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1章

再会

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『簡単な話さ。“祓う”っていうのはね、人間と悪魔との契約を断ち切る一番理想的なことなんだよ。
しかし、“奪う”ということは一時的だけど契約を断つということなのさ。“レヴィアタン”はその特性上、“祓う”ことはできなくても、“奪う”ことなら可能なんだよ。
でもね本来、悪魔と人間との間で酌み交わされる契約はね、破れないものなんだよ。その本来出来ない事をやるからにはそれ相応の犠牲が必要となる。』

少女はこちらにナニか求めるかのように上目遣いでそう言った。

『覚悟は良いかい__深雪六花?』

少女はまたこちらにその白い手を差し伸べてきた__

「芽生......芽生......芽生......芽i」

六花は縋るかのようにその手を抱き込んだ。

『君、女の子の前で別の娘の名を呼びながら手に抱きつくなんて女タラシだね。
いや、この場合無様と言うべきかな?』

少女ハ上機嫌ニソウ言ッタ

『良いよ......僕だって悪魔だ。僕、君みたいな破滅的な人間大好きさ!
さあ、契約が更新された__塑逆そぎゃくの始まりだ__創造主よ!』

ソレは高揚した様子で冷酷にそう言った。

「芽生......芽生......m」

『ルシフェル、僕の名前さ__ルーシーと呼んでおくれ、六花。』

「芽生......芽生......」

『ルーシー、ルーシーさ!六花』

「芽生......芽i......」

『ルーシー、ルーシーだよ。』

優しく六花にソレはそうささやいた。

「芽生......」

『ルーシーだよ。』

「芽生......芽生......芽生......芽生......芽生......m......」

六花は駄々をこねるかのように何度も何度も最愛の人の名前を呟いた__

まるで、忘れてはいけない__今にも忘れてしまうからその分愛を捧げたい__そう言うかのように__六花は何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度もソウ囁く。

「ルー......シィー......?」

『そうさ、ルーシーだよ!六花!』

「ルーシー......ルーシー......ルーシー......r...m......」

『うん、契約更新だね!っ。』

「ルーシー......ルーシー......r」

『ウンウン、“自分の子”がママって言ってくれたみたいで嬉しいよ、六花っ!』

六花から、芽生が消えた__

『さあ、を助けに行こうか、六花っ!』

__ショウジョハヒドクワラッテソウイッタ。

      ***

バァンッ!

目の前を過ぎ去って行った黒い粒子が後ろの壁に刺さり激しい衝撃音とともに校舎の壁が崩れる。

二撃...三撃....無数の斬撃が襲いかかってくる。

「埒が開かないっ」

二階堂凛奈は銀髪をなびかせながらそう言った。

二階堂はこの状況に参っていた。
昨晩変な声を聞いたかと思うとその後も声は彼女の内側に響いてきた。
そしてこの状況である。
凛奈を襲っているモノは皆、黒い装束を纏っていた。そして、彼等は皆、“同じ顔”をしていたのである。
“同じ表情”ではなく、“同じ顔”をしていた。
凛奈は六花と別れた後、一人で教室に残って勉強しようと思い向かった。
そして、この状況である。黒装束の男達に襲われている。
襲われている間、凛奈は酷い頭痛がした。

「ああ、もう鬱陶しいわね!何なのよ!」

自分はおかしくなってしまったのだろうか?
“同じ顔”の、無数の黒装束の男達に襲われて気が狂ったのだろうか?
頭痛は凛奈を確実にむしばんでいく。


『__汝、力を欲するか__』


不気味な声が、はっきりと聞こえる。

「あなた、誰?何者よっ!答えなさい!」

刹那、周囲が光に包まれ凛奈の目の前に怪物が現れた。
凛奈の倍程ある体躯たいくをしならせ、純白のたてがみをふるわせ、ソレは凛奈を射殺すように睨んでいた__

「純白のライオンっ...?」

『我は、「傲慢」を冠する守護者。もう一度問おう、汝、力を欲するか__』

「力......?助けてくれるの?そうなら早く助けなさいっ!」

凛奈は「傲慢」そう目の前の怪物に向かって言い放った。

ドォンッッ。

直後、凄まじい衝撃波が凛奈から発された。

「な、何よ?!これ?」

凛奈の周囲一帯が陥没しており、黒装束の男達の幾人かが見るも無残な状況となって弾け飛んでいた。

「髪が......髪がない!」

凛奈の腰まで伸ばしていた銀髪は肩ほどまでに減っていた。

『ムシャ、ムシャ。ムシャムシャ。』

凛奈の隣で先程の惨状を引き起こした怪物が銀色に妖艶に月光を反射している髪の毛を咀嚼そしゃくしていた。

「な、何してくれてんのよ。この変態っ!」

『うん?人間よ、なかなか良い味だぞ?』

「五月蝿いわよ、この変態っ!人の髪を食べるなんて!特殊性癖にも程があるでしょっ!」

凛奈は自分の髪を食べる目の前の変態......“変怪”を睨みつけた。

『力を貸してやったんだ。何か対価を求めるのは普通だろ?』

こちらはこちらでどこ吹く風。この目の前の吹けば飛ぶような存在である人間が何を俺様に楯突くっといった様子である。

「乙女のじゅんじょうを食べておいて、言い訳なんて許さないんだからっ!」

なかなかどうして、二階堂凛奈という少女は肝が座っている目の前の圧倒的存在、命の恩人にこうも悪態をつけるのだから。一種の才能である。

「そうも言ってられないようだぞ、凛奈。」

先程吹き飛ばしたはずの黒装束達がいつの間にか態勢を整えて凛奈達に襲いかかってくる。

「う、嘘でしょ?!」

「退避するぞ、凛奈。」

怪物は凛奈を背中に乗せて颯爽と走り出す。

逃げる怪物__
追う黒装束__

「キャァァァァーーーーーー」

流石の凛奈も堪えた様子で怪物の背中の上で目を回している。

そこにふと、

「春野......芽生......?」

凛奈は視界の端に春野芽生を見つけた
凛奈は今まで怪物の背中に乗っていて、一人の人影も見ていなかった。

「戻って。いや、戻りなさい。」

凛奈は不安に思った。黒装束達は無抵抗の凛奈を襲っていた。それが意味することは春野芽生が危ないとゆうことだ。

『戻るってあの中にか?』

凛奈達の後方には無数の黒装束達がいて、今もなお無数の斬撃を飛ばしてきている。

「いいから、戻りなさい。あら、それとも怖じ気づいたのかしら?」

挑発的に凛奈はそう言った。

『足が震えているぞ。まあ、その「傲慢」に免じて戻ってやろう。髪留めでも無くしたのか?』

そうからかって怪物は黒の煙に向かって突っ込んでいった。

__魂。__救済を。__助けて...

黒装束達に囲まれ凛奈は無数の助けを求めるかのような声を聞いた。

『大丈夫か、凛奈?』

凛奈の精神が取り込まれようとした時、怪物がそう言って凛奈を起こした。

「え、ええ。大丈夫よ。」

凛奈は無理矢理笑いを浮かべさせてそう言った。

『落し物はアレか?』

いた。春野芽生がいた。凛奈が生まれて初めて憧れた存在がいた。

「春野さん、手を握って!」

凛奈がそう言って手を差し伸べた先には、

「山本先生?深雪君?」

そこにいる筈のない山本と、血だらけの六花がいた__
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