はハッキリとそう言った。
「お兄ちゃんはサタンに、私は山本先生にね。」
そう言ってワラウ少女の震えはもう止まっていた。
***
「それじゃあ、さようなら。」
那須太一はその剣を大きく振りかぶる。
ロジャーの首はその瞬間、空に飛んでいた。
「行かせは……しない……。」
背を向けた太一の肩に向かって彼はその首で噛み付いた。
「おいおい、そんなので僕が感動して君のご主人様を見逃すとでも思っているのかい?」
肩から血を滴らせながらも那須太一は気にも止めずにそう言った。
「ああ、もしかして僕の首を嚙み切れるとでも思っていた?」
彼の首が次第に人間のソレから白虎のソレへと変貌して行く。
「まったく君って奴は傲慢だねぇ。」
男はそう言って彼の眉間に刃物を突き刺した。
白虎が暴れ、さらにその首から血が溢れる。
「安心しなよ……すぐに君の大好きなご主人様と再会させてあげるから。」
男はそう言って虎の首を宙に投げ捨て、空を駆けていった。
無残に、残酷に。
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