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2章

明けた朝

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「おはよう、よく眠れたかい?」

意地の悪い笑みを浮かべて高橋美沙はそう言った。

「またお前か……」

げんなりとした様子で六花はそう答える。

「なんだ、命の恩人に対してあまりにも不躾じゃないか。」

「お前が?命の恩人だと?」

確かに彼女は六花の命の恩人であるが、本当に恩人であるかと言われると何とも言えない。

「まあ、今日は君とわざわざお喋りする為に来たって訳じゃないからね。」

そう言って六花の心中などどうでも良いという雰囲気で彼女は話を進める。

「で、話って何だ?」

その横暴な態度に六花は苦虫を噛み潰したような顔をして問いかけた。

「賭けの事を覚えているかい?」

忘れる訳がないだろう。彼にとって二階堂凛奈のみが存在意義となっているのだから。

とてつもない不安が六花を襲う。彼女が持ちかけた賭けは、より早くそして正確に(この場合は六花のモチベーションを上げる為の)研究結果を出す為のものだ。

もし今、その期限を過ぎているのであれば彼女は殺されてしまう事となるだろう。否、もしそうで無いとしても高橋が凛奈の所在を知っているという事は危険な事であり、六花にとっては堪らない事であった。

「まあそう身構えるなよ。」

六花のその怯える様な憤慨する様な様子をみて高橋はそう言って六花をなだめようとした。

「何も今すぐに彼女の命を取る様な不躾な真似はしないよ。といってもそれはこれからの君の返答次第なんだけどね。」

残酷な事だ。今、六花の目の前にいる女性は決まり切った質問をして愉悦に浸っているのだから。まるで小さな虫を殺す無邪気な子供の様に。

「君にはもっと辛い思いをしてもらうよ。」

六花の視界は闇に包まれた。

   ***

「やあ、早かったね。」

校門にて、かの青年と少女は会合した。

「あんたこそ。昨日より30分は早かったわよ。」

それもその筈である。凛奈は昨日の放課後、目につく生徒全員に対して春野芽生を知っているかという事を聴いて回ったのだから。もし部活動が始まらなければきっと彼女はさらに遅くまで聞き込みを続けただろう。

「それじゃ行こうか。」

彼等はそう言って廃工場へと向かって行った。

「それで、山本は今日も学校から消えたのか?」

彼に対する生徒のブーイングといったら凄まじいものがあった。それもその筈である。なんといっても彼は何日も学校にろくに来ていないのだから。

「あんたの方こそなんか進展があった訳?」

期待はずれという風に溜息をつく那須太一に対して不機嫌そうに凛奈はそう言った。

「僕の方は任せて欲しい。」

真面目な顔でそう言うもんだから凛奈は何も言えない。

「そう……結局何も進展なかったね……」

「そんなに気落ちするなよ。僕の方はもうある程度のところまで情報は入手しているんだ。」

「じゃああんたのその情報を教えなさいよ。」

歯切れの悪い太一の返答に凛奈は納得いかない様子でそう突っかかる。

「それは出来ない。」

「なんでよ。」

「教えたら君はすぐにでも彼を助けに行くかもしれないだろう?」

そう言う太一の声には凛奈を憐れむ様な調子が含まれていた。

「そんな事……」

「いいや、貴女はその事を知るべきではない。」

そう言って廃工場の影から現れたのはロジャーであった。

「貴女は絶対に無理をするだろう。昨晩の様に。」

彼にとって彼女がその様に苦しむ姿を見る事は避けたい事であった。自身が死ぬ事よりも。

「勘違いして欲しく無い事は、君一人だけじゃ彼を助け出す事は出来ないって事だよ。」

そう言う太一の言葉には強い力がこもっていた。それもそうだろうでさえも一人で乗り込む事は恐れ、このように凛奈に協力を求めると言うような回りくどい事を行っているのだから。

「まあ、それよりも今は君の戦闘力をあげよう。」

廃工場はどこか冷たい夕方の光に照らされていた。

   ***

「もっと辛い思いってなんだよ。」

正直、ここまでの道程は六花にとっては辛いものが含まれていた。精神的にも肉体的にも。

「簡単な話さ。君にはもっと絶望してもらうよ。」

死ぬ事を望み、今を消化試合の様に生きている深雪六花を更に絶望させる事は可能なのか。

「それでは実験に移りましょう、お客様」

深雪六花の________魔人の日常が始まる。
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