D×DStrike〜俺と悪魔の反乱物語〜

2章

訓練

「目が覚めましたか、お客様？」

＿＿＿白い天井。
六花はこの天井を知っていた。

「グレートヒェン？」

「お客様、もう二度とあの様な自身の命を粗末に扱う様なことはしないと約束して下さい。」

少女はまたしても瞳を潤ませそう言った。六花が彼女が涙を流した姿を忘れられない様に、彼女もまた六花が舌を噛み切った姿が忘れられないのであろう。

「君が俺を……」

六花の口内は適切な処置がなされていた。

「いいえ、違います、お客様。治療を行ったのは高橋です。」

「高橋？」

「はい、お客様。貴方に賭けを持ちかけた女性の事です。」

思いも寄らないその返答に六花は息が詰まった。

「それではお客様、より正確なデータを入手するためにはよりお客様の魔力マナの反応を強くしなければなりません。」

「おい、ちょっと待てよ。なんで高橋は俺を助けたんだ？あいつが俺に言ったんだぜ……死ねって。」

「！？」

六花の頬がグレートヒェンによって叩かれる。

「何するんだよっ！」

六花はその口から血を流しながら、そう言った。

「失礼致しました、お客様。あまりにもお客様の傲慢な態度が癪に触りましたので。」

そう珍しく怒りをあらわにしたグレートヒェン。否、六花が知るうちでは珍しく。『私や彼女がそうしちゃ駄目だって言うのかっ！』高橋の言葉が六花の脳裏を過ぎる。

「………」

六花は驚きの余り声が出せないでいた。

「では、訓練を始めましょう。」

そこには、ただ自分の大切な人が汚された事を嫌悪する。深雪六花を嫌悪する一人の人間がいた。

   ＊＊＊

「まず、深雪六花が監禁されている施設だが、その全貌はまだ明らかになっていない。」

流石の那須太一でも六花が囚われている施設の役割はわからなかった。

「ただ、黒装束の事も考えに入れると、まず深雪六花の近くには強力な存在が潜んでいるだろう。」

＿＿＿山本晶。
凛奈から六花を奪った存在。

「もしかしたら、山本っていう男がいるんだけど、そいつが六花の事を監禁しているかもしれないわ。」

「あの男の事か。確かにあの男は魔力マナを扱えるようだが、黒装束に比べると戦闘力は低いぞ。」

ロジャーがそう言って情報を付け加える。

「そうかい…でも相手が誰であろうと君も少しは戦えたらいいからな……」

太一は月光を艶やかに纏った少女に向かってそう言った。

「そうはさせない。我が主人は私が守る。その必要は無い。」

そう言ってロジャーが立ちふさがる。

「でも君は事実彼女を守れなかったじゃ無いか……」

ロジャーの顔色が突如として変わる。純白の鬣が紅く燃え上がっているかのようである。

「貴様っこの小僧めが。好きなように言わせておけば……」

二人の間に剣呑な雰囲気が流れ始める。

「やめて、二人共。」

＿＿＿これ以上関わるな……命が惜しければ。
山本のそう言う台詞を思い出す。あの時凛奈は無力で。ただ連れ去られて行く六花を見ることしかできなかった。

「私は命なんか惜しくないわ。」

もとより凛奈は決めていたのだ。六花が連れ去られたあの夜から。六花を連中から取り戻すと。

「マスター、なんて事を。」

ロジャーが慌ててそう言う。

「あら、あなた私を守ってくれるんでしょ？」

「じゃあ、交渉成立だよね。」

そう言って暗闇の中、那須太一は微笑む。

「ええ。私に戦える力をちょうだい。」

もうあのような無様で無力な自分とはお別れだ。

「マスター……」

ロジャーのか細い声が工場に響いていた。

   ＊＊＊

「訓練って何をするんだ？」

有無を言わせないグレートヒェンの怒りにそれ以上の追求を中断して六花はそうありきたりな事を彼女に尋ねた。

「お客様の魔力回路の計測をクリアにするために今よりも濃度の濃ゆい反応が必要となります。」

「つまり、俺がこの体に慣れれば良いって事だな。」

何より今、何も自身の身を寄り掛けるものが無い六花にとってこれ以上グレートヒェンから嫌われる事だけは避けたかった。彼女以外ここには六花の身を案ずる者はいないのだから……

「はい、お客様。ですので今から魔力マナを用いた基礎的な行動を行って頂きます。」

そう言って彼女は六花を拘束具から解放した。

「ん～やっぱり体を満足に動かせるって良い事だね。健康って大事な事だよ。」

そう言って六花は久方ぶりの体を動かせると言う状況を満喫した。

「ところでさ、この拘束って意味ある？俺、毎回特殊性癖の持ち主みたいになってんだけど。」

「現在のお客様の状況ではその様な待遇を用意させていただく事はできません。」

グレートヒェンはもうこれ以上六花と不必要な会話をしたくは無いといった雰囲気をその冷徹な声に乗せる。

「では、まずは魔力マナを用いた身体の活性化についてお話致します。では、失礼します。」

そう言うとグレートヒェンは六花の顔をその両手で持ち上げる。

「＿＿＿っ」

六花は緊張した面持ちでそれに大人しく従う。彼女がそうしているだけで心臓の鼓動が早まり、血液が早く流れ、喉が異様に乾いていく気がした。

「具合はよろしいですか、お客様？」

六花は閉じていた目をそっと開ける。

「痛く…無い……」

不思議な事に六花の口から流れ出る血液は収まっていた。

「このように魔力マナを与える事で生物の細胞分裂を加速させる事が出来ます。」

グレートヒェンは自身の手袋を引き上げそう言った。

「どうやってそんな事が……」

「魔力マナは先程も申し上げた通り、人間には扱う事の出来ない代物です。しかし人間は松明に火を着け灯とした様に、道具を用いる事である程度の魔力マナを扱える事が出来るのです。」

彼女の手袋が淡く黒い粒子を纏っていた。

「これは“聖遺物”と呼ばれる特殊な物質を編んで作られた特別な手袋です。」

「じゃあお前達はソレを使って魔力マナを扱う事が出来るのか？」

「はい、お客様。しかし、この方法は人間にとっては余り良く無いものです。」

「俺は大丈夫って事か。魔人だから……」

六花はそう自虐的に笑ってみせた。

「はい、お客様。魔人は細胞分裂を魔力マナによって補う事が可能ですので。」

そう言うとグレートヒェンの拳が淡く光出す。

「それではお客様、『習うより慣れろ』と言うものですし。」

「え、おいちょっと待てよ。」

六花は突如として殴り掛かってきた少女に焦りながらそう言った。