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2章

終わりノ始まり

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「芽生......」

六花は目の前の焼きただれた彼女に向かってそう言った。

「............」

六花に返事は返ってこなかった。
そこにはただ燃えていく少女の死体があった。

「嘘だ......嘘だ、嘘だ......」

六花は何度も後悔した。“サタン”の、悪魔の誘惑にのってしまったことを。

「違うんだ、芽生......あれは俺じゃなくて......」

六花は何度も懺悔した。芽生を救うと言ったのに、彼女を殺してしまったことを。
先程、六花の肉体を操っていたのは“サタン”であった。
かの魔王は六花の運命を、芽生の命を弄んだのである。

『な、彼女に会えただろ?救えただろ、六花。』

朦朧とした意識の中聞いた言葉を六花は思い出す。

「何が救えたっていうんだよ......」

六花は自責の念に駆られる。

「芽生は......死んだじゃないか。おかしいだろ、“サタン”っ。」

六花は憤怒した。自分を騙し、芽生を殺した“サタン”に。何もできなかった自分に。

『全て君の怠惰が招いたことだよ深雪くぅん。』

“レヴィアタン”から聞こえた山本の言葉を思い出す。

「芽生がいない人生なんて......もう......」

「深雪君!」

六花を呼ぶ声がする。小さく怯えてか弱い声がする。

「芽......生......?」

そこには芽生と同じく肩ほどまで髪を伸ばした少女がいた。

「深雪君!!」

少女は六花めがけて駆けてくる。

「芽生......芽生。」

六花は彼女を抱きかかえる。

「えっ!?」

六花から乾いた呻き声が漏れた。

「よかった。生きてる。生きてるのよね、深雪君!」

__彼女ハソウ涙ヲ讃エテ心底嬉シソウニ言ッタ。

「二階堂......」

六花の目の前には六花が望んだ少女ではなく、二階堂凛奈がいた__

「よっかた、深雪君!生きてて......」

違う。違う。そんなわけがない。俺は芽生に呼び出されて......

「なあ、二階堂......芽生はどこに?」
「深雪君っ......」

凛奈は何も答えない。ただ、彼女の瞳に宿るソレが答えを告げていた__

「そんな......嘘だ。いや。いやだ、いやだ......」

六花はそう泣き叫ぶ。何度も。何度も......

「!?」

六花の顔に柔らかなものがあたる。懐かしい、暖かな......人肌の温もりがする。

「......二階堂っ?」
「疲れたね。大変だったね。でもね深雪君、君は......私を救ってくれたよ......」

そう言う二階堂の瞳には疲れ果てた六花が映っていた__

「君は何も救えなかったって言うけれど、ちゃんと私を救っているんだよ......」

「二階堂、俺......疲れたよ......」

「うん。特別に肩を貸してあげる。」

彼女の優しい声が聞こえる__

「あり......がと......」

六花はその優しさに包まれたまま、眠りについた__

   ***

『C班、突撃準備整いましたっ!』

図太い部下の声が無線から聞こえる。

『よし。失敗は許されないぞ......突撃っ!』

そう__は言い放った。

『手をあげて、降伏しろッ!』

そう男は凛奈に言った。

「黒装束......?!」

凛奈の顔が恐怖に引き攣る__
そこには、黒装束とをした男がいた__

『やあ、二階堂くぅん。久しぶりだね~。』

見上げるとそこには、先程死んだ筈のがいた。

「山本......何で?あなたは死んだはずじゃ......」

「私は死んでいないよ。」

山本は凛奈にそう言うと、冷めた声で、

「さあ、彼を渡して貰おうか。」

__ソウ言ッタ。

「ふざけないで!何で私があんた達に深雪君を渡さなきゃならないのよ。渡せって言って、『はいそうですか。』と言うとでも思ったの?」

「もちろん、準備はしてきたよ。」

山本は酷く歪んだ笑みを浮かべてそう言った。

「やれ」

そう言ったソレはおおよそ人とは思えぬ冷たい声でそう言った__

「なんで......なんで深雪君がこんな目に遭わなきゃいけないのよ!」

凛奈は山本の背後から現れた黒装束達に取り押さえられる。

「......っ............っ......」

『諦めるんだな。二階堂君。』

山本達は凛奈からそう言って六花を奪い闇に消えていった__

『これ以上関わるな......命が惜しければな。』

そう言う山本には凛奈を労わる色が見られた__

「いや。待って、待ちなさいっ!山本ォ!」

凛奈は六花を抱えて消えていく山本に向かってそう叫んだ。

   ***

__見たことのない天井。

「深雪六花__コード507、脈拍安定、意識が回復しました。」

六花の周りをせわしなく動きながら女医はそう言った。

「ここは?

朦朧とした意識の中、六花はそう尋ねた。

「目を覚ましたのね、六花君。」

彼女は六花に安堵した様子でそう言った。

「二階堂......二階堂はどこだっ!」

六花は二階堂がいないことに違和感を感じた。

「彼女はここにはいないわ。けど安心して、彼女は安全よ。」

彼女は六花に優しくそう言った。

「けれどね、彼女が安寧な生活を送れるかどうかはあなた次第よ、深雪六花。」

彼女は厳しい口調で六花にそう言った。

「どう言うことだ......?」

六花を不安が襲う。

「実験に協力してもらうわ。」

__彼女は残酷な笑みを浮かべてそう言った。
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