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2章

協力者

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「情報収集ってどういうことだ?」

「おはようございます。深雪六花様。」

六花が途方に暮れていた時、突然背後から女性の声がした。

「私の名前はグレートヒェン。アマデウス=ヴァン=グレートヒェンです。以後お見知り置きを。」

「お、おう。よろしく。」

淡々とした自己紹介におどおどした様子で六花は彼女と挨拶を交わした。
その女性はその名前の通り目鼻立ちのくっきりとした麗人であった。

「それで、ここがどこなのか教えてくれないか?」

六花は目が覚めてから自分がどこにいるのかすら教えられずにいたのである。

「ここの詳細はお教えできませんがあなた様は山本氏と面識がありますか?」

「ああもうたっぷりと。嫌なくらいにありますよ。」

「そうですか。ではそれは山本氏ですか?」

「どのって......山本昌ですけど?」

全くとんちんかんな問答だ。はたから見たら六花がからかわれているだけだろう。

「失礼致しました六花様。今、あなた様の状態が分かりました。山本昌氏と面識があるのですね。」

「あなたのほうこそ山本を知っているんですか?」

六花は苦々しい表情でそう聞いた。

「はい。私は山本様の部下ですので。」

「ここは山本の拠点か何か?」

今まで受けてきた仕打ちを思い出すとさすがの六花でもこの結論にたどり着く。

「話が早くて助かります。」

「なるほど、じゃあお前たちが凛奈の命を握っているっていうのは本当なんだな?」

「はい。残念なことに。」

全く残念に思っていない様子で彼女は淡々とそう言った。

「あの......その山本のこと何だが......」

__山本昌は
確かに山本は芽生を傷つけたかもしれない。けれども彼は六花を“レヴィアタン”の脅威から救ってくれたことは事実なのだ。

「はい、お客様。山本昌の死なら存じ上げております。」

そういった彼女からは死者を弔う様な様子は全くと言って良い程見られなかった。

「何でお前はそんなに冷静でいられるんだ?」

身近な人の死に際してその様な態度をとる彼女を不気味に思い六花はそう聞いた。

「山本様は私の直接の上司ではありませんので。」

「でも、身近な人が死んだんだぞ!それをお前たちは物が壊れたから捨てた様に扱いやがって......」

「お客様は優しいのですね。でその様に取り乱して。」

「物.......だと?」

六花は目の前の麗人のいうことが理解出来ずにいた。

「何言ってるんだよ......山本が、山本昌が物な訳ないだろっ!」

「いいえ、お客様。彼は物なのですよ。我々は“ホムンクルス”なのですから。」

__ホムンクルス。
よく創作の類で登場するもの......

「“ホムンクルス”?山本やあなたが?そんな訳無いでしょう。」

六花はからかわれたのだと思った。にしても人の死で自分をからかってくるなどこの麗人は趣味が悪いと思っていた。

「お客様は黒い装束に身を包んだ物達をご存知ありませんか?」

__黒い装束。
忘れる訳が無い。何度もわらわらと湧いてくる絶対的な数の暴力。

「アレは同じ顔ではありませんでした?」

六花は何も言えなかった。凛奈の手を引いて走った時のことを思い出す。確かに黒装束達は皆同じ顔をしていた。

「ようやく信じてもらえたようですね、お客様。」

六花はとてつもない寒気に襲われた。

「では、実験を始めましょう。」

   ***

「『傲慢』を召喚する?」

凛奈は太一からその言葉を聞いて違和感を覚えた。なぜなら「傲慢」は黒装束達に喰い千切られたのである。

「ああ、そうさ。白い鬣のライオンを君は知っている筈だ。」

「何であんたがそこまで?」

凛奈は事情に妙に詳し過ぎる太一をますます怪しく思った。

「まあ君のことだから薄々気付いているだろうけど、僕も君達と同じような能力を持っているんだ。」

凛奈達と同じ能力。異能の力を持つものを彼の言葉を借りるなら召喚する能力。

「あのライオンは一体なんなの?」

凛奈はその疑問を口にした。

「アレは魔獣さ。

「魔獣?」

「そう魔獣。僕たち人間の周りは普段見えない小さな粒子が飛び交っているんだよ。」

__粒子。
光のようなものなのか?

「そしてその粒子は物の繊維なんかに絡まっていって一個の生命体を生むのさ。それがあのライオンだよ。」

「ちょっと待ちなさいよ!いきなりそんなこと言われて信じられる訳ないじゃない。」

凛奈は目の前の青年のとんちんかんな説明に追いつけずにそう言った。

「これを見てもそう言えるかい?」

そういう太一の手には紅蓮の焔を纏った剣が握られていた。

「何よ......ソレ?」

「これはその粒子が作ったものさ。いいかい、僕はその粒子を変換させることで様々な能力を使えるんだ。』

「私にも出来るっていうの?」

「残念だけど普通の人間には出来ないことだ。その粒子......紛らわしいから魔力マナと呼ぶけど、マナを扱うことはできないよ。」

「でもあんたは出来てるじゃない。」

凛奈は目の前にいる青年と六花を思い浮かべた。

は特別なのさ。僕らは遺伝子を変換してマナに干渉することが出来る特別な人間なんだ。だから君たち普通の人間は召喚するのさ。マナによってつくられた魔獣を。」

「違うっ!六花はあんたなんかと同じじゃないっ!「

「人間性の話をするなら確かに異なるだろうけど僕と深雪君は同じ種なのさ。」

そう言う太一の顔にちょっとした翳りが見える。けれどもその翳りも一瞬で引っ込んだので凛奈は気付かなかった。

「君達はだから契約するんだよ。報酬を求める魔獣なんかとね。」

__契約。
“サタン”が度々口にしていた言葉だ。

「でも残念なことに『傲慢』は死んでしまったわよ。」

「それなら大丈夫さ。魔獣は世界によって作られる存在だからね。消えはするが死ぬことはない。」

「なら、『傲慢』を再召喚することは可能?」

「ああ可能さ。その代わり媒体が必要となるけどね。」
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