上 下
14 / 86
2章

取引

しおりを挟む
「え、深雪君を知ってるの?」

二階堂凛奈は目の前の那須太一に向かってそう言った。

「ああ知っているよ。彼が昨晩何をしたかもね。」

「あんた山本の知り合い?」

「いや、違うよ。僕とあの人達を一緒にしないで欲しいな。」

「じゃあ、何で......」

「すまないけど君にそれは教えられない。ただ、僕は深雪六花を奴等から連れ出したいだけだよ。その点、君と僕とは利害が一致するんじゃない?」

「ふざけないで、こんな風に私を束縛して信用出来る訳ないじゃない。」

「じゃあ君は僕を信用しなければ良い。」

凛奈にとってこのまま信用せずに別れても良いことがない。凛奈一人であの無限に湧き出す黒装束や山本を相手にとって六花を助け出すことは不可能だった。目の前の少年は凛奈に決定権を渡すようにして、凛奈を脅しているのである。

「もっとも、ここで引き下がって平穏に戻っても良いんだよ。」

__凛奈が一位の世界。学校にはソレがあった。

「そんなこと、出来る訳ないじゃない。」

__恐怖に怯える凛奈の手を引いて助けてくれた六花。
あの時、凛奈の中で六花は“特別な存在となっていたのである。

「良い答えだ。もう解放しよう。」

__凛奈の体が軽くなる。

「話の続きをしても?」

「分かったわよ。あんたを利用してあげる。言っとくけど、あんたをまだ信用はしないからね。」

「ああ、それで良いよ。もっとも、僕は君を信用しているけどね。」

「拘束しといて何言ってんだか。」

「いいや、信用しているとも。だって君達は目的のためならなんだって出来るんだろ?

そう青年は蔑むように皮肉を込めて言った。

「おっと、僕の名前を教えていなかったね。僕の名前は那須太一。よろしく。」

太一がそう言って凛奈に手を伸ばす。

「君達が大好きな契約を結ぼう。深雪六花を奪取するという契約を。」

「分かったわ。しょうがないから結んであげる。というかあんたさっきから一体何なの?私のこと複数形で読んだり、どういうつもり?」

「君は何も知らないんだなあ。」

「逆にあんたは何か知ってるのよね?契約って言うんだから私に対価としてあんたの知ってること全部教えなさいよ。」

「君、何か勘違いしてないかい?本来君が頼む立場だろ?」

「あんたはさっき契約を結ぼうって言ったでしょ。じゃあ、あんたが言ってることの方がおかしいんじゃなくて?」

凛奈を六花を奪取するために使うならあのまま凛奈を拘束していれば良かった筈である。凛奈は太一のその矛盾を感じてそこにつけ込んだ。

「なかなか肝がすわってるね。じゃあ、深雪六花を無事奪取できたら教えてあげるよ。」

そう太一ははぐらかした。

「それで問題ないだろ?」

「いいえ、信用できないわ。今、ここで話なさい!」

凛奈はなおも引かない。

「まあ、どのみち少しは教えないと始まらないみたいだしね。良いよ。全てという訳にはいかないが必要最低限の知識は教えてあげようじゃないか。」

そう言う太一の言葉の後半部分には冷たい響きが籠っていた。

「良いわ。それで勘弁してあげる。その代わり、契約の見返りは後で別に貰うことにするわ。」

凛奈はそう言って、渋々納得した。といっても彼女にとって情報の入手と対価の約束を取り付けることが出来たので上々と言えた。

「じゃあ、君に『傲慢』を召喚して貰おうか。」

太一の口から黒装束から凛奈を守ろうとして奴等に食い千切られた『傲慢』の名が出た......

   ***  

「賭け?」

高橋は六花にそう言って賭けを持ちかけた。六花を思いのままに出来る彼女にとって賭けを持ちかけるメリットが思い当たらず六花は疑問で眉を寄せた。

「もしあなたが今から行う実験に耐えられることが出来たらあなたを解放してあげる。」

信じられないような好条件に六花は唾を飲み込む。

「ただし、もしあなたが少しでも不自然な行動を起こしたら...あの娘、殺すわよ。」

六花に釘を刺すように彼女はそう言った。

「この賭け、する?」

六花にとって好条件過ぎるこの状況を逆に怪しく思い六花は決断出来ずにいた。ただ、六花がこの状況から抜け出すことは不可能っぽいので、釘を刺した条件は問題にならない。

「おっと、ごめ~ん言い忘れてたけどこの賭け時間制限があるから。」

「時間制限?」

「実験をするんだから結論は出来るだけ早く出した方が良いでしょう。それに正確な実験結果を取りたいじゃない。それで、この賭け受ける?まあ、あんたに選択肢はないんだけどね。」

嘲笑うかのようにそう高橋が言った。六花には彼女がどうしてこのような賭けを持ちかけたのか未だに分からないでいた。

「肯定ってことで良いのよね。」

しばらく考えていた六花に高橋はそう言って六花を拘束具から解放したのだった。
六花の体を久々の解放感が突き抜ける。

「じゃあ、情報収集頑張って。さっきも言ったようにくれぐれもおかしなことは考えないことね。」

そう言って高橋美沙は六花の元を去っていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化】家に住み着いている妖精に愚痴ったら、国が滅びました【決定】

猿喰 森繁
ファンタジー
【書籍化決定しました!】 11月中旬刊行予定です。 これも多くの方が、お気に入り登録してくださったおかげです ありがとうございます。 【あらすじ】 精霊の加護なくして魔法は使えない。 私は、生まれながらにして、加護を受けることが出来なかった。 加護なしは、周りに不幸をもたらすと言われ、家族だけでなく、使用人たちからも虐げられていた。 王子からも婚約を破棄されてしまい、これからどうしたらいいのか、友人の屋敷妖精に愚痴ったら、隣の国に知り合いがいるということで、私は夜逃げをすることにした。 まさか、屋敷妖精の一声で、精霊の信頼がなくなり、国が滅ぶことになるとは、思いもしなかった。

ペットになった

アンさん
ファンタジー
ペットになってしまった『クロ』。 言葉も常識も通用しない世界。 それでも、特に不便は感じない。 あの場所に戻るくらいなら、別にどんな場所でも良かったから。 「クロ」 笑いながらオレの名前を呼ぶこの人がいる限り、オレは・・・ーーーー・・・。 ※視点コロコロ ※更新ノロノロ

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

自宅アパート一棟と共に異世界へ 蔑まれていた令嬢に転生(?)しましたが、自由に生きることにしました

如月 雪名
ファンタジー
★2024年9月19日に2巻発売&コミカライズ化決定!(web版とは設定が異なる部分があります) 🔷第16回ファンタジー小説大賞。5/3207位で『特別賞』を受賞しました!!応援ありがとうございます(*^_^*) 💛小説家になろう累計PV1,820万以上達成!! ※感想欄を読まれる方は、申し訳ありませんがネタバレが多いのでご注意下さい<m(__)m>    スーパーの帰り道、突然異世界へ転移させられた、椎名 沙良(しいな さら)48歳。  残された封筒には【詫び状】と書かれており、自分がカルドサリ王国のハンフリー公爵家、リーシャ・ハンフリー、第一令嬢12歳となっているのを知る。  いきなり異世界で他人とし生きる事になったが、現状が非常によろしくない。  リーシャの母親は既に亡くなっており、後妻に虐待され納屋で監禁生活を送っていたからだ。  どうにか家庭環境を改善しようと、与えられた4つの能力(ホーム・アイテムBOX・マッピング・召喚)を使用し、早々に公爵家を出て冒険者となる。  虐待されていたため貧弱な体と体力しかないが、冒険者となり自由を手にし頑張っていく。  F級冒険者となった初日の稼ぎは、肉(角ウサギ)の配達料・鉄貨2枚(200円)。  それでもE級に上がるため200回頑張る。  同じ年頃の子供達に、からかわれたりしながらも着実に依頼をこなす日々。  チートな能力(ホームで自宅に帰れる)を隠しながら、町で路上生活をしている子供達を助けていく事に。  冒険者で稼いだお金で家を購入し、住む所を与え子供達を笑顔にする。  そんな彼女の行いを見守っていた冒険者や町人達は……。  やがて支援は町中から届くようになった。  F級冒険者からC級冒険者へと、地球から勝手に召喚した兄の椎名 賢也(しいな けんや)50歳と共に頑張り続け、4年半後ダンジョンへと進む。  ダンジョンの最終深部。  ダンジョンマスターとして再会した兄の親友(享年45)旭 尚人(あさひ なおと)も加わり、ついに3人で迷宮都市へ。  テイムした仲間のシルバー(シルバーウルフ)・ハニー(ハニービー)・フォレスト(迷宮タイガー)と一緒に楽しくダンジョン攻略中。  どこか気が抜けて心温まる? そんな冒険です。  残念ながら恋愛要素は皆無です。

悪役令嬢の私は死にました

つくも茄子
ファンタジー
公爵家の娘である私は死にました。 何故か休学中で婚約者が浮気をし、「真実の愛」と宣い、浮気相手の男爵令嬢を私が虐めたと馬鹿げた事の言い放ち、学園祭の真っ最中に婚約破棄を発表したそうです。残念ながら私はその時、ちょうど息を引き取ったのですけれど……。その後の展開?さぁ、亡くなった私は知りません。 世間では悲劇の令嬢として死んだ公爵令嬢は「大聖女フラン」として数百年を生きる。 長生きの先輩、ゴールド枢機卿との出会い。 公爵令嬢だった頃の友人との再会。 いつの間にか家族は国を立ち上げ、公爵一家から国王一家へ。 可愛い姪っ子が私の二の舞になった挙句に同じように聖女の道を歩み始めるし、姪っ子は王女なのに聖女でいいの?と思っていたら次々と厄介事が……。 海千山千の枢機卿団に勇者召喚。 第二の人生も波瀾万丈に包まれていた。

逆行から始まる〝ざまぁ〟成り上がり人生 ~無価値と呼ばれ家を追放されたが狙い通りである~

十本スイ
ファンタジー
地方領主の子供として生まれたアオスには、父親や兄弟のような槍を扱う才や魔法の才が一切無かった。そのため『無価値』だと周りから言われていた。それだけならまだ良かったが、アオスには生まれた時から特別な能力があったのだ。それは――妖精が見えて話せること。妖精は誰も見ることができない。だからアオスが誰もいないところに向かって話している姿を見た者たち全員が正気ではないと言う。そんな不気味な存在であるアオスは、領主として出世を願う父や兄弟たちには邪魔でしかなかった。そのためアオスは、幼い頃から外出を許されず軟禁され続け、成人したのちに家から追放されてしまう。しかし外でも、アオスが妖精と話している姿を見た者たちによって差別を受け、あろうことか犯罪をなすりつけられ絶海の孤島に島流しにされるのだ。これ以上、妖精に迷惑をかけられないからと、傍に居続けてくれた友達である妖精を自分から拒絶し、島でたった一人孤独に七十年以上を過ごすことになる。そしていよいよ寿命で死ぬ間際、多くの妖精たちを従え一人の女性が姿を見せる。彼女は泣きながら「間に合わなくて、ごめんなさい」と言う。何故彼女が謝っているのかなんて分からないアオスは、そのまま静かに命の幕を下ろした――はずだったのだが、気づけば九歳の頃の自分に意識が戻っていたのである。当然アオスは、自分に何が起こったのかなど分からない。だがそこへ、アオスは奇妙な声に導かれ、ある場所へと訪れることになる。そこには、死に際で自分の傍にいた女性がいたのであった。彼女は自身を『妖精女王』だと告げる。これは魔法を使えない一人の少年が、妖精を導く『導師』として成り上がっていく逆行ストーリーである。

辺境伯のお嫁様

cyaru
ファンタジー
しぶしぶ結んだ婚約を 煌びやかな夜会で突然、第三王子に婚約破棄を突き付けられた令嬢。 自由の身になれたと思ったら、辺境の地でお飾り妻をやるはめに。なんてこったー! かなりユルい想像上の話とお考え下さい。 現実っぽく時折リアルをぶっこんだりしていますがあくまでも想像上の話です。 誤字脱字のご連絡は大変嬉しいです。感謝いたします。 <(_ _)>

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...