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2章

謀反

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「やあ、やっとこうして会う事が出来たね。」

そう言う男の顔は部屋全体の暗闇によって隠されていてこちらからはよく見えない。

「ええ、そうですね。やっと。」

毒の含んだ言い方で高橋美沙はその暗闇の向こう側にいる男にそう言った。

「そう気を立たせないで欲しい。私達はあくまで貴女方とただ取引をしようとしているだけです。」

「取引?アンタ達が私達になんかしてくれるとでも言うのか。」

そう荒々しく高橋は言った。

「まあ、それに関しては今から話すとしよう。ともかく、座りたまえよ。」

気の抜けた返事が闇から返ってくる。

「お前達はそうやっていつも美味しいところだけを持って行きやがって……」

高橋の歯を噛みしめる音が部屋に響く。

「それでは早速、本題に入るとしようじゃないか。」

慇懃な笑みが___闇に浮かんでいた。

   ***

「ふぅ。」

授業終了の鐘が学校に響く。

「おい、バスケしに行こうぜ。」
「でさ~」
「ね~。ね~ってば。」

教室、廊下、学校の全てが歓声に震え上がる。

那須太一は今、学校に来ていた。

といっても、彼は高校生なのだから学校に来る事は至極当然の事であり、ここでわざわざそう説明する必要の無い事だろう。

___そう、彼がであったのならば。
彼、那須太一は正義の味方なのである。

しかし、一慨に正義の味方といってもだからといって学校をサボって良い理由にはなら無い。

彼は学校生活をただ至極平凡に過ごしていた。

スーパーヒーローも事件が無ければただの凡人なのである。

「おい、ちょっと面貸せよ。」

その平穏な正義の味方の学園生活に最近、不穏な影が迫っていた。

そう、クラスの中でイジメが横行していたのである。

気の弱い男子生徒がいた。彼はどうやらカツアゲをされているらしく、最近この様に連れ出される事が度々あった。

___那須太一は席をたった。
それは彼にとっては至極当然な反応であった。

そう、正義の味方にとって弱者を助けるという事は高校生が学校にいくという事になんら変わらぬ事であった。

そのまま彼等は人目の少ない校舎の影へと移動していく。

「おい、ちゃんと一万持って来たか?」

男子生徒は囲まれていた。その要求は決して逆らう事の出来ない絶対的な物であった。

「おい、ちょっと待てよ。」

彼、那須太一はそう言った。

「ああ?なんだテメェ、なんか文句でもあんのか?」

そうドスのきいた声で脅して来る男子生徒A。

「ああ。大いにあるね。」

「なら、テメェが払いやがれェ。」

そう言って殴り掛かって来る男子生徒A。

「ああ、払ってやるさ。お望み通り、一万の拳をな。」

そう言って太一は自身の体に魔力マナを纏わせた。

太一の全身が黒く淡く光出す。

「ほらよ。」

___その瞬間、Aは吹っ飛んでいった。

「なんだ……今の。」

その拳速のあまりの速さに彼を囲んでいた生徒達は蜘蛛の子を散らした様に逃げて行った。

「あ、あの……ありがとう。」

どこか怯えた様子で彼は太一にそう言った。

「ああ、大丈夫だよ。今度からは何かあったら僕に相談してくれよ。僕、こう見えて頼りになると思うからさ。」

そう言って太一は先程彼が殴り飛ばした生徒Aの元へと歩いて行く。

「お前……何者だ。」

「ただの通りすがりの正義の味方さ。」

そう言って太一は不敵に微笑む。

「じゃあ、約束通り一万、払うね。」

___太一はその腕を振りかぶり、男子生徒Aに対してその腕を振り下ろした。

その拳には魔力マナこそこもっていなかったが、十分に彼を痛めつける事にはそれ以上無い程に適していた。

「や、やめ……」

何度も、何度も太一はその拳を振り下ろした。

「ちょっと待ってよ。」

そう言って先程、彼からカツアゲされていた彼が太一の拳を握っていた。

「何で止めるんだ?」

不思議そうに太一は彼にそう尋ねた。

「何でって……死んじゃうだろっ。」

彼は勇気を振り絞ってそう言った。

「君もそんな顔できるんだね。」

驚いたかの様に太一はその拳を収めてそう言った。

「うん、じゃあ後は君が決めると良い。きっとその優しさと勇気があれば大丈夫だろう。」

そう言った太一は颯爽とその場から立ち去った。

___逃げて行った生徒に一万を払う為に。

「何でそんな事をしたんだ?」

生徒面談室で那須太一は彼の担任の教師と向かい合っていた。

それもその筈である。なにせ太一は自身の教室にいた彼等を見るや否や人目も憚らず彼等に殴り掛かったのであるから。

そこに丁度教員が居合わせた甲斐あってか幸いな事に死人が出なかったが。

「ただ僕は許せなかっただけですよ。」

そう言って太一は目の前にいる教師を諭す様にじっと見つめた。

「だってイジメは決して許される事では無いでしょう。」

「ああ、そうです。その通りですともっ!」

そこにはただ、太一と彼の傀儡がいるだけであった。

「やあ。」

「今日は随分遅かったじゃないの。」

那須太一は二階堂凛奈と会う為に十六夜高校の校門にいた。

「いや、少し厄介事があってね。」

そう言って二人は廃工場へと歩いて行った。

「じゃあ、また明日ね。」

今日は主に凛奈と魔力マナの使い方について訓練を行った。

「ところで、まだ六花を救出しに行かないの?」

凛奈が焦った様にそう言った。

「ああ、あと少しで準備が完成するから。」

そう言って太一は彼女と別れた。

「ヒィ……」

那須太一はその夜から自身で事件の解決を行う様にしていった。

それはリスクの伴う事であるが、太一のその正義の心を満たす為にはそれしか無かった。

「?!」

太一の身体を戦慄が駆け巡った。

___そこには、かつて彼の母親を殺した人間がいた。

太一は彼のあとを尾けていった。

そして彼が人目が少ない路地裏に入って行った時、

「おい。」

太一は彼に声を掛けていた。その声はゾッとするほど冷たい調子であった。

「ん?なんだ、テメェ?」

酔っ払った顔を持ちあげて彼は太一を見上げた。

「お前……覚えていないのか?」

何かが太一の中を駆け巡る。

「ああ?」

___太一はその男に対して乗りかかり、何度も、何度も拳を下ろした。

堪らなく悔しかった、赦せなかった。

その男は彼の母親を奪ったのにも関わらずのうのうと生きている事が。

太一はその拳を振り上げる。その男を殺す為に。

彼が男子生徒にその拳を振り下ろした事、そしてその事を肯定させる為に彼の担任を操作した事、この目の前の男を死ぬまで、死んでも殴る事は太一にとっては同じ事であった。

___そう、それらは等しく正義であったのだ。

事件に巻き込まれた人々を助ける事も変わらない。それらは全て太一の正義しんねんであるのだから。

はそうして一人の人間の一生に幕を下ろしたのであった。

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