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2章
彼女のいない世界
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「流石に今のは傷ついたよ。」
山本は凛奈を馬鹿にした様子でそう言った。
「なんであなたがここにいるのよ!」
「なんでって、俺はこの学校の教員だろ?それならここにいて当然じゃないか。」
「はぐらかさないでっ!あなた達は一体何者なの?」
「教員さ。__僕はね。」
「ふざけるナァッ!」
凛奈はなおも話を逸らす山本にその怒りをぶつけた。
「え?なに?二階堂さんどうしたの?」
そう言うクラスメイトの声が聞こえてくる。
「君はこれ以上関わるな。君の命が、友人の命が惜しければな。」
山本はそう凛奈にだけ囁いた。
「おい君、二階堂さん具合が悪いみたいだから教室に連れて行ってあげて。」
「......っ、よくもいけしゃあしゃあと......」
凛奈は同級生の命を人質とする山本に激しい嫌悪感を覚えた。凛奈は込み上げてくる憎悪の念と葛藤した。今それを山本にぶちまけて最悪の結果を招くことは避けなければ。
「絶対に許さない」
山本が六花を連れ去ったこと__その憎悪を出来る限り山本にぶつけるように凛奈はそう誰にも聞こえないほど低い声で吐きかけた。
「二階堂さん、行こう。」
凛奈はそう言われてクラスメイトと教室に向かう途中、
「ねえ......」
凛奈は彼女が六花のことを覚えているか聞こうとした。そのことが先程から気になってしまって仕方がない。山本との胸糞悪くなる話が皮肉にも凛奈を冷静にしていた。
「何?」
__いやだ。聞きたくない。皆んなは私の事を覚えていた。けど、春野さんのことは忘れていた。もしかしたら深雪君も......
凛奈と芽生との違いには明確なものがあった。それは、死んでいるかいないかというものだった。六花が死んでいるかもしれない。その時彼女は「深雪六花って誰?」と言うかもしれない。その最悪の結果を知ることを凛奈は恐れてしまった。
「ううん。なんでもない。ほら、早く教室行こ!」
「二階堂さん大丈夫?」
「うん。ヘーキ、ヘーキ。さ、ほら」
凛奈は無理に明るく振舞ってそう言った。
***
「やあ、元気にしていたかい?六花君。」
「元気な訳ないだろ!こんな拘束具つけられて!」
「アハハっ。そんだけ元気があれば充分だね。」
そう彼女__高橋美沙は言った。
「で、昨日のことだけど、一晩考えてどうするのか結論は出た?」
実験__何をするのかすら分からない六花に対してどうやって結論を出せと言うのか。だが、二階堂凛奈__彼女の命を守るということは六花にとっては迷いようもなく、その答えは決まっていた。
「ああ、協力してやるよ。その実験になぁ!」
六花は迷う間もなくそう言った。
「その返事が聞けて嬉しいよ。」
高橋はそう言うと心底嬉しそうな声音で、
「じゃあ、賭けをしようか、六花君!」
__ソウ言ッタ。
***
「起立ー、気を付け、礼っ。」
授業の開始の号令が教室に響く。
__10:50
三限目の授業は現代文で教師は玉藻清香だ。
__11:33
授業はもう終わろうとした時、
「あのね、今日山本先生なんだけど、なんでも急用が入ったみたいで終礼は私が行います。」
「えー、またかよォ」「やる気あんのかな、アノ人」「信じらんねぇよな」と言ったクラスメイトの声が散々に飛び交うが凛奈にとっては大変な出来事だった。
「起立ー、気を付け、礼。」
授業終了の号令と共に凛奈は玉藻につめかける。
「先生、山本先生のことなんですけど何か知りませんか?」
「ごめんね。私、そのことについて何も知らないの。先生に聞いてみても教えてくれないし......」
玉藻はそう気のない返事をする。
「はあ、分かりました。失礼しました。」
__おかしい。
凛奈にはこの山本の早退が怪しく思えて仕方なかった。しかし、凛奈にはどうすることも出来なかった。どうすれば良いのか分からないまま、凛奈は終礼を迎えた。結局、六花のことは聞けず終いだった。
「以上で終礼を終わります。皆さん、気を付けて帰るように。」
__どうしたものか。
凛奈は途方に暮れていた。連れ去られた六花のことを考えると気が気でない。
「ハア、参ったものね......」
凛奈が途方に暮れて帰宅しようと校門を出た時、
「君、何を悩んでいるんだい?」
一人の青年が凛奈に声を掛けてきた。
「僕で良ければ話を聞こうか?」
凛奈とは異なる制服を着た青年はそう言った。
__なんなのコイツ。
凛奈は今声を掛けられた青年を怪しんだ。
「ここじゃあなんだし、喫茶店にでも入ろうか?」
__入る訳ないだろ、馬鹿。
凛奈はナンパしてきた青年に向かってそう言おうとした時、
「はい。」
__嘘?!
自分の意思とは別に彼女はそう言っていた。
「うん、行こうか。」
凛奈の体はその意思とは別に彼のあとを追っていく。
「さあ、悩みを話してよ!」
__コイツ、異常だ。
凛奈はかつて目の前で圧倒的な破壊を行った“サタン”のことを思い出した。この青年は山本の関係者かもしれない__凛奈はそう思った。彼女の体の自由を奪うという圧倒的な力を前に凛奈はそう思った。
「あなた、誰?」
「それが今の君の悩みかい?違うだろ?」
青年は見透かしたかのようにそう言った。
「深雪六花のことなら僕、知っているよ。」
山本は凛奈を馬鹿にした様子でそう言った。
「なんであなたがここにいるのよ!」
「なんでって、俺はこの学校の教員だろ?それならここにいて当然じゃないか。」
「はぐらかさないでっ!あなた達は一体何者なの?」
「教員さ。__僕はね。」
「ふざけるナァッ!」
凛奈はなおも話を逸らす山本にその怒りをぶつけた。
「え?なに?二階堂さんどうしたの?」
そう言うクラスメイトの声が聞こえてくる。
「君はこれ以上関わるな。君の命が、友人の命が惜しければな。」
山本はそう凛奈にだけ囁いた。
「おい君、二階堂さん具合が悪いみたいだから教室に連れて行ってあげて。」
「......っ、よくもいけしゃあしゃあと......」
凛奈は同級生の命を人質とする山本に激しい嫌悪感を覚えた。凛奈は込み上げてくる憎悪の念と葛藤した。今それを山本にぶちまけて最悪の結果を招くことは避けなければ。
「絶対に許さない」
山本が六花を連れ去ったこと__その憎悪を出来る限り山本にぶつけるように凛奈はそう誰にも聞こえないほど低い声で吐きかけた。
「二階堂さん、行こう。」
凛奈はそう言われてクラスメイトと教室に向かう途中、
「ねえ......」
凛奈は彼女が六花のことを覚えているか聞こうとした。そのことが先程から気になってしまって仕方がない。山本との胸糞悪くなる話が皮肉にも凛奈を冷静にしていた。
「何?」
__いやだ。聞きたくない。皆んなは私の事を覚えていた。けど、春野さんのことは忘れていた。もしかしたら深雪君も......
凛奈と芽生との違いには明確なものがあった。それは、死んでいるかいないかというものだった。六花が死んでいるかもしれない。その時彼女は「深雪六花って誰?」と言うかもしれない。その最悪の結果を知ることを凛奈は恐れてしまった。
「ううん。なんでもない。ほら、早く教室行こ!」
「二階堂さん大丈夫?」
「うん。ヘーキ、ヘーキ。さ、ほら」
凛奈は無理に明るく振舞ってそう言った。
***
「やあ、元気にしていたかい?六花君。」
「元気な訳ないだろ!こんな拘束具つけられて!」
「アハハっ。そんだけ元気があれば充分だね。」
そう彼女__高橋美沙は言った。
「で、昨日のことだけど、一晩考えてどうするのか結論は出た?」
実験__何をするのかすら分からない六花に対してどうやって結論を出せと言うのか。だが、二階堂凛奈__彼女の命を守るということは六花にとっては迷いようもなく、その答えは決まっていた。
「ああ、協力してやるよ。その実験になぁ!」
六花は迷う間もなくそう言った。
「その返事が聞けて嬉しいよ。」
高橋はそう言うと心底嬉しそうな声音で、
「じゃあ、賭けをしようか、六花君!」
__ソウ言ッタ。
***
「起立ー、気を付け、礼っ。」
授業の開始の号令が教室に響く。
__10:50
三限目の授業は現代文で教師は玉藻清香だ。
__11:33
授業はもう終わろうとした時、
「あのね、今日山本先生なんだけど、なんでも急用が入ったみたいで終礼は私が行います。」
「えー、またかよォ」「やる気あんのかな、アノ人」「信じらんねぇよな」と言ったクラスメイトの声が散々に飛び交うが凛奈にとっては大変な出来事だった。
「起立ー、気を付け、礼。」
授業終了の号令と共に凛奈は玉藻につめかける。
「先生、山本先生のことなんですけど何か知りませんか?」
「ごめんね。私、そのことについて何も知らないの。先生に聞いてみても教えてくれないし......」
玉藻はそう気のない返事をする。
「はあ、分かりました。失礼しました。」
__おかしい。
凛奈にはこの山本の早退が怪しく思えて仕方なかった。しかし、凛奈にはどうすることも出来なかった。どうすれば良いのか分からないまま、凛奈は終礼を迎えた。結局、六花のことは聞けず終いだった。
「以上で終礼を終わります。皆さん、気を付けて帰るように。」
__どうしたものか。
凛奈は途方に暮れていた。連れ去られた六花のことを考えると気が気でない。
「ハア、参ったものね......」
凛奈が途方に暮れて帰宅しようと校門を出た時、
「君、何を悩んでいるんだい?」
一人の青年が凛奈に声を掛けてきた。
「僕で良ければ話を聞こうか?」
凛奈とは異なる制服を着た青年はそう言った。
__なんなのコイツ。
凛奈は今声を掛けられた青年を怪しんだ。
「ここじゃあなんだし、喫茶店にでも入ろうか?」
__入る訳ないだろ、馬鹿。
凛奈はナンパしてきた青年に向かってそう言おうとした時、
「はい。」
__嘘?!
自分の意思とは別に彼女はそう言っていた。
「うん、行こうか。」
凛奈の体はその意思とは別に彼のあとを追っていく。
「さあ、悩みを話してよ!」
__コイツ、異常だ。
凛奈はかつて目の前で圧倒的な破壊を行った“サタン”のことを思い出した。この青年は山本の関係者かもしれない__凛奈はそう思った。彼女の体の自由を奪うという圧倒的な力を前に凛奈はそう思った。
「あなた、誰?」
「それが今の君の悩みかい?違うだろ?」
青年は見透かしたかのようにそう言った。
「深雪六花のことなら僕、知っているよ。」
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